80-11 アーノルト
『第2地下基地』の管理魔導頭脳が、チェルを作った技術者、『アーノルト』の記憶を持っているのではないかと指摘した仁D。
それに対し、管理魔導頭脳の答えは、
『そうだとも言えるし、そうではないとも言える』
という曖昧なものだった。
「どういうことですか? あなたは、アーノルト様ではないのですか!?」
少し悲痛な声音で尋ねるチェル。
彼女にとって製作者であるアーノルトは、特別な存在なのだ。
『チェル、私はアーノルトではないのだよ』
「……アーノルト様……」
『言っただろう。私は、いくら似ていてもアーノルトではない』
「ですが……!」
ここで、仁Dが、確認するように再度話しかける。
「先程の話の続きだが、『観測者が認めたら、その存在』ではなかったのか?」
『……む?』
「チェルが認めているのだから、チェルにとって君は『アーノルト』なのだろう。少なくとも、準じる存在だ」
『む……そう来たか』
「だから、チェルにとって、君は『製作者』なんだよ」
『……』
仁Dに説得された管理魔導頭脳は言葉に詰まっていた。
こうした、人間臭い反応が端々に見られたことも、仁Dが管理魔導頭脳の正体というか中身というか、その基本部分が『アーノルト』なのではないかと推測した理由の1つでもある。
『さすが、当代随一の技術者だけあるね。……認めよう、私は『アーノルト』の人格を移植された魔導頭脳だ』
「やはりな」
『ジン殿はあまり驚かないのだな』
「まあな」
実際に、人間の意識をまるごとコピーした魔導頭脳を幾つも見、知っている仁たちなのだから。
最近ではそうした8人の『始祖』と出会ってもいる。
だが、チェルはそうではなかった。
「アーノルト様……お会いしとうございました」
管理魔導頭脳の前に跪くチェル。
『チェル、およし。僕は君に、そのようなことはしてほしくない』
「アーノルト様……ですが……」
「管理魔導頭脳……いや、チェルと同じく『アーノルト』と呼ばせてもらおう。……アーノルト、提案がある」
チェルとアーノルトのやり取りを見ていて、黙っていられなくなった仁Dが口を挟んだ。
『む……何だ?』
「俺は、『昔は人間だった』魔導頭脳のために、これまでに幾体も人間そっくりの身体を提供したことがある。君も、それを使わないか?」
『何と……そんなことができるのか、君は』
「ジン様! 是非お願いいたします! もしもアーノルト様のお身体を再現してくださったなら、わたくしの忠誠を捧げます!!」
だが仁Dは微笑みながら首を振った。
「いや、チェルの忠誠はアーノルトにのみ捧げるものだろう? そんなことをしてもらわなくても、アーノルトのボディは用意するよ」
「本当ですか! ありがとうございます!!」
『……ジン殿、そうまでしてくれる理由はなんだい?』
「理由? 理由か……そうだな……強いて言えば、五体を持ったアーノルトと友達になってみたいから、かな」
『友に……か』
「ああ。それにやっぱり、チェルの想いを叶えてやりたい」
そう言いながら仁Dは無言で寄り添っている礼子の方をちらりと見た。
「それに、魔導頭脳に移植された人間の頭脳は、長い年月を耐えられずに発狂するケースがあるんだ」
「え!? 駄目です、嫌です、アーノルト様!」
「まだ大丈夫だよ、チェル。どうやら最近まで休止していたからだろう。アーノルトの精神は健全そうだ」
「ああ、よかったです……」
ほっとするチェル。
仁は改めて魔導頭脳に向き直った。
「そういうわけだ。どうだろう、アーノルト?」
『……うむ………………』
魔導頭脳としては異様に長い間の後、
『それではお願いするとしようかな』
という返答があったのである。
「よし、任せてくれ」
仁Dは朗らかに頷き、仕様を決めよう、と言った。
「身体能力は人間並み。ただし、いざという時には10倍の能力を発揮できる。容姿はチェルに聞こう」
『うん。その『いざという時』についても決めねばならないね』
「そういうことだな」
『私としては、接敵時……とも思うが、敵の定義が難しいね』
「そうだなあ……」
敵に対して、どう力を出すか。
ここで仁は、昔読んだ昔話風の童話を思い出した。
「……倍の力……」
『え?』
「いや、俺が昔読んだ物語の中に、『倍の力』というのがあったんだけどな」
『どういう意味だね?』
「簡単に言うと、『敵の倍の力を出せる』というものなんだ」
『ほう、興味深いな。そんな能力があったのか』
「いや、これは創作物だから」
『なんだ、そうなのか。……しかし、その作者の想像力は大したものだな』
「うーん……もしかすると古典にそんな能力があったのかもしれないが……今議論したいのはそこじゃない」
話が逸れそうになったので、仁Dは軌道修正する。
「相手に応じて……もちろん上限はあるが……出力が上がるというのはどうだろう?」
『それは面白いな』
「倍、だとちょっと極端だから、2割増し、くらいでどうだろう」
『悪くない。上限はノーマルの10倍くらいかい?』
「それでいいんじゃないかな」
ここで、黙っていられなくなったチェルが言葉を挟んだ。
「アーノルト様は、わたくしがお守りします!」
『はは、それはありがたいね。……ジン殿、そんな感じで頼むよ』
「わかった。……それじゃあチェル、アーノルトの容姿について、データをくれないか?」
『はい』
仁Dは礼子から魔結晶を1個出してもらい、そこへチェルから『知識転写』を行う。
チェルのイメージする『アーノルト』の容姿についてのデータが保存された。
「一応、本人に確認してもらうか」
仁Dは『知識送信』を使い、管理魔導頭脳に確認してもらった。
『うむ……少々、美化されているな……』
「いいえ! かつてのアーノルト様はこうでした!」
『チェル……君の賛美は嬉しいが、少々行き過ぎているよ』
アーノルトに指摘されたチェルはがっくりと肩を落とす。
「申し訳ございません……」
『いいさ。……ジン殿、ここをこう、直してもらえるかい?』
「承知した」
こうして仁Dは、『アーノルト』のための外見データも手に入れたのであった。
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本日7月25日(日)は14:00に
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