79-30 議論の場で
『捜理協会』への処遇は、今のところ難しいと言わざるを得ない。
というのも、処罰するための『物的証拠』に乏しいからだ。
『ファナ』と『暗示の魔導具』を盗んだとはいっても、その所有権をチェルたちが公言できるかどうか、疑わしい点もある。
なにしろ『ディナール王国』は最早存在しないし、『島基地』のある島も所属が不明なのだから。
つまり、『落ちていたものを拾った』程度のことなのである。
そこで、世界の法に照らし合わせ犯罪行為とみなせる行為を糾弾しなければならないわけだ。
「一番わかり易いのは『麻薬』である『ファナ』を信者に用いたという件だが……」
マキナ3世が言った。
「それではまだ弱いですね。『暗示』を使ったという証拠がほしいと……」
トマックス・バートマンが言うと、チェルが意見を口にする。
「『暗示の魔導具』を所持しているではないですか」
「いや、所持だけでは弱いのですよ。それを使っているところを押さえないと」
現行犯逮捕が望ましいと、トマックスは説明した。
「難しいのですね、今の時代の法は……」
『魔導大戦』時はもっとシンプルだったとチェルは言う。
それに対し、仁Dが意見を述べた。
「多分、当時は今よりもずっと為政者側に権力があったからじゃないかな? それに、戦時中ということもあったろうし」
戦時中は一部の為政者に軍の指揮権を与える、などという特別措置もあっただろう、と付け加える仁Dであった。
「確かに、そういうことはありましたね……」
チェルから当時の話を聞いてみたいところであるが、今は『捜理協会』に対する方策を話し合う場である。
「でも、彼らが使っている『暗示の魔導具』は、わたくしたちの基地から盗み出したものですが」
「それを証明できますか?」
「できます。基地所有の魔導具には独自の型番が刻まれているはずですから」
この情報に、トマックス・バートマンは喜んだ。
「それはこちらが有利になる情報ですね」
が、踏み込むためにはもう1つ2つ、理由がほしい、と続けるトマックス・バートマンであった。
ここでマキナ3世が発言する。
「全員かどうかはわからないが、俺が出会った『聖女』は間違いなく『ファナ』を摂取していた。診察あるいは治療と称して踏み込めないかな?」
「難しいかも知れませんね。中毒で倒れた、というならともかく」
「そうか」
* * *
仁Dを通して会議に参加している仁は苦笑していた。
「あらためて思うよ。正攻法っていうのは面倒で効率が悪いものだな」
『はい、そうですね、御主人様』
これまでは隠密裏に調査し、こっそりと対策をしたりと、あまり表立ったやり方はしていなかった仁たちである。
そのために『第5列』や『忍部隊』がいるのである。
それが、今回はチェル、ハーンという過去からの使者の要望を叶えるため、完全正攻法を取っているのだ。
『あまりに難航するようでしたら、こっそりと手を貸しましょうか』
「それも考えておいたほうがいいかもな」
あくまでもいざという時、と仁は念を押したのだった。
* * *
『アヴァロン』では、なかなかまとめきれず、会議が長引いていた。
「ええと、一度、『捜理協会』が行っている、違法行為をまとめてみませんか? そこから、行うべきことが見えてくるのではないかと思います」
イルミナ・ラトキンが提案した。
「うむ、それはいいかもしれんな」
「ええ、いいと思います」
トマックス・バートマンや仁Dも賛成した。
「それじゃあ……」
デウス・エクス・マキナ3世が数えるように説明を行っていく。
1.『島基地』から『麻薬ファナ』を盗み出した。
2.『島基地』から『暗示の魔導具』を盗み出した。
3.信者に『ファナ』を摂取させている。
4.信者を『暗示の魔導具』で洗脳している。
5.不当な搾取をしている。
「5番めは不当かどうか、グレーゾーンかもしれないがな」
本人が納得して寄付をしているなら、不当とは言えないわけだ。
が、これでやり方が見えてきた、とトマックス・バートマンは言う。
