80-17 集大成
アーノルトがロードトスと魔法工学談義をしていた、同じ時。
チェルはリュドミラやヴィータと会話を楽しんでいた。
「へえ、当時って、そんな感じだったんですね」
「ご存じなかったのですか、ヴィータさん?」
「当時の人類側の事情は私たちも把握しきれていなかったようですよ」
「リュドミラ義姉さまが言うとおり、学校でも教えてくれないし」
十数年前から『ノルド連邦』にも『学校』と呼べる施設と制度ができ、ヴィータは去年から通っている。
週7日のうち、3日間が学校の日に指定されている。
「これも『アヴァロン』からの指導なんですよ」
と、リュドミラが言う。
「講師も『アヴァロン』から来てくれていますし」
『ノルド連邦』に教師役をやれる人材はまだ少ないので、『アヴァロン』から出張してきてくれている。
卒業生が数年『アヴァロン』で高等教育を受け、教育課程を卒業してはじめて『教師』としての資格が得られる……となっている。
「面白い……いえ、興味深い制度ですね」
チェルは、『旧ディナール王国』時代は師弟制度はあったが学校はなかった、と説明した。
「『教師』の資格は国際的なものですので、この国だけではなく、各国で通用するんですよ。逆に言うと、この国で教師をするなら、必ずしも『教師』の資格は必要ないんですが」
リュドミラの説明はわかりやすく、チェルもここ『ノルド連邦』の教育事情の概要を把握することができた。
「歴史を教えるというのは大切なことですね」
チェルがしみじみと言った。
「お互い、当時の内情は厳しかったようですわね」
「そうだ、チェルさん、当時の『人類側』の状況を講義してくれないかな?」
「え?」
突然ヴィータが思いつきを口にした。
「ヴィータさん、それはちょっと酷ではないでしょうか?」
やんわりとリュドミラが宥める。
「う……そう、かな?」
「ええ。今の私たちは当事者ではないとはいえ、『北方民族』との戦争で疲弊した様子を話してくれ、というのはちょっと……」
「そう、ね……ごめんなさい、チェルさん。考えなしなことを言って」
「いえ、いいのですよ」
チェルは微笑み、なんでもないと首を振った。
「ああ、直接講義……は難しいかもしれませんが、当時の様子をレポートに書くことでしたら」
「あ、いいですね。でもそれなら『アヴァロン』を通じて提出していただき、教科書として活用したいですね」
「そうした教育活動を通じて、平和の基礎が築かれるなら喜んで」
なかなか実り多き話し合いになったようである。
* * *
昼食をごちそうになったあと、仁たちは『ノルド連邦』を後にする。
ゆっくりしたいところだが、とりあえずセルロア王国国王への依頼達成報告をする必要があるからだ。
「それが済んだら、またゆっくり世界を見て回ってもらえるから」
「うん、楽しみにしているよ、ジン」
アーノルトも、そうした事情はわかってくれている。
そもそも、今のアーノルトは不老なので、時間はたっぷりあるからだ。
「でも、そういうことなら、寄り道だったんじゃないのかい?」
アーノルトが仁に尋ねる、が、それについてはちゃんとした理由があった。
「いや、こう言っては失礼だが、『北方民族』とのわだかまりを真っ先に解決しておきたかったからな」
セルロア王国にも『北方民族』が何人か勤務しているはずなので、いきなり訪問してトラブルがあったら国際問題になりかねないという心配もあった。
「なるほど、用心する気持ちはわかるよ」
「なにしろ、この前は『第1地下基地』が俺の友人を襲ったからな」
「それじゃあなおのこと、心配するだろうね。まったく、ロクなものを作らない奴らだったよ」
アーノルトは、仁が何を心配していたのかわかってくれたようで、デフォルトで不安定さを持っていた『旧イザーク』をこき下ろした。
実際に『第1地下基地』を担当したチームは、『形になってさえいればいい』というような連中ばかりで、アーノルトとしては残念に思っていたようだ。
なので今回、仁が『第1地下基地』を作り直したことでほっとしている、とも言うのだった。
「そういうわけで、これからセルロア王国王城へ行く」
「……ジンなら、いつでも王様に面会できるんだろうなあ」
「そうだよ」
「……やっぱりな」
『魔法工学師』という称号がどれほどのものか、わかってきているアーノルトであった。
* * *
セルロア王国に着くまで、仁とアーノルトは工学魔法談義を行っていた。
「……それじゃあ、今度は俺の方から聞いてもいいか?」
「なんだろう?」
「チェルのことだ」
「うん?」
「チェルは、俺の『分身人形』や『デウス・エクス・マキナ3世』のことを見抜いたわけで、その頭の働きは凄いなあと思っているんだよ。何か秘密があるのかと思ってね」
「ああ、それか。……うーん、話してもいいんだが……」
「何かまずいことでも?」
「いや、そういうわけじゃない」
「じゃあ聞かせてくれよ」
「わかった」
アーノルトはゆっくりと話しだした。
「実は、チェルは、僕がこれまでに作った自動人形の集大成なんだ」
「うん」
「それは文字どおりの意味で、なんだよ。つまり、全部で10体の自動人形の制御核を集積したと言えばいいかな……」
「集積?」
「集積とはちょっと違うのかな……? とにかく、10体分の制御核のいいところだけを寄せ集めた、と言えばいいのかな? それもちょっと違うかもしれないが」
「つまり、10体分のデータの蓄積があって、11体目であるチェルがこうなった、ということかい?」
「うん、まあそういうことさ」
非常にふわっとしたまとめであるが、アーノルトは仁の推測を認めた。
「簡単に言うけど、『性格』や『感情』などの領域を除き、『論理』や『思索』に関連するエリアだけを統合するって相当……いやもの凄く高度な手法だと思うんだが」
ちなみに仁は、そういうことをやったことはない。
それはすなわち、元になった自動人形(もしくはゴーレム)を犠牲にするようなものだからだ。
だが、アーノルトが言うには、
「うーん……なにせ、その元になった10体は国に召し上げられて潰されちゃったからな」
「え?」
「そういうことさ。戦時中ということで、物資が不足していたため、個人で所有する非戦闘用あるいは軍事用でない自動人形やゴーレムは全部取り上げられた。それが大戦末期の状況だ」
「…………」
「だからせめて、10体の存在が、無駄ではなかった証に、と思って保存しておいたデータを統合したのさ」
「そうだったのか」
チェルは、そうした10体の兄・姉たちの想いを引き継いでいるのだな、と仁は感じたのである。
いつもお読みいただきありがとうございます。
本日は 異世界シルクロード(Silk Lord) も更新しております。
https://ncode.syosetu.com/n5250en/
お楽しみいただけましたら幸いです。
20210731 修正
(旧)教育課程を卒業してはじめて『教師』としての資格ができる……となっている。
(新)教育課程を卒業してはじめて『教師』としての資格が得られる……となっている。




