80-12 離れ業
仁Dは、『拠点で作業してくる』と告げ、礼子とともに一旦『第2地下基地』を辞した。
ちなみに、砦近くに建てたログハウスに簡易転移門が設置してある。
こちらは仁と同じ魔力パターンでないと動作しないので安心だ。
もっとも、『しんかい』を経由しているし、今は『職人』99が常駐して番をしてくれているので、さらにセキュリティは高まっている。
* * *
「さて、始めるか」
蓬莱島の工房で、仁は礼子と共に作業を開始した。
構成は、以前作った『紛い物』たちだ。
コンセプトは『人間そのもの』。
『そっくり』ではなく『そのもの』を目指す。
ただし、打ち合わせたように、敵対存在に対峙する際は敵の強さに比例してリミッターが解除されるようにする。
「ここだよな……」
『人間そのもの』だと、骨や筋肉の強度も人間並みにする必要がある。
まあ、『人間』という範疇は結構範囲が広いので、その中でも上位に合わせるつもりの仁であるが。
「ジン兄、悩み事?」
エルザが工房を覗いて、何やら考え込んでいる仁を見つけた。
「ああ、エルザ。そうなんだよ。実は……」
仁はエルザに悩んでいる内容を説明した。
「そう……」
エルザもすぐにはいい案が出ないようである。
2人で(礼子も、そして老君も多分考えている)考え込んでいたが、
「そうだ、『強靱化』や『補強』で強化しよう」
「ん、いい考え」
「さすが、お父さまです!」
魔導系素材の強化率は高い。例えば、マギ・アダマンタイトを『補強』で強化すると、硬度で3倍以上、引張強度で10倍以上の効果が上がる。
リミットが人間の10倍なら、ちょうど使いやすい数値である。
『紛い物』の時は酸化アルミニウム(Al2O3)を使ったが、今回は強化をする前提なので、マギ系素材としてマギジュラルミンを使うことした。
これは超ジュラルミン(アルミニウム94パーセント、銅4.5パーセント、マグネシウム1.5パーセント)のうち銅の半分をミスリル銀で置き換えたもの。
硬度が高く、靭性は低め。
これの内部を発泡させて比重を骨の2.0〜2.1に合わせた。デフォルトの強度は骨の倍くらいあるが、これは致し方ないと割り切ることにする。
なんと15分も掛かってしまった。仁としては記録的な遅さである。
「筋肉の方はもっと楽なんだがな」
魔導素材の筋肉も、比重そのものは人間のそれとあまり変わらないからである。
こちらは魔導神経線を接続しながら、手早く作業を進め、3分で終了。
その後は、特に問題になる箇所もなく、作業は順調に進む。
シールドケース仕様にし、制御核を厳重に保護する。
視力や聴力など五感も人間並みプラスアルファで調整。もちろん触覚、嗅覚、味覚も備えている。
視力と聴力は『強化』すれば5倍くらいの性能に跳ね上がる。
触覚、嗅覚、味覚は……そのままだ。
「嗅覚は強化して役に立つかもしれないけど……今回は見送ろう」
鼻がよすぎるというのも、時と場合によっては考えもの……臭い場所などで……なので、仁は視覚と聴覚に絞ったのだ。
聴覚も、聞こえすぎてはかえって不便なこともあるので、選択的に強化できるようにしてある。
つまり、耳を澄ましていくと、少しずつ小さな音や遠くの音が聞こえるようになっていく感じだ。
「あとは……声か」
これはチェルからもらったデータの中に音声も含まれていたので、それに基づいて調整する。
老君にやってもらったことで、3秒で調整が終わった。
「最後は外見だな」
これはいつもの作業である……が、皮膚や髪の強度を人並みにするのがかなり難しい。
『紛い物』のときと同じように進め、なんとか終了。
「できたな」
「これが『アーノルト』さんですか」
「そうらしいな」
「思っていたよりお若いですね」
「チェルの願望も入っているかもなあ」
見た目は25歳くらいである。
明るい茶色の髪に、同じ色の瞳。
身長は175センチ、やや痩せ型。
体重は……これだけは元のアーノルトよりわずかに重いのではないかと思われるが、なんとか72キロで仕上がった。
顔は……普通である。
「うん、いい出来だ。これならチェルも喜ぶだろう」
そういうわけで、仁は早速完成したボディを『第2地下基地』へと運ぶことにした。
「お父さまが行くのですか?」
「ああ。もう安心安全だとわかったからな。礼子もいるし。それに、管理魔導頭脳からアーノルトの情報だけを移植するのはやっぱり俺自身が行かないと」
「わかりました」
「あとは何を持っていけばいいかな……」
検討の結果、最終的に、作業の助手として『職人』1も連れていくことになった。
アーノルトのボディは頑丈なカプセル状のケースに入れ、『職人』1が担いで運ぶことに。
* * *
まずは、ルトグラ砦そばに建ててあるログハウスへと移動。
なんとそこにはチェルが待っていた。
「まあ、もうできたのですか!?」
「もう、って言っても、半日も掛かったぞ」
「……それがジン様ですのね……あら?」
「どうした?」
「いえ、今度はジン様ご本人なのですね」
「ああ、よろしく頼む」
「光栄ですわ」
そして、チェルとともに『第2地下基地』へと向かう。
空調は完璧に動作し、空気の淀みはない。
管理魔導頭脳のある部屋で、『職人』1は運んできたカプセルを床に置き、蓋を開けた。
「まあ!!」
満面の笑みを浮かべるチェル。
「これこそ、アーノルト様です……!!」
「チェルにそう言って貰えれば大丈夫だな」
『うん、ジン殿、素晴らしい出来だよ。ありがとう』
管理魔導頭脳も仁に礼を言った。
「さあ、人格を移植しよう」
『よろしく頼む』
実は、これが最も難しい作業である。
というのも、『管理魔導頭脳』として成立している制御核から、『アーノルト』としての人格に相当する部分だけを抜き出して書き込む必要があるからだ。
人間業ではない。
『魔法工学師』にしかできないであろうという離れ業である。
「『読み取り』……『書き込み』……」
そのため、念を入れて一度別の魔結晶に書き込んでからデバッグを行い、改めて『知識転写』することになる。
仁はこれを10分で終わらせた。
「ふう、久しぶりに疲れた」
「……疲れた、で済むのですか……」
作業を見ていたチェルも引き気味である。
『お見事、ジン殿』
当のアーノルトは仁の妙技を賛美していた。
「さあ、起動しよう」
いよいよ、『アーノルト』が目を覚ますことになる……。
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