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マギクラフト・マイスター  作者: 秋ぎつね
80 新たな仲間篇
3035/4348

80-21 案内 3

「最後は資材倉庫ですが、ここも見るべきものはありませんので……」

「なぜだね? 一応見せてはくれんかな?」

「はい、宰相閣下。それでは、ご覧になっていただければおわかりになるかと存じます」


 チェルはそう言って倉庫の扉を開けた。


「ああ……」

「そういうことか……」


 倉庫の中はほぼ空っぽだったのである。


「戦時中でしたので、倉庫を満たすに至りませんでした」

「……そうか。うむ、よし。ここには、余の名前で非常用の備蓄を行うことにさせよう」

「ありがとうございます、陛下。これで、この倉庫の存在意義が果たせます」


 これで、さらにこの基地が充実することになったので、チェルが代表して国王にお礼を述べたのである。


「よい。これも王の務めだ」


*   *   *


 最後は下層の案内である。

 ドリスは魔導頭脳の下へ戻ったので、こちらは引き続きチェルが案内を行う。


 まずは階段を下りて下層へ。

 ここにもかつては罠があったと説明がなされる。


「下層は避難用のシェルターですので、絶対に敵の侵入は許されませんでした。そこで、溶けた鉛を通路に流し込むという最終手段が設定されていました」


 もちろん、今は削除されている。


「もしもその罠が作動したら、下層は孤立することになるのかね?」

「いえ、閣下。転移魔法陣で外へ脱出するルートが設定されています」

「そうか。ならば安心だな」

「ええと、ちなみに、どこへ通じているのですか?」


 王弟が転移先について尋ねた。


「はい、殿下。行き先は『クゥプ』の南にある島の地下施設です。……実は、設定されただけで転移魔法陣が未完成なので未開通ですが」

「ああ、そういう繋がりだったのか」

「なるほどな」


 王弟マルセルは納得し、聞いていた仁もまた得心がいったのである。


「そうか、文字どおりあそこの地下施設は『最後の砦』だったんだな……未完成に終わったが」


 2つの施設で工事の進捗状況が揃っていないことも問題だったのだろうな、と仁は想像した。


 そして一行は下層フロアに到達。

 チェルは手近な部屋から紹介していくようだ。


「こちらも食料庫です。今は空ですが、一杯に詰めれば、1000人を1ヵ月養えるくらいの食料を備蓄することができます」

「ほほう」

「なるほど、避難先と同じフロアに食料庫がないのはおかしいですからな」

「こちらも、長期保存が可能なのですね。その方法がわかるといいですね」


 国王としては、こうした場所に非常用食料の備蓄庫があってもいいな、と思い、宰相は施設の構造に感心し、王弟は長期保存の方法に興味を持ったようだ。


 その次は避難用の部屋……なのだが、国王たちのイメージとはかけ離れている。


「……ホテルかな?」

「こちらは避難用の部屋です。一部屋はおよそ5メートル四方で、5人分の寝台、簡易トイレ、洗面台が付いております」


 仁も、初めは体育館のような広い部屋を想像していたものだったが、ここは違う。イメージ的にはビジネスホテルか。


「長期的な避難を考えていたので、こうした設計にする、と言われていますが、実際には、ここにはディナール王国の上流階級が避難する予定だったようです」

「……戦時中だというのに、特権階級は自分たちの要求を押し通したのか……」

「その結果が痛み分け……いえ、事実上の『敗北』ですからね」

「勝者のいない戦争……どちらも敗者、ということですか。……本当に、意味のない戦争でしたね」


 国王は人のごうに呆れ、宰相は残念に思い、王弟は戦争の悲惨さに打ちひしがれたのである。


「ええと、気を取り直していきましょう」


 沈んだ空気を振り払うように、仁が声を掛けた。


「そうだな、愚かな行為を二度と繰り返さぬようにせねば」


 国王ボザールはそう言って顔を上げた。


「陛下、わたくしどもも微力ながらお手伝いいたします」


 チェルもそう言って、次の部屋へと案内していく。


「こちらが、食料生産用の地下栽培室です」

「おお」

「これは……」

「すごい……」


 セルロア王国の3人は驚きに目を見開いている。

