80-30 再びの調査チーム
岩の割れ目の中は小広くなっており、積もった雪はわずかだった。
動物の住処になっているというようなことはなく、思ったよりも綺麗である。
薄暗いが、チェルには問題ない。真の暗闇でなければ、十分にものが見えるからだ。
「いきなりここに転移魔法陣があるとは思えませんから、どこかに隠し部屋のような場所があるのでしょうね」
1平方メートルもないような場所なので、すぐにそれらしい箇所は見つかった。
足元である。
「不自然なほどに平らですものね、きっと地下への隠し扉があるはず」
チェルの洞察は正しく、巧妙に隠された取っ手が見つかった。知らないものが見たら単なる岩の出っ張りにしか見えないように偽装されていたのだ。
上に乗っていた土や砂利は、扉を開けると滑り落ちた。
そしてチェルの足元に、50センチ四方ほどの縦穴が空いたのである。
辛うじて底が見える。深さは5メートルくらいだ。
一応簡単な梯子が付いてはいる。
「一旦これまでにして、報告に戻りましょう」
そう判断したチェルは扉を元のように閉じ、『ハリケーン』へと戻ったのである。
* * *
「やっぱりあったんだね、チェル」
「はい、アーノルト様」
「そうすると、その縦穴の底に転移魔法陣があるわけだな」
「そうなります、ジン様」
「ソレデハ、ワタシガマズ テンイシテミマショウ」
『コマンド1』が名乗りを上げた。
「そうだな、万が一の場合でも戻ってこられるだろうからな」
前回の転移魔法陣の動作試験と同じ理由から、『コマンド1』にまず行ってもらうことにする。
実際には、ここも老君が『覗き見望遠鏡』で探ってくれているので、大きな危険はないこと、転移魔法陣はちゃんと繋がっているだろうことがわかっているので、仁は安心して『コマンド1』と『ミニモグラ』を送り出した。
そして『コマンド1』はチェルと共に縦穴の底へ。そこには確かに転移魔法陣があった。
「イッテキマス」
「お気をつけて」
とはいうものの、転移魔法陣のチェックが目的なので、『コマンド1』と『ミニモグラ』は10秒後に魔法陣上に戻ってきた。
「おかえりなさい、何ごともなかったようですね」
「ハイ。テンイニ、モンダイハアリマセン。デスガ、クウキガコキュウニハフムキデス」
このことは即、仁たちに知らされた。
「よし、それじゃあまた、僕たちが行ってこよう」
アーノルトがそう言うので、仁も任せることにした。
『旧ディナール王国』所属の者が行くほうがセキュリティがあった場合でもパスしやすいだろうと思われるからだ。
ただし、
「また『コマンド1』を連れて行ってくれ」
というのは忘れない。
アーノルトもそこはわきまえており、即答した。
「わかった」
そういうわけで、アーノルト、チェル、『コマンド1』(+ミニモグラ)はこちらの地下施設探索に向かったのである。
* * *
まずは割れ目奥の扉を開け、縦穴を下りる。
梯子は思いの外しっかりしているのでアーノルトも不安はなかった。
そして床に刻まれた転移魔法陣で転移。
出た場所はそこそこ明るく照明されたホールであった。つまり照明は生きているわけだ。
ホールは一辺が10メートルほどの正方形、天井までの高さは4メートルほど。正面と左右2箇所の計3箇所に扉が付いている。
「アーノルト様、『コマンド1』さんの言うとおり、ここには酸素がありません。ほとんどが窒素と二酸化炭素です」
「人間は生きていけないな……」
チェルもアーノルトも呼吸を必要としないから大気組成は気にしないで済む。
「さて、ここから先が問題なのかな?」
『コマンド1』もここまでしか確認していないわけだ。
前回同様、『コマンド1』を肩に乗せ、アーノルトはまず壁の確認を行っていく。チェルもそれに従う。
もちろん『コマンド1』は周囲の警戒だ。
「アーノルト様、こちらに見取り図がありました」
「お、そうかい」
チェルの発見したそれは、施設内のおおよその見取り図であった。
ごくごく簡単なものだったが、概要は掴める。
まず、転移魔法陣のあるこのホール…………の東側に……北が上になる見取り図だった……ある部屋は資材倉庫のようだ。
そして西側が宿泊設備。
最後に、南側にある扉の先は通路になっていた。通路の両側と突き当りには部屋があるが、何の部屋かは記されていなかった。
「まずは倉庫から確認するか」
倉庫だからといって軽視して、何か見落としがあってはいけないと、自戒を込めてアーノルトは言い、その扉を開けた。
「おっ」
ここの倉庫には、多少ながら資材が残っていたのである。
「赤錆びているが鉄のインゴットだな。こっちは銅、それに錫……青銅を作るためか。それに、おっ、ほんのちょっとだけどミスリルがある」
アーノルトは、ガラス瓶に入ったミスリルを見つけた。10グラムあるかないかの微量である。
「アーノルト様、こちらにある袋には、小麦が入っていたようです。今は朽ち果ててただのホコリと化してはいますが」
「そうかい。やはりここは、そこそこ重要な施設だったようだな」
とはいえ、他にめぼしい発見もなかったので、次の部屋の調査に取り掛かる。
ホールの反対側にある宿泊設備だ。
「どれどれ」
アーノルトが扉を開けると、そこは綺麗に片付けられており、部屋の隅には停止して100年以上は経つと思われるゴーレムが一体。
「この型は、確か低級の汎用ゴーレムだな。部屋の掃除やベッドメイキングのようなことをしていたんだろうか」
が、停止して久しいので、部屋の中はホコリだらけであった。
「倉庫はホコリなんかなかったよね?」
「はい、アーノルト様。おそらく宿泊施設だけは別扱いだったのでしょう」
「ああ、そういう設定もありだな」
他の部屋は一般的な掃除用ゴーレムが掃除を行い、宿泊設備は専用のゴーレムに任せることにしていたのだろうと思われた。
「亡くなった人はいなかったのかな?」
「それはきっと、あのゴーレムが埋葬したのでしょう」
「うん、そうだろうね」
日記のようなものがないかと探したが、そうした私物は一切見つからなかったので、アーノルトたちは宿泊設備を後にしたのである。
南側の扉から通路に出、いよいよ未知の部屋の調査である。
まずは通路東側の部屋の扉を、チェルが開いた……。
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