80-20 案内 2
上層から中層へは階段で下りていくのだが、途中に丈夫な隔壁がある。
「この隔壁の向こうにも階段があるのですが、その先は行き止まりなのです」
「へえ、つまり罠というわけなの?」
「はい、王弟殿下。厳重な隔壁があるため、こちらが正規のルートだと勘違いさせ、袋小路に誘い込んでから毒の水を流し込みます」
「えげつないね……」
「もちろん、今はその機能はありません。ですが、当時の戦争とはそういうものだったのです」
「うん、そうした過去から目を逸らしちゃいけないね……」
王弟マルセルは自戒するように呟いたのである。
そして、正規のルートはそのまま階段を下りた後、狭い通路を20メートルほど抜けるのである。
「こちらの通路にもかつては罠がありまして、左右の壁から槍が飛び出す場所、雷属性の魔法が放たれる場所、そして床がいきなり抜ける場所、天井が落下してくる場所がありました。もちろん今は仕掛けは撤去され、普通の通路になっております」
「そ、そうか。ジン殿、感謝する」
さすがの国王も引き気味であった。
そうした通路を抜けると中層である。
「ここが中層です。ここには管理魔導頭脳をはじめとするいろいろな設備があります」
いろいろな、を具体的にいうと、『空調』『簡易工場』『資材倉庫』『エネルギー供給』などである。
「まずは『統括管理魔導頭脳』のところへ行きましょう」
「うむ」
チェルは一行を中層中央にある魔導頭脳室へと案内した。
『ようこそいらっしゃいました、陛下。私のことは『イザーク』とお呼びください』
「う、うむ、余が現国王ボザール・ヴァロア・ド・セルロアである」
『そちらの方はご血縁の方ですか?』
「わかるのか?」
『はい。魔力波形が似てらしたもので』
「おお、なるほどな。我が弟である」
先日仁から『魔力波形分析機』による分析結果を知らされているので、国王ボザールはすぐに得心がいったようだ。
「『イザーク』、君への命令権を設定しようと思う」
仁が説明を行う。
「第1位が国王陛下、2位が王弟殿下、3位が宰相閣下だ」
『わかりました』
「では、設定するぞ。……『隷属』設定。1位、ボザール・ヴァロア・ド・セルロア国王陛下。2位、マルセル・ヴァロア・ド・セルロア王弟殿下、3位、ダイン・セーメ・ド・パース宰相閣下」
これで、当面の命令権が設定された。
「次に、特別枠でダイン・セーメ・ド・パース宰相閣下を設定する。『隷属』……」
これは、命令権順位とは独立して、命令権の変更ができる権限を与えるのである。いわば『命令順位認定権』である。
条件は、第1位が空席になった場合に行使できる。行使しなければ第2位がそのまま第1位となる。
「これはどういう意味があるのだね?」
宰相からの質問。
「ええ、今は廃れていますが、戦時中は普通だった設定のようです」
説明は仁から行う。
「命令権と、命令順位認定権、と言います。命令順位認定権を持っていても、命令権の順位が高いわけではありません」
似たような例を挙げるとすれば、教皇(法王)が国王を認定する(戴冠式)に近いだろうか。
もちろん、自分の命令権の順位を上げることはできない。
そういった一連の説明を行う仁。
「なるほどな。万が一、引き継ぎをし忘れた際にも、命令権の順位を変更できるわけか」
「はい。そして……あまりいい話ではありませんが、最悪の事態でも大丈夫なようにしておきます」
「うむ、それは必要なことだ」
国王ボザールは、仁が何を言いたいか察したようだ。つまりは1位のものが急逝した場合、ということになる。
国王の座を巡って、骨肉の争いが生じることはままある。歴史を見れば明らかだ。
管理魔導頭脳への命令権に関しては明確な順位が必要となるので、戦時中にこうした制度が生まれたらしい。
* * *
魔導頭脳に関する説明と設定が終わったあとは……。
「『ドリス』、陛下に挨拶してくれ」
「はい」
仁の言葉に応じ、白髪のオートマタ、『ドリス』が姿を見せた。
「おお!」
「チェルとよく似ているな」
「魔導頭脳の補佐自動人形です。『ドリス』と言います。皆さん、名乗ってください。それで彼女を通じ、魔導頭脳に登録されます。今回の『登録』は、管理魔導頭脳への命令権と同じ順位になります」
仁はドリスを紹介し、彼女への命令権についても説明した。
「ドリスと申します、以後、よろしくお願い申し上げます。陛下、殿下、閣下」
「うむ。国王ボザールだ。『ドリス』、よろしく頼む」
「王弟マルセルです。よろしく」
「宰相を務めているダインだ。よろしくな」
国王に続き、王弟マルセル、宰相ダインも名乗り、ここにドリスへの命令権も確立した。
「ドリスは動けない魔導頭脳の代わりに手足……や目や耳となる自動人形です。軽度〜中度の故障なら修理できます。警備もしてくれます」
仁はドリスの存在意義と能力の説明を行った。
「なるほどな。つまり、チェルも同じことができるわけだな」
「はい、陛下」
「チェルとドリス……は互いに整備し合うこともできるのですよね」
「そういうことです、殿下」
「故障の確率を下げられるというわけだな」
「そうなりますね、閣下」
三者三様に、管理魔導頭脳と補佐自動人形の関係を理解してくれたようである。
* * *
「さあ、それでは他の施設をご案内いたしましょう」
中層で残っているのは『空調』『簡易工場』『資材倉庫』『エネルギー供給』などの施設である。
『空調』設備と『エネルギー供給』設備は特に見るべきところはなく(仁にとっても自分が修理した施設なので)こういうものか、で終わる。
だが。
「こちらが『簡易工場』です」
「おお」
「簡易、っていうけれど、かなりのものでは?」
「はい。ゴーレム程度でしたら製作できます」
「やっぱり……」
「それは決して『簡易』ではないと思いますぞ……」
国王は素直に感心し、王弟は『簡易』に疑問を抱き、宰相はツッコミを入れるのであった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20210804 修正
(誤)「命令権と、命令順位権認定権、と言います。
(正)「命令権と、命令順位認定権、と言います。




