80-07 気さくな魔導頭脳
仁Dは『第2地下基地』へ向かうために、開いた隔壁を通過した。
そのまま、転移魔法陣のある部屋へと向かう……が。
「隔壁が開いているのに、転移魔法陣を使うのか?」
「そうです。隔壁は開きましたが、人間が使う通路は元々ありませんから」
「どういう設計思想だ……」
仁Dは首を傾げた。
「なあ、もう『魔導大戦』も終わって久しいし、非常時でもないんだから、『第1地下基地』から『第2地下基地』へ行くルートをきちんと設定しないか?」
「はい、それも選択肢の1つですが、私の一存では決めかねます。『第2地下基地』の魔導頭脳とも相談しなくては」
「それもそうか」
仕方なく、まずは転移魔法陣を使って『第2地下基地』へと移動した。礼子がお供である。
「まず、魔導頭脳のところへご案内します」
「うん」
仁Dと礼子を案内していくチェル。
『第2地下基地』内部は、かなりこぢんまりしているな、と仁Dは感じた。
地下深く設営されているため、壁も天井も床も、基本的に全て天然石である。
それに強化系の魔法を掛けているようだった。
避難所としての役割は受け持っていないので、部屋数は少ない。
基地は3層構造となっており、最下層が物資倉庫だとチェルが説明してくれた。
「魔導頭脳は中層の中央に設置してあります」
転移魔法陣は上層に設置されていたので、中層へと階段を使い降りていく。
「内部の警備は?」
「はい、整備用ゴーレムが定期的なチェックをしながら巡回しているだけです」
「なるほど。……内部の換気をしているのは?」
「製作者様たちがいらっしゃったときの環境を維持しているのです」
「なるほどな。君たちは、製作者を敬慕しているんだな」
「はい」
仁Dの言葉を、チェルは素直に肯定した。
短期間ではあるが、その作業を目にし、『ジン』という『魔法工学師』が被造物に注ぐ慈愛を感じていたから。
製作者が被造物を、被造物が製作者を、互いに想うその事実を、決して否定も嫌悪もしないということを信じられたから。
「会ってみたかったな、チェルの製作者に」
「はい、……アーノルト様も、きっと、ジン様にお会いしてみたかった、と思いますよ」
「そうか」
「はい」
確かに、チェルから話をちょっと聞いただけでも、わかり合えそうな人物だなと仁Dを操縦しながら仁は思っていた。
そんな話をしていたら、
「ここが魔導頭脳のある管理室です」
目的地に到着していた。
「どうぞ、ジン様」
「うん」
チェルは仁Dに先んじて管理室に入り、安全だということを示し、手招いた。
「『管理魔導頭脳』、最高峰の技術者の代行をお連れしました」
『チェル、ご苦労さま』
「……代行?」
自分のことを代行とよんだことに仁Dが訝ると、チェルは微笑んでその理由を説明する。
「はい。あなた……そのボディは『作り物』ですよね?」
「! ……わかるのか」
「はい。体表面に結界をまとっているので直接はわかりませんでしたが、幾つか情報がありましたので、推測することができました」
チェルによる説明とは。
1.ジンとマキナ3世の配下ゴーレムが、同じ魔力パターンを持っていること。
2.ジンとマキナ3世の連携がよすぎること。
3.ジンが『目立つことを嫌う』と言ったこと。
の3点から、マキナ3世が、ジンの別の顔であると推理できる。と言う。
また、先日の『大聖堂』制圧で行動をともにしていて、
1.マキナ3世が、技術系の人間にしては行動力がありすぎること。
2.行動時間に対し、疲労感が感じられなかったこと。
から、マキナ3世が精巧な自動人形かそれに類するボディであると推測したという。
「安全性を考えますれば、こうしてこの場にジン様自身がおいでになる必然性はありません。そういうわけで、そのボディが作りものであると判断いたしました」
「……見事だな」
仁Dを操縦している仁は脱帽の思いであった。
「チェル、君の頭脳は素晴らしいな。推理力、判断力、想像力……君を作った製作者を尊敬するよ」
「ありがとうございます」
仁Dの言葉に、チェルは深くお辞儀をして、感謝の礼を示した。
「ですが、そのボディを動かしている『精神』と『意志』はジン様のもの。ですのでわたくしはあなたを『ジン様』として敬います」
「ありがとう。そうしてもらえると助かる」
『話は済んだかな? 現代の技術者殿』
チェルとのやりとりが一区切り付いたタイミングを見計らって、魔導頭脳が話し掛けてきた。
「ああ、待たせたな。俺は仁。二堂仁という。ジン・ニドーとも呼ばれているな。3代目『魔法工学師』だ」
『『第2地下基地』を管理する魔導頭脳だ。お会いできて光栄だよ』
「それはこちらこそだ。……チェルは本当に素晴らしい自動人形だ。その頭脳が特に凄い」
『ありがとう。……とりあえず、本題に入ろう』
魔導頭脳はそう言って、現状を説明した。
それによると、『第2地下』の基地は近年劣化が目立ってきているのだが、修理に使う素材が不足しており、このままでは早晩機能に支障が出始めるだろう、ということであった。
『施設内の酸素をなくすことができていれば、もう少し劣化を減らすことができたのだが』
「確かに、酸化して劣化した箇所が多そうだな」
『だが、それはできないし、したくもなかった。この施設は人間の滞在を想定していないとはいえ、人間を拒むものではないからだ』
「なんとなくわかるな」
『そうか、わかってくれるか』
「うん。それで、どことどこが酷い? まずは劣化の酷いところから手を付けていきたい」
『当然だな。酷いというなら、魔導頭脳の外被だが、これは機能に直接影響しないから、後回しでいい。急を要するのはセンサー類だ』
「ああ、なるほど。センサー本体ではなく、導線だろうな?」
『そのとおりだ。察しがよくて助かる』
「……ミスリル銀は……ないのだろうな」
『ない。そもそも、導線はミスリル銀製ではない』
「なんだって?」
『特殊な銅合金だ。黄銅に1パーセントのミスリル銀を混ぜた合金なのだ』
その組成を聞いた仁Dは、合金の性質をおぼろげながら想像できた。
「なるほど……代替素材としては悪くなさそうだな。展性もありそうだし、強度もそこそこあるだろう」
『そのとおりだ。だが、やはり魔力抵抗はミスリル銀よりも大きい。それに酸化しやすい』
「そうだろうなあ。それじゃあ、ミスリルはこっちで用意するか」
『助かる』
仁Dは、この魔導頭脳が気さくで、交渉しやすいことにほっとするとともに驚いていた。
しかし、とりあえずは詳細の決定である。
仁Dと魔導頭脳の打ち合わせは続いていく。
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