「まず、『ファナ』の件です。これは、ファナの栽培地を見つけることで糾弾できるでしょう。というのも、『ファナ』は一般的に流通していませんから、元の種をどこから入手したのか突き詰めていけば、盗品であることが証明できるかもしれません。また、盗み出したことよりも麻薬の原料を栽培しているという点で糾弾できます」
「なるほど」
「『暗示の魔導具』は、先程『独自の型番』が刻まれているということですので、盗品だと証明するのは易しいでしょう。この場合は、拾得物を勝手に使った、という点も加味することができます」
「そうですね」
トマックス・バートマンは最高管理官の威厳を見せるように、次々に『捜理協会』糾弾のための証拠集めの方法を提示して行く。
「3番めですが……ラトキン、『ファナ』中毒であることを見分ける方法はあるかな?」
「はい、あります。煙を吸引した場合は肺に軽いダメージ……機能低下が見られますし、飲用した場合は胃壁の荒れを生じます。いずれもごく僅かですが」
ここでチェルが発言。
「他にも方法がありますよ」
「チェル殿、それは?」
「脳波でわかります」
「脳波?」
「ええ。『ファナ』は覚醒剤的な側面を持ちますから、中毒患者は脳波のピーク値が1.5倍ほどに跳ね上がっています」
「なるほど……そうなのですね」
「はい。しかも、跳ね上がるのは意志・感情などの分野が主ですの。つまり、跳ね上がらない帯域もあるのです」
「なるほど、脳波のスペクトルが不自然になっているわけですね」
「そういうことになりますね」
「これはいい情報を教えていただけました」
トマックス・バートマンらはチェルに礼を述べた。
「よし。それなら、俺が作ろう」
ここで仁Dの出番である。
「……今の説明で理解されたのですか!?」
驚くチェル、頷く仁D。
「ああ。任せてくれ」
「さすが『魔法工学師』ですね……」
とにかくこれで、『麻薬』の検挙はできそうである。
* * *
そしてトマックス・バートマンは続けた。
「……そして4番め。これが難しいですな」
「確かにな。……チェル殿、『暗示』を受けた脳を見分ける方法はあるのか?」
仁Dからの質問に、チェルは大きく頷いた。
「ございます。……これも脳に関連します。『暗示』を掛けられた脳は、特定の部位の活動が鈍くなりますから。具体的には『前頭葉』の一部分ですね」
「なるほど。それを測定する装置はあるのか?」
「ございます。それもまた、わたくしが記憶しておりますから……」
「よし、それも後で教えてくれ。俺が作ろう」
「わかりました」
「ううむ、ラトキン、見事だ。君の言うように違法行為をまとめてみたら、対処法がわかりやすくなった」
「おそれいります」
トマックス・バートマンの褒詞に、少し照れるイルミナ・ラトキンであった。
これでより現状が把握しやすくなり、対処方法の議論もしやすくなったのである。
いつもお読みいただきありがとうございます。
本日は 異世界シルクロード(Silk Lord) も更新しております。
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お楽しみいただけましたら幸いです。
20210703 修正
(誤)拾得物を勝手に使った、という点も加味することができあます」
(正)拾得物を勝手に使った、という点も加味することができます」
(誤)トマックス・バートマンらはチェルに例を述べた。
(正)トマックス・バートマンらはチェルに礼を述べた。
(誤)
これまでは隠密裏に調査し、こっそりと対策をしたりと、あまり表立ったやり方はしていなかった仁たちである。
それが、今回はチェル、ハーンという過去からの使者の要望を叶えるため、完全正攻法を取っているのだ。
そのために『第5列』や『忍部隊』がいるのである。
(正)
これまでは隠密裏に調査し、こっそりと対策をしたりと、あまり表立ったやり方はしていなかった仁たちである。
そのために『第5列』や『忍部隊』がいるのである。
それが、今回はチェル、ハーンという過去からの使者の要望を叶えるため、完全正攻法を取っているのだ。




