80-32 戦術・戦略
3つ目の作業台の上に載っていたもの。
「なんだろう、これは?」
アーノルトには馴染みのない形状をしたもの。
長さは1メートル、直径は10センチほど、片側が尖っており、反対側は開口部になっている。
そして周囲に小さな翼が幾つも生えていた。
* * *
「これは……」
仁には、どう見てもそれは『ミサイル』にしか見えなかった。
そのことを『コマンド1』を通じてアーノルトに説明する。
* * *
「なるほど、これは何らかの方法で開口部から気体を噴射し、その反動で空を飛ぶものなのか。そして敵に向かって飛び、ぶつかると爆発する……か。なかなかエグい兵器だね。いや、兵器なんてものは皆そういうものか」
それにしても、飛翔体といえば熱気球止まりだった700年前に、ロケットエンジンと思われる推進機を積んだミサイルが存在するとは仁も思わなかったのである。
* * *
「一度も使われたことのない兵器……だろうな。そして完成前に『魔素暴走』が起きて、開発が止まったんだろうな」
『ハリケーン』内で仁はひとりごちていた。
そして、その『ミサイル』を実際に見てみたい、とも思う。
だが現場は酸素がほとんどないという。生身の仁は行くことができない。
「ここは分身人形を使うしかないか……」
「ですがお父さま、その場合、蓬莱島の存在をアーノルトさんたちに説明する必要が出てきませんか?」
「うん、礼子の言うとおりだろうな。……いきなり仁Dがあそこへ行ったら、どこに積んでいたのか、となるだろうし、彼らが戻って来た時、俺はここじゃなく蓬莱島にいるわけだし」
だが、と仁は続ける。
「アーノルトを『仁ファミリー』に入れればいいだろう」
「それは、確かに」
そこへ、老君も後押しをする。
『御主人様、礼子さん、アーノルトさんを『ファミリー』に加入させることに問題はないと思います。彼をずっと観察してきましたが、よき友人となってくれています』
「そうか。よし、このゴタゴタが終わったら彼らを蓬莱島へ招待し、『仁ファミリー』に紹介しよう」
そう決めた仁は、『ハリケーン』内の転移門で蓬莱島に戻り、『分身人形』である仁Dを起動した。
そして仁Dは『ハリケーン』に戻り、礼子とともに地下施設を目指したのである。
* * *
もちろんアーノルトたちには『コマンド1』を通じて知らせてあるので、仁Dと礼子が現れても驚くことはなかった。
「やあ、ジン……でいいのかな。君も来たんだね」
「うん、アーノルト。このボディを操縦しているのは俺だから、『ジン』でいいよ」
「わかったよ。……で、これを見に来たのかい?」
「うん。……どう見てもミサイルだなあ……」
「そのミサイル、っていうのはどういうものなんだい?」
「ミサイルっていうのは……」
目標に向かって自ら進路を変えながら飛んでいく兵器のことだ、と説明する仁D。
「なるほど。これが『最終兵器』なのかな?」
「それはわからないけど、熱気球からいきなりミサイル……というかロケット推進になってしまったことが驚きだ」
そう言いながら、仁Dは『ミサイル』の推進機を解析していく。
「うーん……」
「どうだい?」
「これは、『密閉された容器の中で』『魔法による爆発を』『連続で起こして』『推進力とする』エンジンだな……」
原理的にはまさしくロケットエンジンである。
ただ、燃料が『自由魔力素』であり、爆発は酸素との反応ではなく『火の爆弾』の魔法を使っているらしいことが異なる。
「でもそうか……」
改めて考えてみると、気球からロケットエンジンという急な発展をした理由についてわかるような気がした仁D=仁である。
「固体燃料とか液体燃料とか酸化剤とか一切考えなくていいんだものな……」
ジェットエンジンよりもさらに簡単な原理なのがロケットエンジンである。そう、原理だけは。(制御は別)
空気を入れて膨らませた風船が飛んでいくのも、海水を吸い込んでから吐き出し、その反動で泳ぐタコやイカもロケット推進なのだから。
かつて仁は風魔法の反動を消さずにマギジェットエンジンに応用したが、より簡単なのはこちらであろう。くどいようだが、制御は別として。
「ただ、『火の爆弾』を使う以上、エンジン本体は加熱されるので、耐熱性のある材質が必要になるだろうな」
『火の爆弾』は魔力素を一時的に火に変え、さらに爆発に変化させるもの。
ゆえに魔力素を供給してやれば飛び続けることができるわけだ。
燃料タンクが必要ないということは、小型化が容易で、飛行距離も長いということ。
「兵器としてみたら、かなり強力だろうな」
仁Dの説明を聞いてアーノルトもそこそこ理解したようだ。
「だけどこれは試作だろうし、誘導装置が搭載されていないよ」
仁Dは解析結果を説明した。
狙った相手を追いかけていかなければミサイルとは言えない。それは単なるロケット弾だ、と仁D。
「だけど、ここで『魔導ロケットエンジン』が発明されたらしいことは間違いないな」
発明した技術者に会ってみたかった、と仁Dは言った。
「それは僕も同感だなあ」
アーノルトも同意したのである。
* * *
「さて、せっかくやって来たんだから、他のものも解析させてもらおうかな」
仁Dは残りの2つ……『砲』と『バズーカ砲』の解析を始めた。
「うーん……どちらにも『弾丸』がないんだな」
「そうなんだよ。どんなものを発射するつもりだったのか、がわからない」
「だなあ……」
ここでアーノルトは、少し前にゴーレムから魔結晶を2個、受け取ったことを思い出した。
そこでそれを取り出し、仁Dに見せてみる。
「ジン、調べられるかい?」
「やってみよう。……『読み出し』……」
仁Dはその1つに工学魔法『読み出し』を掛ける。
これにより、魔結晶から中に蓄えられた情報が読み出されていった。
「うわあ、これは……」
「これって、重要機密……軍事機密じゃないのかな?」
当時の『ディナール王国』がどのような戦略を立てようとしていたのか、が見て取れた。
それによれば、『ミサイル』『大口径砲』『大型戦闘用ゴーレム』『ゴーレムが持つロケットランチャー』を使う戦術・戦略についてのシミュレーション結果が記録されていたのである。
「まあ軍事機密といってももうとっくに無効だろうし」
「それもそうだ」
とはいえ、この情報は『アヴァロン』で管理してもらうのがいいのではないかな、と思った仁D=仁であった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
本日は
異世界でホムンクルスになっていたのでスローライフを目指す
はお休みさせていだていております。
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8月15日(日)早朝から16日(月)昼過ぎまで不在となります。
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