80-09 製作者の設定
仁Dは、チェルの改造を行う前に、1つの実験を行うことにした。
「チェル、君は、『ハーン』を起動させることができるのか?」
「は?」
「いや、俺が見たところ、君の魔力パターンと管理魔導頭脳の魔力パターンは同じだ。なら、『ハーン』だけじゃなく、他の全部のゴーレムを起動させることができるんじゃないかと思ってね」
「やったことはございませんが……確かに、理論的にはできそうですね」
「だろう?」
現に、自動人形ではないが、それに近い『分身人形』である仁Dがゴーレムの起動を行うことができるのだ。
自動人形のチェルにできないはずはない。
「改造後の動作チェックをさせたいんだが、チェルが起動させてみてくれないか?」
「わかりました。やってみます。……『起動せよ』」
「……はい」
『ハーン』が起き上がった。
「おや? 私を起動させたのは『チェル』、あなたですか?」
「ええ。……それよりも『ハーン』、調子はどうですか?」
その問いに対し、ハーンはセルフチェックを行う……『アドリアナ式』の。
もちろん仁Dが組み込んだものだ。
「異常なし。動作効率が途轍もなく向上したのを感じます」
「よし。……そうなると、『ハーン』、君の主人……いや命令者はここの管理魔導頭脳になっているのか?」
「はい、ジン様。同時に、ジン様にもそれに次ぐ命令優先度があります」
「うーん……そうなったか」
製作者ではないが、大幅な改造を加えた仁Dなので、命令権が大きくなったようである。
とはいえ、仁もしくは仁Dが『至上の主人』にならなかったことで、実験はまあ成功だな、と仁Dは判断した。
「よし、次の実験だ。『ハーン』、君がもう1体の汎用ゴーレムを起動させてみてくれ」
「わかりました。『起動せよ』」
「……はい」
もう1体の汎用ゴーレムも起き上がり、『ハーン』の命により、セルフチェックも行った。
命令権を確認したところ、1位が管理魔導頭脳で、2位が仁Dであった。
その後、『ハーン』ともう1体の汎用ゴーレムは一旦停止させている。
「うーん……これはどう解釈すべきかな……」
「ジン様、どういうことですか?」
実験の意図がわからず、チェルは仁Dに質問を行った。
「それはな……」
仁Dは順を追って説明を行う。
通常、ゴーレムや自動人形は、製作者を『至上の主人』と見なす。
それは、『魔力パターンの共振』によるものである。
だが、同じ魔力パターンである、同系機種に対してはそうした認識を行わない。
例えば『職人』がゴーレムを作ったとしても、『至上の主人』は仁である。
これはなぜか。
仁たちの説としては、製作者と被造物とでは、魔力パターンが同じとはいえ、何かが異なっているから、ということになっている。
つまり、仁と『職人』とでは何かが違うのだ。
「ですが、今のジン様は作り物の身体を介していらっしゃいます。それでも『至上の主人』はご本人であるとみなされるのはなぜでしょう?」
「ああ、そこへ気がついたか」
それは『仁ファミリー』にも長らく不明だった点である。
が、今は一応の説明が付いている。
「それはな、このボディを使ってはいても、元になる俺の魔力パターンが伝わっているからだと思う」
「つまり、遠隔操縦での魔力パターンはご本人と同じで、被造物の魔力パターンは同じであるとはいえ限定的だと?」
「そうだ。それがわかるなんて、やっぱり凄いな、チェルは」
「お褒めいただきありがとうございます。……ですが、それではまだ、わたくしが起動した際に……あっ……」
途中で気が付いたらしく、チェルは言葉を途切れさせた。
「そう。『製作者』と同じ魔力パターンなので、『書き換え』られなかったんだろうと思う」
チェルと『ハーン』……いや、他の戦闘用ゴーレムと汎用ゴーレムも、製作者は同一人物だった。
おそらく『制御核』を作ったのが同一人物であり、ボディの他の部分は違う技術者が作ったのかもしれないが、それは今はどうでもいいこと。
「俺が改造したとしても、最終的にチェルが起動したから、『至上の主人』の設定は書き換えられなかったんだな」
「……」
「それだけ強固な書き込みだったんだよ、君たちの製作者の書き込みは」
「で、ですが、制御核も交換したではないですか!」
それならその際に『至上の主人』が書き換えられるのではないかとチェルは言った。
「いや。今回俺が使ったのは『知識転写』ではなく『複写』だからな」
仁Dは、オリジナルの想いを残しておきたかったので、知識転写ではなく複写を使った、と説明した。
知識転写の場合は、一旦術者の魔力パターンに置き換えてから書き込みを行うが、複写の場合はそっくりそのまま複製するところが違う。
ちなみに、知識転写は人間の脳内情報を魔結晶に転写することもできるが、複写は単に魔結晶から魔結晶への複写しかできない。
「そうなると矛盾といいますか、わからないことが1つあります。……ジン様はわかっていらっしゃるのですか?」
「何をだ?」
「ジン様は先程例として、『職人』殿が起動した場合でも製作者であるジン様が『至上の主人』のままとおっしゃいました」
「うん」
「でしたら、わたくしや『ハーン』がゴーレムを起動した場合の『至上の主人』は……『アーノルト様』になっていなければいけないのでは?」
「そのとおりだな。『ハーン』や他のゴーレムの『至上の主人』はその『アーノルト』って人のままだと思うよ」
「え……?」
仁Dは『ハーン』他のゴーレムの制御核を複製する際、念のためにバックアップを取っていたのだが、その時に気が付いたのである。
「ええと、ジン様は制御核の内容を言語に直さなくても、直に閲覧できるのですか?」
「できるぞ」
「…………それが『魔法工学師』なのでしょうね……」
「ええと、だからな、チェルの整備を行ったあと、『ハーン』に起動してもらえば、その『アーノルト』って人が『至上の主人』のままになっているはずだよ」
「そうなのですね……嬉しいです」
「やっぱり、その人は特別な人だったんだな」
「はい」
おそらく礼子にとっての自分のような存在だったのだろうか、と仁Dを操縦している仁は想像したのである。
「それじゃあ、チェルの整備をしたいから、『ハーン』を起こしてもらえるかな?」
「わかりました。『起動せよ』」
そして、いよいよチェルの整備と改良が開始される。
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