80-06 チェルからの依頼
補佐自動人形の性能について、チェルは仁Dに尋ねた。
仁Dの答えは……。
「こいつの性能か……うん、それはチェルに見てもらいたかった点でもある」
……であった。
「まずは名前をどうしようかと思うんだが」
仁……というよりも『アドリアナ式』では、起動後に『主人』が名前を決めるケースがほとんど。
その『名付け』という行為が主従をはっきりさせるのである。
「チェルの名前の由来って何なのか、聞いてもいいか?」
「ええ、構いません。わたくしの前のシリーズの名前がアルファベット4文字で構成されていたらしいので、5文字にしたというくらいしか存じませんが」
「『CHELL』か……同じ5文字だと……Cの次でD……D…………うーん…………」
「ジン様、僭越ながら、『DOLIS』というのはいかがでしょう?」
「ドリスか……いいな。それにしよう」
チェルの助言により、補佐自動人形の名前は『ドリス』に決まった。
「あとは魔導頭脳の名前だが……『イザーク』のままというのもな……」
「『イザーク』のままでよろしいのではないですか?」
「そうかな?」
「はい。ベースは『イザーク』のようですし」
「わかった。……それじゃあ、起動しよう」
「同席、拝見させていただきます」
「『起動せよ』」
『……はい、『ご主人様』』
「よし。お前の名前は『イザーク』とする」
『わかりました』
「調子はどうだ? 改修前の記憶はあるか?」
『はい、ございます。ですが、それは『私』が『私』になる以前のことであり、『私』ではありませんので、『記憶』というより『情報』ですが』
「うん、そこまで認識できていればいいだろう」
このやり取りを傍聴していたチェルは非常に驚いた。
起動時からここまで論理的に対話ができる魔導頭脳は初めてだったのだ。
もっとも、これは『アドリアナ式』共通の仕様であり、デフォルトで必要十分な知識を与えれば可能なことである。
『デフォルトで必要十分な知識を与える』ということが簡単ではないだけで……。
「よし。次に、『イザーク』補佐のための自動人形を起動する。……『起動せよ』」
「はい、ご主人様」
白い髪の自動人形が起き上がった。
「よし。お前の名前は『ドリス』だ」
「はい、私の名前は『ドリス』です」
「調子はどうだ?」
ドリスは『アドリアナ式』に共通のセルフチェックを行い、
「全く問題はございません。よい調子です」
「それならよし。……これから、魔導頭脳『イザーク』と協力して、この『第1地下基地』を管理していってくれ」
「謹んで承ります」
「『イザーク』と『ドリス』の間に、ちゃんと『魔力による繋がり』は成立しているな?」
『はい、ご主人様』
「はい、ご主人様」
「それならよし。これからよろしく頼むぞ」
「…………」
一連の作業を傍観していたチェルは、それがただ定型的な手順を踏んだものではないと思った。
仁からは被造物への慈愛を、『イザーク』や『ドリス』からは製作者への敬愛を感じ取ったのである。
そして、肝心の性能。
リミッターを解除している今の自分とほぼ同じくらいである、とチェルは判断したのであった。
* * *
「さて『イザーク』。基地外部の情報は入ってくるか?」
『大丈夫です、基地周辺、半径2キロメートル以内のサーチ範囲に死角は存在しません』
「それならよかった」
「あ、あのジン様、いつの間に『第1地下基地』の外部センサーを修理なさったのですか?」
「ん? 今日だけど」
『ドリス』を作って、その後チェルが来るまでの間に行った、と仁Dは説明した。
「そ、そんな短時間で……?」
「礼子と『職人』が手伝ってくれたしな」
「それにしても……」
「もともとあった回線を利用したし……」
「わ、わかりました」
どうやらまだ仁を見くびっていたようだと、チェルは思い知るのだった。
* * *
それから午前中いっぱい、仁Dは『第1地下基地』の整備を行った。
清掃用ゴーレムも整備され、これまで以上の働きができるようになったし、基地内部もすっかりきれいになって居心地がよくなった。
メンテナンス面も強化され、小柄な整備専用ゴーレムが3体、新たに作られた。
各部屋も居住性がよくなったし、補佐自動人形のドリス専用の部屋も用意された。
その部屋には『第1基地』内を映し出すモニタが壁一面に嵌め込まれていた。
「普段はこの部屋を使ってくれ」
「ありがとうございます、ご主人様」
「ああ、それなんだが、あまり一般に知られたくないから、名前で呼んでくれ。ジン、と」
「はい、ジン様」
「うん、それでいい。……『イザーク』も、わかったな?」
『はい、ジン様』
「ジン様は、もう既に有名なのでは?」
チェルが不思議そうに聞くが、仁は首を横に振った。
「名前は知られているが、顔は売れていないからな」
「ああ、そういうことですのね。わかりました」
短い説明で言いたいことを飲み込むチェルはやはり優秀だなと思った仁Dであった。
* * *
昼食時間……仁Dは『分身人形』なので偽装だが……が終わったあと、『ハリケーン』から仁Dが『ルトグラ砦』へ戻ってくると、チェルが待っていた。
「あの、ジン様」
「うん?」
「お願いがあるのですが、聞いていただけますでしょうか?」
「俺にできることならいいが……」
「ありがとうございます。あの、『第2地下基地』も整備していただけないでしょうか」
「ああ、そういうことか。いいよ。元々、陛下に依頼されたのは『ルトグラ砦地下の施設』だから」
特に『第1地下基地』と指定されたわけではないのだ。
「そうですか! あの、お金はないのですが……」
「それは必要ない。陛下からもらうことになっているから」
「いえ、でも、多少はわたくしの依頼も混ざると思います……」
特殊な機材や秘密の施設も含まれるので、セルロア王国国王陛下が思っているよりも手間がかかるだろうから、とチェルは言った。
「ああ、そういうことなら、差分は情報で。魔導大戦時……特に末期のことを教えてくれればいいよ」
「はい、それでしたら」
そういうわけで、仁Dは引き続き『第2地下基地』の整備も行うことになったのである。
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本日は『蓬莱島の工作箱』も更新しております。
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お楽しみいただけましたら幸いです。
20210720 修正
(誤)ドーラは『アドリアナ式』に共通のセルフチェックを行い、
(正)ドリスは『アドリアナ式』に共通のセルフチェックを行い、




