80-13 チェルの想い
「起動は管理魔導頭脳がやってくれ」
『了解だ。『起動せよ』』
「うむ……」
『アーノルト』が起き上がった。
「どうだ?」
「うん……手がある、足がある。感覚がある。……ああ、素晴らしいね」
「ちゃんと動かせるか?」
「大丈夫……な、ようだ」
『アーノルト』はゆっくりと立ち上がる。
そのまま2、3歩進み、立ち止まると、感極まったように涙を流した。
「おお……この身体は涙も流せるのか……ジン殿、ありがとう! もう一度、こうして歩けるとは思わなかったよ」
「アーノルト様……!」
今度はアーノルトの前にチェルが跪いた。
「お会いしたかった……」
「チェル、僕は君を作ったアーノルトじゃない。ただの残滓だ」
「いいえ、あなたはアーノルト様です……」
そんな2体を見た仁は、
「アーノルト、チェルにとって君は間違いなくアーノルトなんだよ。この前そう言っていたじゃないか」
「む、『その存在にとって……』というやつか。確かに言ったな」
「そうさ。だから、君もまたアーノルトなのさ」
「いいのかな、僕は……僕がアーノルトを名乗っても」
その言葉に、チェルが反応した。
「アーノルト様はアーノルト様です!」
「そう、か。……ありがとう、チェル」
チェルがいてくれれば、自分は自分でいられる、とアーノルトは言った。
「いつまでも、この身が朽ちるまで、わたくしはアーノルト様と一緒、です……」
聞く者によってはプロポーズにもとれるようなセリフを口にしたチェルに、アーノルトはたじたじである。
「そ、そうか。まあ、よろしく頼むよ」
「はい!」
チェルはアーノルトの手に縋り、深く頭を下げたのだった。
* * *
「ええと、とりあえず丸く収まった、ということで、1ついいかな?」
「……うん、済まなかったね。ジン殿、ありがとう。礼を言うよ。で、何かな?」
「いや、こっちの魔導頭脳について」
今、『アーノルト』の人格は、管理魔導頭脳と自動人形の両方に宿っている状態だ。
今は正常だが、この先、遠い未来に、正気を保てなくなる可能性がある。
「アーノルトが分離した今、管理魔導頭脳内の人格部分は停止させておいたほうがいいと思ってな」
「ああ、確かにそうだね。……管理魔導頭脳、君はどう思う?」
『そのとおりだな。論理的に考えて、休眠させておくのがいいだろう。……ジン殿ならできますよね?』
「あ、ああ」
普通の人間なら自分から休眠する、というような選択はまずしないであろうが、魔導頭脳は論理的な考えをするので、その影響か、こちらのアーノルトは休眠を受け入れたのである。
* * *
「…………『上書き』……これでいいだろう」
仁は『上書き』を駆使し、管理魔導頭脳の制御核、その空き領域に魔導式を書き込んでいき、アーノルトの人格部分を切り離したのである。
非常に繊細な作業で、仁の技術をもってしても20分も掛かってしまったのだった。
「どうだろう? 魔導頭脳として、動作はおかしくないはずだが」
『そうですね、ジン様、大丈夫なようです』
口調も変わっており、『アーノルト』の影響がなくなったことがうかがえた。
「そうしたら、こっちの管理魔導頭脳にも名前を付けてあげようじゃないか」
アーノルトが言った。
「そうだな……アーノルトが付けてやってくれ」
「わかった。うーん……『ライアン』にしようかな」
『わかりました。私は以後『ライアン』と名乗ります』
「よし。ライアン、これからも頼むよ」
『了承』
こうして、『第2地下基地』の管理魔導頭脳騒動は終わりを見せた。
* * *
「……で、残った作業がこれなわけだ」
「いやあ、楽しいなあ!」
仁とアーノルトと礼子とチェルが、『第2地下基地』内の整備を行っている。
外部センサー類がかなり駄目になっていたのでその交換だ。
身体ができたので張り切っているアーノルトがどんどん進めていく。チェルがその助手を務め、仁と礼子はただついていくだけとなっている。
(まあ、こういうのもたまにはいいさ)
アーノルトとチェルが楽しそうなのでそれはそれで、と割り切る仁であった。
それに、アーノルトの腕前は確かなもので(仁より遅いのは仕方がないが)、仁としても参考になるようなやり方が幾つか散見できたのである。
* * *
『第2地下基地』の整備・改修が終わったのは深夜になってしまった。
アーノルトは時計機能に連動し、『眠る』ことができる機能も付いている。
そういうわけで、アーノルトは『眠る』こととし、仁も『ハリケーン』で眠る、という建前で蓬莱島に戻って休んだのであった。
* * *
翌27日、現地時間午前7時、仁が再び『第2地下基地』を訪れた。
「おはよう、アーノルト」
「ジン、おはよう」
既にアーノルトと仁は互いを呼び捨てにする仲となっていた。
「今日は、外へ行かないか?」
「外か……いいな!」
「行ってらっしゃいませ、アーノルト様」
「何を言ってるんだ、チェルも行くんだよ」
「え?」
もう『第2地下基地』の整備は終わっているから、魔導頭脳『ライアン』がちゃんと管理してくれる、と仁は言った。
「それに、チェルもアーノルトと出掛けたいだろう?」
「え、わたくしは…………はい」
「よし、決まりだ」
行き先は俺に任せてくれと仁は言い、仁、礼子、アーノルト、チェルらは地上へと移動したのである。
そこには『ハリケーン』が待っており、まずは乗り込むことになる。
「お、これがジンの『ハリケーン』か、楽しみだな」
「お邪魔いたします」
「ああ、乗ってくれ」
仁、礼子、アーノルト、チェルを乗せて『ハリケーン』は浮き上がった。
「おお、これは快適だ。熱飛球……『熱気球』より数段上だな!」
上機嫌なアーノルト。
チェルはそんなアーノルトに寄り添っていた。
『ハリケーン』はまず、北へ向けて飛んでいくのであった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20210727 修正
(誤)「そのとおりだな。論理的に考えて、休眠させておくのがいいだろう。……ジン殿ならできますよね?」
(正)『そのとおりだな。論理的に考えて、休眠させておくのがいいだろう。……ジン殿ならできますよね?』




