80-15 引き合わせ
タイカゾ山とタホカ山の鞍部を通って『ハリケーン』は北へ向かった。
「……で、そういうわけで2代目『魔法工学師』が北方民族に協力することになって……」
少し速度を落としている『ハリケーン』の中で、仁はアーノルトにこれまでのことを掻い摘んで説明した。
「なるほどな。つまり、結局は人間も魔族……いや北方民族も、その『始祖』の子孫なわけだ」
「そういうことになるな。混血した相手が違うのと、暮らしていた環境の差もあって、今ではかなり違う民族になってしまったが、遺伝的には同一の民族……というか生物学的に同一の種族なんだ」
「それが『デキソコナイ』とやらの陰謀で仲違いを……なあ」
「もちろん、北方民族にも悪い奴や野心家はいたけどな」
「それは人類も同じだよな」
「アーノルトの言うとおりだ。『魔導大戦』の後にも『魔法連盟』なんて連中が文化文明の発達を邪魔したわけだし」
「まったくだ、愚かな者のせいで、人類は幾度も後退しているんだろうな」
「アーノルト様、眼下に地峡が見えました」
ちょうど話が一段落した時、チェルから声が掛かった。
『ハリケーン』はちょうど『パズデクスト大地峡』の上を飛び越えているところだ。
「あれが大地峡か。話に聞いただけだったが、本当に細いな」
「昔はあの付近に『百手巨人』が結構いたらしい」
「百手巨人か……本で見たことがあるだけだ」
「あれも『遺伝子実験』の産物だったというのがなあ」
「遺伝子……か……概念は学んだが、よくわからないな」
アーノルトの時代は、まだ『賢者』シュウキ・ツェツィの教えが、一部とはいえ正しく伝えられていた時代なので、その程度の知識はアーノルトも持っていた。
「まあ、人の体を作るための設計図が、細胞の中に入っていると思えばいいよ」
「そうなんだろうが……それほど小さいものを弄れるというか……どう弄ったらどうなる、ということを知っているということが信じられない」
「それは同感だな」
仁自身、遺伝子操作などという所業はあまり好きになれないのだった。
「今はほとんどいないようだから」
「うん。……ああ、いよいよゴンドア大陸かあ。ちょっと緊張するな」
「大丈夫さ。これから行く所は、みんな気のいい人ばかりだから」
* * *
『ハリケーン』が着陸したのは『森羅』の氏族長の館前。
シオンには老君から事前に連絡が行っているので、シオンをはじめ、氏族長ベリアルス、シオンの母ロロナが迎えに出てきていた。
仁たちは、仁、礼子、ホープ、アーノルト、チェルというメンバーである。
『ハリケーン』は『森羅』の人たちがきちんと管理してくれることになる。
「いらっしゃい、ジン」
「ジン殿、ようこそ」
「ジンさん、よくいらしてくださいました」
「やあシオン。ベリアルス、久しぶり。ロロナさんもお元気そうで何よりです」
そんなやり取りを見たアーノルトとチェルは、少し驚いている。
やはり理屈ではわかっていても、敵対していた相手がこれほど間近にいるのは初めてなのだから。
だが、仁が気やすそうに話しているのを見て、警戒心も解けていく。
そんなアーノルトが半歩踏み出したのを見た礼子が、
「お父さま、こちらをご紹介して差し上げませんと」
と声を掛けた。
「お、そうだな。……こちらはアーノルト。向こうはチェル。新しい友人だ」
「まあ、そうなの? アーノルトさん、チェルさん、よろしくね」
ロロナが進み出て2人の手を取った。
「え、あ、はい。アーノルトです、よろしくお願いします」
「チェル、といいます。アーノルト様の従者です」
2人は面食らいながらも自己紹介したのであった。
「さあ、それ以上は中で話しましょう」
シオンの言葉に、一同中へと入った。そのまま応接室へ。
出されたお茶を一口飲んで、仁はアーノルトとチェルの素性の説明を行う。
「……実は2人は……」
「…………」
『森羅』の面々はじっと黙ってその説明に耳を傾ける。
「……そんなことが…………」
「……」
「まあまあ、なんてことかしらね……『負の人形』の被害者がこんなところにも……」
シオンは驚き、ベリアルスは絶句し、ロロナは憤慨した。
次いでベリアルスはアーノルトに謝罪する。
「申し訳ない、アーノルト殿、チェル殿。唆されたとはいえ、先に手を出したのは北方民族だ。代表してお詫び申し上げる」
「いえ、とんでもない。僕は、そのようなお詫びを受けられるような者ではありません」
本当に、『魔導大戦』時の責任者でもなんでもないので、謝罪されても面食らってしまう、と言ったアーノルトなのである。
「まあ実際、当時の人間の代表扱いされても困るでしょうし」
仁が助け船を出す。
「そうでしょうね。……これは、こちらの気持ちの問題だから」
シオンが、むしろ『許されたい気持ちの表われ』だと告げる。
「それはお互い様でしょうし」
アーノルトが言う。
こうしてみて、当時の人間といえども、ちゃんと北方民族と会話ができていることに仁はほっとしていた。
チェルの表情も、来たばかりの時に比べ、ずっと和らいでいる。
「今日はゆっくりしていってね」
シオンはそう言うと、
「ローたちも呼ぶから」
と付け加えたのだった。
「ロー?」
怪訝そうなアーノルトに、仁は説明する。
「ロードトスっていって、シオンの曾孫なんだよ。俺とも面識があってさ。多分その他にも、ロードトスの妹のヴィータとか、ロードトスの許嫁のリュドミラとかも呼ぶんだろうなあ」
「楽しそうだな」
「ああ。……彼らもまた、ローレン大陸に住む者たちと同じ人間だとわかるさ」
「いや、もうわかったさ。……本当に、不幸なすれ違いで、我々は争ってしまったんだな。残念だ」
「そうだな。でもそういった過去を乗り越えて、よりよい未来につなげるのが、生きている者たちの務めであり、散っていった人たちへの餞になるんじゃないかな」
「なるほどな。いいことを言う」
「ありがとう。……昔誰かから聞いた言葉に、『祈りは人の想いであり、人の想いこそが希望となり未来を拓く』なんてのもあったな」
「ふんふん、祈りは想い、か。そうかもなあ」
アーノルトは、ここに連れてきてもらってよかったよ、と仁に礼を言ったのであった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
本日7月29日(木)は14:00に
異世界でホムンクルスになっていたのでスローライフを目指す
https://ncode.syosetu.com/n8402fn/
を更新します。
こちらも応援のほどよろしくお願いいたします。
20210729 修正
(誤)『魔導大戦』時の責任者でもなんでもないアーノルトなので、謝罪されても面食らってしまう、と言ったアーノルトなのである。
(正)本当に、『魔導大戦』時の責任者でもなんでもないので、謝罪されても面食らってしまう、と言ったアーノルトなのである。
(旧)「……で、そういうわけで俺は北方民族に協力することになって……」
(新)「……で、そういうわけで2代目『魔法工学師』が北方民族に協力することになって……」
20210730 修正
(旧)今ではかなり違う民族になってしまったが、遺伝的には同一の民族なんだ」
(新)今ではかなり違う民族になってしまったが、遺伝的には同一の民族……というか生物学的に同一の種族なんだ」