 仁も、最初に見たときには驚いたものだ。


 ここは、地下で水耕栽培を行うための部屋だったのである。

 現代日本で言う人工太陽灯のように『明かり(ライト)』の魔法をうまく使って野菜類を促成栽培する施設なのだ。

 もっとも、実際に稼働する前に『魔素暴走エーテル・スタンピード』が起きて、未完成のまま放置されてしまったのだが。


 今、この部屋にあるのは多数の棚と『明かり(ライト)』応用の人工太陽灯もどきである。人工太陽灯もどきは太陽光に似せた色合い。

 植物の栽培に特定の色のLEDがいいという話もあったようだが、仁は覚えていなかったし、『昼光色』で不都合もなさそうなので、自然な色合いの光に調整してある。


「暗い部分ではモヤシ、明るい部分ではトメィトゥル(トマト)のような栄養豊富な野菜を栽培すればよいだろうと設計されました」

「なるほどな」


 『魔導大戦』が終わった今では、わざわざ地下で作物を栽培する必要はないため、ここは史跡として残すことになるだろう。


 そして次へ。


「独立した動力源を持つ空調設備です」


 中層が機能しなくなっても、ここ下層に避難した人々を守るためにできるだけのことがなされていた。


「最後は緊急用の資材倉庫です。薬品類、水、非常食、若干の金属素材、それに魔結晶(マギクリスタル)が置かれることになっていました」


 700年の年月を経て、薬品類、水、非常食はその品質を維持できるはずもなく、処分対象となっていた。

 そして金属素材と魔結晶(マギクリスタル)は元から保管されていなかったのである。おそらく資源不足のためであろうと推測される。


*   *   *


「以上で、ここ『地下基地』の案内を終わらせていただきます」

「うむ、ご苦労だった」


 国王ボザールがチェルを労った。


「これからここは、『魔導大戦』時のことを伝える史跡として扱おうと思う」

「それがよろしいですな、陛下」

「兄上、一般公開はしないのですか?」

「しない。学者や研究者たちには、許可制にすればいいだろう」

「そうですな、陛下」


「その時は、チェル殿、アーノルト殿が案内役を務めてくれるだろうか」

「はい、陛下。承りました」


 そういうことになったのである。

 いつもお読みいただきありがとうございます。


 20210804 修正

(誤)植物の栽培に特定の色のLEDがいいという話もあったようだが、仁は覚えていいなかったし

(正)植物の栽培に特定の色のLEDがいいという話もあったようだが、仁は覚えていなかったし


(旧)「こちらが、食料栽培用の地下栽培室です」

(新)「こちらが、食料生産用の地下栽培室です」

(旧)人工太陽灯ではないが、『明かり(ライト)』の魔法をうまく使って野菜類を促成栽培する施設なのだ。

(新)現代日本で言う人工太陽灯のように『明かり(ライト)』の魔法をうまく使って野菜類を促成栽培する施設なのだ。

(旧)今、この部屋にあるのは多数の棚と『明かり(ライト)』応用の人工太陽灯である。人工太陽灯は太陽光に似せた色合い。

(新)今、この部屋にあるのは多数の棚と『明かり(ライト)』応用の人工太陽灯もどきである。人工太陽灯もどきは太陽光に似せた色合い。

(旧)「いえ、閣下。転移魔法陣で外へ脱出することもできます」

(新)「いえ、閣下。転移魔法陣で外へ脱出するルートが設定されています」

(旧)ただし、転移魔法陣が未完成なので未開通ですが」

(新)……実は、設定されただけで転移魔法陣が未完成なので未開通ですが」

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― 新着の感想 ―
[一言] 野菜類を促成栽培する施設なんかはうまく研究を活かせれば場所を問わずに屋内で野菜を生産できる工場として使えそうですねえ
[一言] >「こちらも食料庫です。今は空ですが、一杯に詰めれば、1000人を1ヵ月養えるくらいの食料を備蓄することができます」 ボ「それどころか、1000人を3年間養う事すら出来るのではないか?」 仁…
[気になる点] >「いえ、閣下。転移魔法陣で外へ脱出することもできます」 実際には未完成で脱出不可なのだから、 脱出することもできます→脱出できるようにする予定でした にして以降の会話もちょっと…
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