79-37 保護
「何、オースに?」
『ファナ農場』の件がほぼ片付いた頃、『ハリケーン』にマキナ3世から連絡が入った。
「そうなんだ。事情は…………」
「……なるほど、『元聖女』の1人の両親を保護してくれというんだな?」
「そうだ」
「で、その人たちの住所や名前、容姿は?」
「『知識転写』で教えてもらった。情報をそっちにも送る」
「頼む」
こうしたやり取りがあって、仁Dは同乗しているセルロア王国国王の叔父であるフランシス・ヴァロア・ド・セルロアにも説明をした。
「なるほど、人質を取って言うことを聞かせる、か。古典的だが効果的だ。しかも監禁せずに地方に住まわせておくあたり、巧妙だな」
だが、もう1人の『元聖女』であるアリアンヌの両親は『大聖堂』内に軟禁されているという。
「そうしてみると、連中も一枚岩ではないのかもしれぬな」
「そうかもしれませんね」
やり方に統一性がないのは、派閥に分かれていて指揮系統が複数あるからではないか、とフランシスが言い、仁Dもその意見に賛成だった。
* * *
そうこうするうちに、イルミナ・ラトキン、『ランド91』、ハーン、そして礼子が戻ってきたのが見えた。
仁Dは操縦士のホープに指示を出し、『ハリケーン』を着陸させる。同時に『タウベ改2』も回収した。
礼子はサンプルとして無力化した戦闘用ゴーレムを2体担いでおり、ハーンは逮捕した農夫を引き連れている。
その後、『ランド71』から『ランド90』も戻ってきた。
「作戦は無事に成功した。ご苦労だった」
仁Dはあくまでも作戦指揮官としてのセリフを口にした。
その後、
「先程、マキナから連絡があった。向こうも順調のようだ。だが1つ、懸念事項があって、それをこちらに依頼してきた」
と言って、オースにいるという『元聖女』の両親を保護したいと説明する。
「わかりました。それがマキナ様のご指示であればなおのこと」
イルミナは組織人としての返答をした後、
「人命を救うのに否やがありましょうか」
と、自分の想いも口にしたのである。
* * *
『ハリケーン』は急ぎオースを目指した。
距離は10キロほど、すぐに到着する。
道中、保護対象の人物について、全員に説明する。
「『元聖女』アウラリアの両親、ダハドとユマリを保護します。住所は中央街西の4、容姿はこうです」
「おお」
モニタ画面に、中年の男女の姿が映し出された。
マキナ3世からの情報をもとに、老君が『覗き見望遠鏡』で捜し出した本人たちの姿なので、間違えようがない。
オース郊外に着陸した『ハリケーン』からは、イルミナ・ラトキンと『ランド91』が降り、『元聖女』アウラリアの両親を保護するため町中を目指した。
住所もはっきりしており、道順は『ランド91』が把握しているため、家はすぐに分かった。
住宅街にある共同住宅の一室である。
イルミナがドアをノックすると、すぐに応答があった。
「はい、どちらさまでしょうか?」
映像で見たとおりの女性が顔を見せた。
「ユマリさん、ですね?」
「はい、そうですが」
「ダハドさんはご在宅ですか?」
「え? あ、はい、主人も家にいますが」
「よかった」
「は?」
ここでイルミナ・ラトキンは身分証を見せた。
「『世界警備隊』のイルミナ・ラトキンと申します。お嬢さんのことで、旦那さまと一緒にご同行願います」
「は、はあ……少々お待ち下さい」
ユマリが引っ込み、代わってダハドが顔を見せた。
「ええと、妻から聞きましたが、娘のことで、同行せよと? どういうことですか?」
「時間がないかもしれないので手短にご説明いたします。……お嬢さんが『聖女』と呼ばれてらっしゃることはご存知ですか?」
「ええ、まあ」
「それで、その……」
ここで馬鹿正直に本当のことを告げてもややこしくなるだけだと判断したイルミナ・ラトキンは、
「『聖女』という立場はいろいろと難しいものでして、ご家族に危険が生じる可能性がありますので、私どもがお伺いしたわけです」
と、当たり障りのない説明をしたところ、なんとか納得してくれたようだった。
「はあ、そうですか。……それで、何日くらい……」
「必要なものはこちらで用意いたしますので、貴重品だけお持ちください」
「わかりました」
納得してダハドは引っ込んだ。
ほっと小さく溜息をつくイルミナ。
5分ほどの後、着替えたラハドとユマリが出てきた。
「お待たせしました」
「いえ、大丈夫です。……ああ、こちらは護衛のゴーレムです」
驚かれる前にと、イルミナは『ランド91』について説明を行った。
「そ、そうなんですか……」
それでもやはり驚いたようで、妻のユマリは怖そうに少し距離をとっていた。
「大丈夫ですよ」
とイルミナは声を掛け、早足で先導していく。
と、彼らの前を塞いだ者たちがいた。
白い服を着、覆面をした2人の男だ。
「ダハドさん、ユマリさん、一緒に来てもらいましょうか」
「なんですか、あなたたちは?」
イルミナ・ラトキンが一歩前へ出、男たちの前に立ち塞がった。
「なんだ。あんたは?」
「邪魔をしないでもらおうか」
「私は『アヴァロン』最高管理官副官のイルミナ・ラトキンです。そこをどいてください」
『アヴァロン』所属であることを名乗ると、男たちは目に見えて慌てだした。
「なっ……もうここに!?」
「どうする?」
「構わん、力ずくで……」
1人が短杖を取り出し、何か魔法を放とうとしたのだが、それに先んじて『ランド91』が内蔵された『麻痺銃』を放った。
「ぐわっ!」
「があっ!」
2人はたまらず気絶する。
「……」
状況についていけず、呆気にとられるダハドとユマリに、イルミナ・ラトキンは優しく声を掛ける。
「さあ、またこんな輩が現れる前に、退避しましょう」
「は、はい」
気絶した2人は簡単に縛り上げた後、『ランド91』が肩に担ぎ上げ、連れて行くことにした。
* * *
「お、帰ってきた」
着陸した『ハリケーン』の前には、仁Dと礼子、それに『ランド70』から『ランド75』までが出ていて、戻ってきたイルミナ・ラトキンたちを出迎えた。
「ダハドさんとユマリさんですね」
「は、はい」
「まずは中へどうぞ」
「は、はい!」
見たこともない飛行船の中へ招き入れられ、びくびくしている2人。
「この中は安全です。……『ハリケーン』、発進!」
仁Dの指示により、『ハリケーン』は浮き上がった。
そのまま高度500メートルまで上昇。
ここまでくれば、大抵の脅威は無視できる。
そしてあらためて、仁Dはダハドとユマリの2人に状況を説明するのだった。
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本日は 異世界シルクロード(Silk Lord) も更新しております。
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