79-36 新展開
「ジ、ジン殿、大丈夫なのか!?」
『ハリケーン』のモニタで外界の様子を見ていたセルロア王国国王の叔父、フランシス・ヴァロア・ド・セルロアは焦った声を出した。
それというのも、『ファナ農場』の周囲に配備されていた戦闘用ゴーレムが1箇所……イルミナ・ラトキン率いる調査隊のところへと集結を始めていたのだ。
逮捕された農夫を奪還する目的なのは明らか。
「大丈夫ですよ」
仁Dには、ハーンと戦った敵戦闘用ゴーレムのスペックが想像できていた。
あれと同等なら……仮にあの倍のスペックがあっても、『ランド91』1体で対処できる。
ただ、イルミナ・ラトキンを守りながらだと、数で上回る相手には少々厳しいだろうと思われた。
そして今、数の暴力を物ともしない……少なくともその100倍の数がいたとしても圧倒できる戦力である礼子が現場に到着したところである。
* * *
「……レーコ殿か……」
ハーンが礼子の名を口にした。
初対面の折は、その底知れないポテンシャルを感じ、反応できなかった。
そして今、礼子はそのポテンシャルを開放していたのだ。
「凄まじいな……」
ハーンが感じ取っているのは、礼子が……いや、礼子の『魔力反応炉』がエネルギーに変換している自由魔力素の量だ。
信じられないほどの自由魔力素がエネルギーに変換されているのがわかる。
「おそらくは、あれでもまだ、全力ではないということか……」
その礼子は、襲い来る戦闘用ゴーレムを一撃のもとに戦闘不能にしていた。
なので『ランド91』はイルミナ・ラトキンを守ることに専念している。
そしてハーンは、託された容疑者の農夫を確保していた。
「な、な、ななな…………」
その農夫は、まるで木偶人形のように倒されていく戦闘用ゴーレムを見て、恐怖に震えていた。
最早逃げ出そうという気は微塵もなくなっているようだ。
戦闘開始から1分後、最後の戦闘用ゴーレムが無力化された。
「レーコ卿、ありがとうございました」
「イルミナさん、お怪我はありませんか?」
「はい、大丈夫です」
「それでは、証拠の確保をお急ぎください」
「わかりました」
証人としての農夫の他にもう1つ、栽培されている『ファナ』のサンプルを確保するのだ。
『ファナ』の採取は、マスクと手袋をして行い、密閉できる袋にしまうことになる。
そしてもう1つ。
無力化されたゴーレムの『制御核』だ。
そこに書き込まれた命令を解析すれば、いろいろなことがわかるはずである。
礼子は倒した全てのゴーレムから『制御核』を抜き取った。
証拠集めという他に、これでどうやってもゴーレムを動かすことはできなくなったわけである。
「さあ、戻りましょう」
『制御核』をエプロンのポケットにしまい込んだ礼子が言った。
「ええ」
「はい、お嬢様」
そして彼らは『ハリケーン』の待つ、林の外を目指したのである。
* * *
「あ、あのっ!」
切なそうな顔で何か言いかけたアリアンヌを、マキナ3世は促した。
「何だ? 何か言いたいことがあるなら聞こうじゃないか」
「え、えと、両親がこの『大聖堂』に軟禁、されて、いるんですが……」
「……人質か?」
「そ、そういえるかも、しれません……」
「そこまでやっているのか…………君たちの家族は?」
マキナ3世は、アリアンヌ以外の2人にも家族の状況を尋ねた。
「ええと、私は孤児ですので……」
「私は、オースに両親がいます……」
「そうか」
オースはクゥプの北隣にある町である。
「まずはアリアンヌ」
「は、はい!」
「ご両親をどうしてほしい?」
「……助けて、ください……」
「よし!」
助けを求める声があれば、『アヴァロン』が動く大義名分ができる。
「アリアンヌの両親を保護しよう」
「あ、あの、どうして私の名前を……?」
「ん? ああ、俺は『エクス』だよ。こっちに『レー』もいるだろう?」
「え? え……あ、ああっ!」
ようやくマキナ3世たちが『エクス』と『レー』だったことに気が付き、驚くアリアンヌ。
「やっとわかったか」
「それでは、あなた方は……」
「話は後だ。……メイ、『スペース10』、彼女たちを頼むぞ。俺とレイはアリアンヌの両親を捜す」
「あ、多分、3階か4階にいるはずです……」
「わかった。地下だな」
「ええ……?」
「監禁している正確な場所を教えないなんてのは常道だからな」
実は、今のやり取りをしている十数秒間で、老君が『大聖堂』の各階を『覗き見望遠鏡』で確認し、上の階には該当者がおらず、地下室に2名の男女がいることを発見していたのである。
だが、それ以上に問題なのは……。
「チェル、君も来てくれるか? どうやら地下に麻薬中毒患者が複数いるみたいだ」
別の部屋に3名の女性が監禁されていたことである。
「わかりました、マキナ様」
「レヴェラルド・ダーテスだったな。ここの指揮は任せる。『導師』とその配下を逃がすな」
「はっ!」
そういうわけでマキナ3世一行は2手に別れ、それぞれの対象者を目指したのである。
* * *
そして蓬莱島では、仁と老君が相談していた。
「老君、人質というのは本当かな?」
『はい、御主人様。十分に考えられることです』
「そうか。……地下の3人というのは……『聖女』かな?」
『『元』聖女ですね。どうやら中毒症状がかなり進んでいるようですから』
「……使い捨ての聖女か……どうしようもない連中だな」
『それで、救出されますか?』
「それがいいと思う」
だが、どういう立場で行うか、それが問題であった。
『最も手っ取り早いのが『第5列』による救出です』
その場合、その『第5列』の所属というか、正体というか……どう説明すればいいか、悩みは尽きない。
クゥプからオースに連絡が伝わるまでにはまだもう少し時間があるだろうと思われる。
「『第5列』でなければ、その次の手はなんだ?」
『御主人様が……といいますか、御主人様の分身人形が『ハリケーン』でオースへ行き、対象者を保護することです』
「お、それがよさそうだ」
今現在、『ファナ農場』の方はほぼケリがついている。
マキナ3世から連絡を入れてもらい、仁Dがオースへ向かうのはいい手だと思う仁であった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20210709 修正
(旧)仁Dには、ハーンと戦った敵戦闘用ゴーレムのスペックが想像付いていた。
(新)仁Dには、ハーンと戦った敵戦闘用ゴーレムのスペックが想像できていた。
(誤)最早逃げ出そうといういう気は微塵もなくなっているようだ。
(正)最早逃げ出そうという気は微塵もなくなっているようだ。
(誤)マキナ
(正)マキナ3世
地の文で2箇所修正。




