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マギクラフト・マイスター  作者: 秋ぎつね
80 新たな仲間篇
3028/4352

80-14 飛行の行く先は

 初めて『ハリケーン』に乗ったアーノルトの興奮が少し収まったのを見計らい、仁が質問を行った。


「さっき『熱飛球』とか『熱気球』と言ったが、どっちが正式名称なんだ?」

「うん? ああ、一般には『熱を使って空を飛ぶ球』という意味で『熱飛球』が使われているが、僕は『熱気』で飛ぶ球、だと思っているから『熱気球』と呼んでいるな。……で、僕の主張に賛同してくれる人も幾人かいたなあ」

「そうなのか。俺は『熱気球』って呼んでいるぞ」

「おお、同志よ」


 そう言ってアーノルトは笑った。


「ご主人様、まもなく『オノユニ山』上空を通過します」


 操縦士のホープが教えてくれた。


「オノユニ山だって? 懐かしいなあ……!」

「まあ、待て」


 仁は窓のところへすっ飛んでいこうとするアーノルトを制し、『ハリケーン』の床窓を開けた。


「お、これはいいな!」

「だろう?」


 下方を見るにはもってこいの床窓。

 アーノルトは這いつくばるようにして、眼下に広がる風景を食い入るように眺めた。


「ああ、オノユニ山だ……少し、谷筋が変わったかな? 700年も経てばなあ……ああ、幕営地の地形はそのまま残ってるな!」


 懐かしそうな呟き。

 仁はホープに高度を下げてオノユニ山の周囲を旋回するよう指示を出した。


「お? ……ありがとう、ジン。……こうして空からオノユニ山を眺められる日が来ようとはな……鳥になった気分だよ」


 熱気球で飛んでみたいと思ったこともあったが、あれは軍用なので一個人が使うことなど当時は夢のまた夢だった、とアーノルトは言った。


*   *   *


 オノユニ山の周囲を4周した後、『ハリケーン』は少し高度を上げ、再び北を目指した。


「ああ、ボロロン平野か……!」

「今はボロロン『荒野』と呼ばれていますけどね」

「そうなのか。……ここは牧草地だったのが、『魔導大戦』で荒廃してしまった。だが、700年も経っても荒れたままとは……ああ、そうか!」


 何かに思い当たったのか、アーノルトは大声を上げた。


「どうした?」

「『重金属汚染』だよ」

「汚染か……」

「ああ。ここで両種族の存亡を賭けた、といっていいほどの戦闘があったんだ。結果、人類が負けたんだが、その時にここに重金属のイオンをばらまきやがったのさ。……敵がやったのか味方がやったのかは僕にはわからないが」

「どちらがやったにせよ、とんでもないことをしてくれたものだな」

「あの時は、皆、正気じゃなかったからな」


 自らの将来をせばめるような行為も、『今』を乗り切るために容認された……そんな時代だった、とアーノルトは言った。


「なるほど、だから植物がほとんど生えないのか……しかし、どれだけの面積を汚染したんだ……」


 仁の声には少し怒気が含まれていた。


「これだけの面積を浄化するのは相当大変だろうな」

「同感だね。汚染するのは短時間でできるけれどね」


 大雑把に見ても、5000平方キロメートルはあると思われた。

 1日1平方キロメートルを浄化しても、5000日……14年近く掛かる計算である。


「セルロア王国に報告したほうがいいな……」


 国家規模の事業になるだろうなと仁は思ったのである。


*   *   *


 それからも『ハリケーン』は飛行を続け、セルロア王国北側の国境に差し掛かった。

 そう、『クリューガー大山脈』である。


「うわあ……まさか空からこれを見られるとは思わなかったよ……!」


 憧れの山域を目の当たりにして、アーノルトは上機嫌だった。


「ああ、氷河が掛かっている……山頂付近は万年雪に閉ざされて……まだ寒いだろうなあ……」


 『ハリケーン』は東方向へと向きを変え、クリューガー大山脈の上をなぞるように飛んでいく。

 アーノルトは、憧れていた山域を上空からとはいえ見ることができてご満悦だ。


「そういえば、このあたりはもうセルロアじゃないんだろう?」

「ああ、フランツ王国だな。もう少し行くとクライン王国になる」

「大丈夫なのか? 越境ってうるさいんじゃ……」

「あ、それなら大丈夫だ。俺は各国間の移動はフリーパスだから」

「はあ、なるほど。『魔法工学師マギクラフト・マイスター』だから、か」

「そうなるな」

「たいしたものだ」


 そう言っている間にも『ハリケーン』はクライン王国に入った。


「もう少しでクリューガー大山脈の最高峰タイカゾ山が見えてくるはずだ」

「お、あれか! この目で見られるとはな! ……うわ、あれがそうだな!!」


 向かって左手前に第Ⅱ峰、奥に第Ⅰ峰がそびえている、

 どちらも白銀の雪を頂き、神々しい。


「あの頂に立ってみたかったなあ……」

「今ならできると……いや、そうか」


 アーノルトの言葉になにげなく返した仁だったが、その内容の食い違いに気づき、言葉を途中で飲み込んだ。

 いくら『人間そのもの』の身体とはいえ、やはり生身とは違う。

 登頂の達成感は小さいだろうなと察した仁であった。


*   *   *


「さて、ここで提案がある」


 タイカゾ山を間近に眺める場所に『ハリケーン』は停止。

 仁はアーノルトとチェルに、重要な選択をしてもらうことにした。


「なんだろう?」

「なんでしょうか?」

「これからの行き先だ」


 仁はそこで言葉を切り、アーノルトとチェルの表情を見つめた。

 2体とも自動人形(オートマタ)ではあるが、感情が表情に出るという稀有けうな構造なのだ。もっとも、どちらも仁が手掛けたものであるが。


「行き先?」

「……来たルートを戻るか、このまま東へ行くか、南へ行くか、それとも……北へ向かうか」


 東へ向かえば、旧レナード王国北部をかすめて海である。

 南はクライン王国。

 そして、北は……。


「魔族領……いや、『ノルド連邦』か」

「そうだ」

「なるほど、ジンがあらたまって聞いてきたわけがわかったよ」

「どうする?」

「その前に、確認させてくれ。……ジンは、『ノルド連邦』に知り合いがいるんだな?」

「うん、いるよ」

「わかった。……北へ向かってくれ」

「いいんだな?」

「うん」

「よし」


 そんなやり取りを経て、『ハリケーン』は北へと舵をとったのである。

 いつもお読みいただきありがとうございます。


 20210728 修正

(誤)「おお、同士よ」

(正)「おお、同志よ」


 20211117 修正

(旧)その時にここに重金属のイオンをばらまきやがったのさ」

(新)その時にここに重金属のイオンをばらまきやがったのさ。……敵がやったのか味方がやったのかは僕にはわからないが」

(旧)「とんでもないことをしてくれたものだな」

(新)「どちらがやったにせよ、とんでもないことをしてくれたものだな」

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― 新着の感想 ―
[良い点] はしゃいだり、感情が顔に出たり…感情を作り込んでいた(アーノルトはコピー)アーノルトの技術がすごいのか、それを表現できるオートマタを作ったり改修出来るマギクラさんがすごいのか。 ホ「カミ……
[一言] いや〜一度死んだ身で、昔馴染みの地を飛んで、不倶戴天の敵と会うわけですか しかも今度は平和裡に、お客様として訪れる事になると 阿「人生って時々思いもよらないことが起きるよね」 ジ「俺も色々…
[一言] #ええ・・・・・・ エ・裏ともラインハルトを指してるけど分かりにくかったなぁ滝汗
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