80-31 戦時式
通路東側の扉を開いた先にあったもの。
「これは……」
それは、試作ゴーレムの廃棄場所とでもいうべき部屋だった。
「ひどいな……」
戦闘用と思われるゴーレム。
中には、アーノルトが知らない型のものも多数あった。
そして、1体だけ、場違いな形式……汎用というより日常の雑務用と思われるゴーレムがあった。
「全部で13体か……」
戦闘用ゴーレムは12体。
うち9体は、アーノルトも知っている型であったが、残る3体は見たこともない型であった。
既知の型のものは腕や脚が欠けており、動きそうもないが、残った3体は一応五体満足に揃っている。
「ここで開発されたものかな?」
興味深い発見に、アーノルトの技術者魂が騒いだ。
ちょっと調べてみよう、と五体満足なゴーレムに近づいた。
その瞬間。
「!」
雑務用ゴーレムが腕を持ち上げたのである。
とっさに後ろへ飛んで距離を取るアーノルト。
だが、攻撃ではなかった。
そのゴーレムの手には、『魔結晶』が2つ、握られていたのである。
「受け取れ、というのか?」
アーノルトの声が聞こえたのか、ゴーレムは頷くような仕草を見せた。
それで、アーノルトはゆっくりとゴーレムに近づき、その魔結晶を受け取った。
魔結晶が手から離れた瞬間、そのゴーレムは崩れ落ち、動かなくなったのである。
「この雑務用ゴーレムは、誰かに魔結晶を渡すためにずっと待っていたのかな?」
「そう、かもしれませんね、アーノルト様」
他のゴーレムは動き出す気配がない。油断はできないが。
そこでアーノルトは受け取った魔結晶を2個とも一旦チェルに預け、戦闘用ゴーレムを調べてみることにした。
「ふむ……内骨格系のゴーレムだな……メインフレームは既知の形式だが、より洗練されている……か。僕の知るものよりも高性能だな」
「時間を掛けていられないので、ざっと見るだけになるのが残念だな」
「また後ほど、ごゆっくり解析なさってください」
「そうだな」
チェルの助言に従い、アーノルトはゴーレムの解析を打ち切り、施設の調査を再開した。
その部屋はゴーレム以外になかったので、廊下を挟んで反対側の部屋を見てみることにした。
「こちらも……似たようなものか」
「ですが、こちらの部屋は、なんというか……」
反対側の部屋もゴーレム倉庫であった。
前の部屋と違う点は、こちらのゴーレムは全てアーノルトが知らない形式だったということ。
また、戦闘用には見えないゴーレムが半数を占めていたこと、である。
「戦闘用が5体、汎用が5体、か」
「ぱっと見ただけで内骨格だということがわかりますね」
「そうだなあ。……おそらく全部『アドリアナ式』だ」
魔導大戦中期には、ゴーレムの製造は量産性重視となったため、『アドリアナ式』は採用されなくなっていったのである。
「『外骨格式』は量産に向くからね……」
骨格と装甲を共通にできるという利点があり、製作期間の短縮に寄与していた。
だが、ここに並んでいるゴーレムは、全て『アドリアナ式』であろうと思われた。
「いや、『アドリアナ式』はある意味万能型だよね。でも、ここの戦闘用ゴーレムは、『アドリアナ式改』……いや、『簡易アドリアナ式』とでも言う形式に見える」
アーノルトが見たところ、可動域を狭めてでも部品点数を減らし、構造の脆弱性を改善しようとしているようであった。
* * *
「興味深いな」
『コマンド1』の視覚を通じ、仁もまたアーノルトが見たものを見ていた。
「『アドリアナ式』は動作がなめらかになるし、自由度が高いし、制御もしやすい。だが、製作と調整に職人技が要求されるんだよな」
それを事もなげにこなしてしまう己のことは棚に上げ、仁が呟いた。
「あれは、以前『ロッテ53型』で使われ、『アヴァロン』でも一般化しつつある『簡易アドリアナ式』ともちょっと違うな」
仁としては『簡易アドリアナ式』とは呼びたくない、と感じた。
「かといってアドリアナ式『改』でもないんだよなあ」
全体的な性能では劣っているので『改』とは呼びたくない仁であった。
「『疑似アドリアナ式』……駄目か。『似非アドリアナ式』……うーん……」
「お父さま、いい呼び方が思いつかないのでしたら、そのまま『戦時用』を付けたらいかがでしょう」
「『戦時用アドリアナ式』か……まあそれでいいかな」
名前に拘りすぎても本末転倒なので、とりあえず『戦時用アドリアナ式』にしておく仁であった。
* * *
「なるほど、『戦時用アドリアナ式』かい」
『コマンド1』から仁の命名を聞いたアーノルトは頷いた。
「まあ名前はそれでいいけど、注目すべきはここだな」
アーノルトは戦闘用ゴーレムを指差した。
「全部サイズが少しずつ違う。身長でいうと1.8メートル、2メートル、2.5メートル、3メートル、2.7メートル、となっている」
これはおそらく最適な大きさを模索した結果だろう、とアーノルトは結論づけたのだ。
「大きい方が強いかというと、一概には言えないからね。大きくなりすぎると鈍重になるし……」
ここの研究者たちは2.7メートルが最適値だと判断したのだろう、とアーノルトは思ったのである。
* * *
「それじゃあ、次の部屋へ行こう」
そしてアーノルトとチェルは廊下の突き当たりにある部屋へ。
転移魔法陣のあったホールの壁に掲げられていた見取り図では、ここが最後の部屋である。
扉に鍵は掛かっておらず、簡単に開いた。
「お、やっぱり工房だったね」
「はい」
あるいは研究室、と言ってもいいかもしれない。
作業台が6つもあり、そのうち3つには作りかけの魔導機が載っていた。
「これは……『砲』かな?」
直径30センチはありそうな筒が回転する台座に付いている。
長さは60センチほど、砲身だとしたら短いな、とアーノルトは思った。
「これも砲かなあ」
別の作業台の上にあったのは、直径10センチ、長さ1メートルほどの筒。
もちろんいろいろな付属部品が付いており、仁なら『バズーカ砲』あるいは『ロケットランチャー』とでも言ったであろう外見をしている。
「ゴーレムに持たせる武器かな」
人間が持つには重すぎる、とアーノルトは思った。
そして3つ目の作業台の上に載っていたのは……。
いつもお読みいただきありがとうございます。
本日は 異世界シルクロード(Silk Lord) も更新しております。
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お楽しみいただけましたら幸いです。
20210814 修正
(誤)その部屋はゴーレム以外になかったので、廊下を挟んで反対側の部屋を見てることにした。
(正)その部屋はゴーレム以外になかったので、廊下を挟んで反対側の部屋を見てみることにした。
(旧)だが、製作と調整に職人芸が要求されるんだよな」
(新)だが、製作と調整に職人技が要求されるんだよな」




