80-19 案内 1
セルロア王国国王ボザール・ヴァロア・ド・セルロアが出した結論は、
「今日の午後に頼む」
であった。
それを聞いた宰相ダイン・セーメ・ド・パースは驚き慌てたが、
「ダイン、ジン殿となら今日中に往復できる。そして今日は、比較的時間に余裕があるのだ」
と国王に言われ、確かに、と考え直したのである。
「ではこの後、少し早い昼食を摂り、ルトグラ砦へと向かうことにいたしましょう。メンバーはいかが致しますか?」
「ジン殿、余はもちろん行くのだが、同行者について何か希望……というか、是非連れていきたいという者はいるか?」
「そうですね……」
国王の命令権を第1にするのは決定だが、その次をどうするか、が問題であった。
王太子がいるならば問題ないのだが、現セルロア国王は独身である。愛人などもおらず、したがって王子王女もいない。
「王叔父殿下、王弟殿下、王妹殿下……つまり王家の方がご一緒してくださるといいのですが」
「うーむ……全員を連れて行くのはちとまずいであろうな」
王族全員が一度に王城を離れるというのは余程のことがなければ家臣が認めないであろうと国王ボザールは言った。
その隣では宰相がうんうんと頷いている。
「でしたら、王位継承権1位の方がいらしてくれれば。それから、王家に対し、発言権のある方が」
「で、あれば弟と宰相であろうな」
「でしょうな」
国王の叔父であるフランシスは元近衛騎士団総帥であるがゆえに王位継承権を放棄していた。軍人が政治に口を出すのはよろしくないというのが彼の主張である。
ゆえに王太子がいない今、王位継承権1位は国王の弟、マルセル・ヴァロア・ド・セルロアなのである。
ちなみに2位は王妹ジャンヌ・ヴァロア・ド・セルロアとなり、以下、従兄弟たちになるとボザールは説明した。
(以前、魔力波を測定させてもらった時に会ったっけ)
線の細い、おとなしい青年だったな、と仁は思い出していた。もっとも、その時直接会ったのは『仁D』であったわけだが。
* * *
王城での昼食を済ませたあと、セルロア王国国王と王弟を乗せた『ハリケーン』は一路ルトグラ砦を目指した。
護衛として王国の飛行船部隊が付いてこようとしたようだが、時速400キロ(通常最高速度)を誇る『ハリケーン』には1機として付いてくることができなかったのである。
「わあ、速いですねえ」
今年21歳になる王弟マルセルは、『ハリケーン』の窓から外を見ながら、子供のようにはしゃいでいた。
「あまり王城から外へ出ないからか、はしゃぎっぷりが凄いな……」
「わかる気はするな。好むと好まざるとに関わらず、引き篭もらざるを得なかった者の気持ちは……」
「そうか、アーノルトも似たような境遇だったろうからな」
「うん」
一方で、国王ボザールは宰相と何やら話をしている。
「……ですから早くお妃様をお娶りくださいと……」
「……爺はうるさいなあ……」
小声ではあるが、船室内なのでどうしても聞こえてしまうのだ。
爺、と呼んでいることから、どうやら宰相はボザールの教育係のような立場であったらしいな、と仁は察したりもしている。
そしてアーノルトはチェルと話をしているようだ。
内蔵魔素通信機で、のようなので仁にはわからないが。
ただ、至近距離なので礼子には傍受できているらしい。
その礼子が何も言わないので、おそらく他愛のない話なのだろうなと仁は推測した。
* * *
そして予定どおり、1時間後にルトグラ砦に到着。
ログハウス脇に『ハリケーン』は着陸した。
今回は、ホープは『ハリケーン』の保守に残り、仁、礼子、国王、王弟、宰相、アーノルト、チェルが下船する。
「あの小屋はなんですか?」
ログハウスを見た王弟マルセルが仁に尋ねた。
「クゥプとこことを繋ぐ転移魔法陣を設置した小屋ですよ」
「へえ、すごい発想ですね」
「工事が全て完了したら撤去しますけどね」
「そうなりますよね……」
もったいないな、という思いが透けて見えるような顔をした王弟マルセル。
「設置式なので、小屋はまた利用できますからね」
「え? そうなんですか?」
「できあがったものをここへ運んできて設置したんですよ」
「そ、そうなんですか……」
そこへ国王ボザールがやって来た。
「マルセル、ジン殿に質問があるなら後にしなさい」
「はい、兄上」
「ジン殿、それでは砦を見せていただきましょう」
そういうわけで、まずはルトグラ砦の案内を行うことになったのである。
* * *
「地上部はあまり手を加えていません。先日の騒動で壊れた部分を補修したことと、強度がやや弱いところを補強しただけです」
「うむ、それはよかった」
「史跡としての意味もありますからね、兄上」
「そういうことだな」
宰相、国王、王弟らはそれぞれこの処置を肯定した。
「では、メインの『地下基地』です」
「おお、楽しみであるな」
まずは新設した隔壁へ。
「普段は閉じています。開けるにはこの鍵と、このパネルに合言葉を入力します」
「ふむ」
物理的なロックと、ロジックのセキュリティを掛けたわけである。
いずれ『地下第1基地』も史跡として公開するなら、この隔壁は開け放しておくことになろう。
隔壁の向こうは短い通路を経て小ホール、そして地下へと続く階段になる。
「それでは、ここから先の案内はチェルに任せてもいいですか?」
と仁が尋ねると、国王ボザールは、
「おお、それはいいな」
と、1も2もなく賛成したのであった。
* * *
「それでは、不肖わたくしめがご案内させていただきます、陛下、殿下、閣下」
「うむ、よろしく頼む」
チェルは丁寧なお辞儀を一つすると、ゲスト3人に挨拶を行った。
「では、こちらへどうぞ」
率先して階段を降りていくチェル。
ここは、元は暗くて段差が大きいため危険だったのだが、仁が改装したため普通の階段になり、明るく、歩きやすくなっている。
「こちらの基地は、上・中・下の3階層からなっております」
「ほう」
「上層はゴーレムの格納庫が大半で、3つの階層の中では最も狭いものです」
「それはなぜだね?」
「はい、宰相閣下。それは、ここが当時の戦争において、『避難場所』としても機能するよう作られたからです」
「なるほど、攻めてきた敵を撃退するためのゴーレムがあるのはそのためか」
「はい。そして、今はその機能は削除されていますが、敵をこのフロアに誘い込んだ後、フロアを崩壊させるという機能もあったのです」
「そ、そうか。……今はもう削除されているのだね?」
「はい。ジン様が取り除いてくださいました」
「それはよかった……」
この後は、上層に格納された戦闘用ゴーレムと汎用ゴーレムを確認して終わり。
一行は中層へと向かったのである。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20210802 修正
(誤)敵をこのフロアに誘い込んだ後、フロアろ崩壊させるという機能もあったのです」
(正)敵をこのフロアに誘い込んだ後、フロアを崩壊させるという機能もあったのです」
orz
20220329 修正
(誤)「でしたら、王位継承権2位の方がいらしてくれれば。
(正)「でしたら、王位継承権1位の方がいらしてくれれば。
(誤)ゆえに王太子がいない今、王位継承権2位は国王の弟、マルセル・ヴァロア・ド・セルロアなのである。
(正)ゆえに王太子がいない今、王位継承権1位は国王の弟、マルセル・ヴァロア・ド・セルロアなのである。
(誤)ちなみに3位は王妹ジャンヌ・ヴァロア・ド・セルロアとなり
(正)ちなみに2位は王妹ジャンヌ・ヴァロア・ド・セルロアとなり




