80-18 セルロア王国訪問
チェルの頭脳部分は10体の自動人形の頭脳を統合した集大成であった。
「そうやることで熟成……は言葉が悪いな。……熟練した思索家のような思考ができるようになるんだなあ」
とはいえ、元となる制御核のことを考えると、仁はやってみようとは思えなかった。
この場合、元になった制御核がなくなったり壊れたりするわけではない。
だが、自動人形の頭脳、あるいは『心の在り処』を単なる『材料』として使う、ということに抵抗があるからだ。
アーノルトのような事態になった場合は致し方ないだろうとは思う。その場合、自分でも同じことをする……かもしれないが、と仁は思った。
そういう意味では、『礼子』が、仁にとって唯一の、『融合』自動人形であると言えようか。
確かに、そうした場合には、感情が豊かになったり、制御核の働きがよくなったりするようだ、と仁は分析した。
とはいえ、礼子は集大成とか統合とか、そんな単純なものではない。
初代が作った『おちび』の制御核が壊れかけていたのでそれをそのまま『知識転写』で魔結晶に書き込み、さらに自分の基礎制御魔導式を追記して融合、一体化したもの……が礼子の制御核である。
これはこれで、世界に1つだけの逸品なのだ。
「ジン、どうかしたのか?」
考え込んだ仁に、アーノルトが声を掛けた。
「あ、ああ、いや、ちょっと考えごとをしていた」
「それは、制御核の統合についてかい?」
「まあそうだ」
「やってみるなら止めはしないが、成功率は低いぞ」
「そうなのか?」
「うん。僕の他にも……特に、軍事的な理由で試みた者が大勢いたけど、誰一人として成功した者はいなかった」
おそらく特殊な条件があるんだろう、とアーノルトは言った。
「条件か……」
もしかすると、元になる制御核の持ち主がそれを願っているかどうかかもな、と仁は思ったが、あまり学術的な仮説ではないので口には出さなかったのである。
* * *
そうこうするうちに、『ハリケーン』はようやくセルロア王国に到着した。
約1時間という時差を考慮し、現地時間で午前10時になるよう、ゆっくり飛んできたからである。
『ハリケーン』に描かれた『丸に二つ引』の紋を見て、上空警備の気球たちは空路を空けてくれた。
「本当に信用されているんだなあ」
その様子を見たアーノルトが感心したように言う。
そして『ハリケーン』は王城の前庭に着陸した。
そこに現れたのは、近衛兵に守られた国王ボザール・ヴァロア・ド・セルロアと宰相ダイン・セーメ・ド・パース。
仁、礼子、チェル、アーノルト、ホープの順に『ハリケーン』を出る。
「ようこそ、ジン殿」
「陛下共々、待っておりましたぞ」
国王も宰相も、少し疲れた顔をしている。
「今日は、ご紹介したい者がおりまして」
と仁が言えば、
「そちらの方々ですかな?」
と宰相が察した。
近衛兵たちは自然体だが、一応警戒をしているようだ。
仁と一緒であるとはいえ、見知らぬ者に対して、それは当然のことである。
「ええ。ルトグラ砦地下基地の関係者です」
「ほう、それは興味深い話であるな」
とはいえ、前庭で話し込むのはまずい。
宰相は仁たちを王城へと招いた。
「では、中へどうぞ」
そして小会議室へと案内する。
王城内の会議室は、全て王族が列席してもいいような作りになっている。つまり、王族専用の席がちゃんと用意されているのだ。
部屋の中の上座に相当するその席に国王が座ると、その右に宰相が座り、国王の左右後ろに近衛兵が護衛のために立つ。
小会議室のテーブルはほぼ正方形。中央には同じく正方形の空間が空いている。
国王の正面を避け、反対側に仁とアーノルトが腰を下ろした。
礼子とホープ、チェルはその背後に立つ。
「さて、では改めて挨拶をしよう。私はダイン・セーメ・ド・パース。宰相を務めている。こちらは国王陛下である」
「自分はジン・ニドーです。礼子とホープ、です……で、こちらはアーノルト殿。従者はチェルと言います」
「アーノルトです」
「チェルと申します」
これでようやく挨拶と紹介が終了する。
「まずはこの2人の紹介から始めたいと思います」
「うむ、ジン殿、余も気になっていたところだ」
「ルトグラ砦の関係者だと言われましたね?」
国王も宰相も興味津々のようなので、仁は手早く説明することにした。
「まず最初に申し上げておきます。このお2人は自動人形です」
「え?」
「は?」
呆気にとられる国王と宰相。
「……」
「……ジン殿、それはまことですかな?」
「はい。……ええと、それで、地下基地の関係者といいますか、要は地下基地に所属しているわけですね」
「はい!?」
国王は言葉をなくし、宰相は呆れたような驚いたような声を上げた。
「そういうことです。私は貴殿たちが『旧ディナール王国』と呼ぶ王国に仕えるものでした。今現在はセルロア王国となっているようですが、そのルーツは同じと認識しております」
アーノルトは建前を口にした。
「こ、これはいたみいる。貴殿……アーノルト殿は、その、本当に自動人形なので?」
「そうです」
「ジン殿……がボディを作った、ということですな?」
「ええ」
「ううむ……素晴らしい。人間そっくりですな」
「ありがとうございます」
ここで、ようやく落ち着きを取り戻した国王が口を開いた。
「ジ、ジン殿、まさかとは思うが『地下基地』の整備が終わった……ということではないだろうな?」
「いえ、終わりました」
「なんと!」
依頼をしたのが24日、今日は28日。実働3日間で地下基地整備を終えてしまうとは思っていなかったようだ。
「それでですね、地下基地を統括する魔導頭脳があるのですが、それの命令の優先順位を決定したいんです。具体的には、陛下を最優先するように」
「なるほどな」
「それには、どうしてもご本人にいらしていただかないと設定できないので、日程を調整したいのです」
「ふむ、それにはどのくらいの時間が必要なのだ?」
「設定自体は1分もあれば終わります」
「そんなに短いのか!」
むしろ移動時間がほとんどである。
その移動時間も、仁の『ハリケーン』なら片道1時間くらいである。
あとは、地下基地を確認のため見学する時間か。
「そうだな……」
国王ボザールは、考えた末に結論を口にした。
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本日8月1日(日)は14:00に
異世界でホムンクルスになっていたのでスローライフを目指す
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を更新します。
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20210801 修正
(誤)あまり学術的は仮設ではないので口には出さなかったのである。
(正)あまり学術的な仮説ではないので口には出さなかったのである。




