80-16 馴染むアーノルト
その夜は森羅の氏族長の館で宴会となる。
もちろんアーノルトとチェルには味覚があるので、皆と一緒に飲み食いできる。
食卓に並んでいるのは『ノルド連邦』特産の食材を調理したものだ。
「これはなかなか美味しいですね」
「ああ、岩氷ウサギのソテーですね」
岩氷ウサギは北の地にいるウサギ類で、あっさりした中にも脂肪分のこってりした味わいがあるという不思議な肉である。
「ゴンドアカリブーのジャーキーもいけますね」
仁はこちらが好きである。
「今年はゴンドアカリブーの牧場も作り始めたんですよ」
「へえ」
ゴンドアカリブーはゴンドア大陸に棲むトナカイで、肉は食用、毛皮は防寒着を作れる。
雄雌共に角があるのが特徴。角は装飾品やボタンなどに加工される。
「ワインも美味しいです」
北の地で採れる山ぶどう系のブドウを栽培して作ったワインであり、熟成したものはラインハルトが太鼓判を押した味である。
そうした独自の食材で歓待されたアーノルトは、ここへ連れてきてもらってよかった、とあらためて仁に感謝したのである。
* * *
翌日、ロードトスとその妹ヴィータ、それに許嫁のリュドミラがやって来て、アーノルトとチェルに挨拶をした。
アーノルトとチェルはもう完全に落ち着いており、ごく自然に挨拶を行う。
「『傀儡』のロードトスです。元は森羅氏族でしたが、養子に行きましたもので」
「妹のヴィータです。あたしは森羅氏族です」
「ロードトスの許嫁の、傀儡のリュドミラです」
「アーノルトと申します、以後、よろしくおねがいします」
「従者のチェルと申します。よろしくお見知りおきのほど、お願いいたします」
挨拶が終わると、ロードトスはアーノルトと、またヴィータとリュドミラはチェルと、話を始めた。
「アーノルトさん、とお呼びしていいでしょうか? 私のことは呼び捨ててくださって構いません」
「もちろん、構まわないよ。……では、ロードトスさん、と呼ばせてもらいましょう」
互いに『さん』付けの呼び方に落ち着いたようだ。
「ちょっと小耳に挟んだのですが、アーノルトさんは技術者なのですよね?」
「そうだよ」
「今ちょっと研究しているんですが、魔結晶の属性と、使用用途のマッチングについて、何かご意見はありませんか?」
「うーん、そうだなあ……」
アーノルトは少し考えてから答えを口にする。
「属性と用途のマッチングは、重要だが必須じゃない。それよりも同期の方が重要だと思うなあ」
「同期ですか?」
「そう。同期。同じ属性を使えば、同期は容易だけど……いや必要ないから忘れられがちだけど、魔力波の伝播にはロスが生じるし、魔法の発動って結構効率が悪いから、同期を取れば随分と変わってくると思う」
「なるほど……」
「同期か。確かにな。……水属性の魔結晶に火属性魔法を書き込んで発動させることだってできるからな」
仁が独りごちた、その言葉を2人は聞きつけた。
「そう、それだ。ジンが言った、それがいい例だよ」
「ジンさん、もう少し詳しく教えて下さい」
「え? うん。……まず、『属性』というのは、魔力波の周波数による分類だということは知っているな?」
「はい」
「え? そうなのかい?」
意外なことに、アーノルトはこのこと……『『属性』とは魔力波の周波数による分類である』ということを知らなかったようだ。
どうやら、経験則的な理解をしていたらしい。それはそれで大したことなのであるが。
そこで仁は、おさらい的に、ざっと魔力波の周波数について説明する。
「魔力も波である以上、『周波数』がある。それが属性を決めるわけだが、低い方から土、水、火、風、雷、光、闇となる……かな」
全属性というものもあるが、それは周波数の帯域がほぼ全部の属性に渡っているからである、と仁は説明していく。
アーノルトは興味深そうに耳を傾けている。
「雷、というのは要するに電気。光は電磁波だな。闇というのは『空間』だ」
「はい、そう習いました」
ロードトスが頷いた。
「うん。それでだな、魔結晶を媒体として魔法を発動する際には、共振と増幅が行われているんだが、この共振のしやすさがあるため、属性を一致させたほうが魔法の効果が高くなるわけだ」
「ああ、なるほどね」
どうやらアーノルトもなんとなくではあるが、感覚的に理解できたようだ。
例えは悪いが、『水属性の魔結晶に火属性魔法を書き込んで発動させる』というのは、低音用のスピーカーで高音を出そうとしているようなもの……かもしれない。
「で、話を戻すと、『同期』って言っていたが、実際には『励起』に近いかもなあ」
「れいき……ですか?」
「それはいったい?」
「ああ、ロードトスもそれは習っていなかったか。……『励起』というのは、外部から魔力を与えることで、魔結晶の状態を与えた魔力の属性に近づけることだ」
呼称や原理を知らずとも、実践的に行っている者は多いだろうな、と仁は結んだ。
「ああ、そういうことでしたか」
「ジンは物知りだなあ。やはりそれも『魔法工学師』の知識かい?」
「まあ、そういうことだな」
どうやら『魔導大戦』前のディナール王国にも、こうした魔法理論はなかったようだ、と仁は察した。
もっとも、仁が『周波数と属性』に気が付いたのもかなり後のことなので、『科学』の未発達な世界では致し方ないことではある。
「で、話を戻すと、アーノルトが『同期』と言っていたものは、『励起』に近いかな、それは……」
外部から加えた魔力で魔結晶の内部構造を部分的に支配し、望む属性の魔力波を得る……と仁は説明した。
「勉強になります」
「うん、いろいろと教えてもらいたいなあ、ジン」
ロードトスもアーノルトも、仁の講義を喜んで聞いていたのであった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
本日は『蓬莱島の工作箱』も更新しております。
https://ncode.syosetu.com/n0493fy/
お楽しみいただけましたら幸いです。
20210730 修正
(旧)食卓に並んでいるのは『ノルド連邦』独特の食材を調理したものだ。
(新)食卓に並んでいるのは『ノルド連邦』特産の食材を調理したものだ。




