79-29 顔合わせ、そして
チェルたちがいきなり『北方民族』と敵対することはないとわかり、一安心。
マリッカDは用事があるという建前で、転移門を使い、帰っていった。
実際は、あまり長いこと接していると『分身人形』であるということがバレるとまずいからである。
というのも、マキナ3世と違ってマリッカDは『魔力パターン』をチェルたちに検知してもらわねばならないので体表面の『魔法障壁』展開をしていないからである。
蛇足ながら、もしも作りものであることがバレたなら、『直接対峙は危険だと思ったから』という言い訳が用意されていた。使わずに済んだが。
そして今、『アリストテレス』内でのチェル、ハーン、アン、そしてマキナ3世らの会談は平穏無事に進んでいた。
「チェル殿やハーン殿らと敵対せずに済んで、正直、ほっとしている」
「それはわたくしどもも同じです」
「双方が争いを回避できたことをよしとしているなら、この先共闘もできるだろうと思うが」
マキナ3世がそう言うと、チェルもまた答える。
「相手にもよりますが、可能でしょうね」
「もちろん相手は『捜理協会』だ」
「それでしたら何の問題もないでしょう。むしろこちらが力を借りたいと思っているのですから」
「なら、問題ないな」
「はい」
こうして、対捜理協会のための協力体制がマキナ3世とチェル・ハーンらとの間に結ばれた。
これがあれば、調査はチェルたちが、実際の逮捕はマキナ3世側……つまり『世界警備隊』が行うことができるわけだ。
「では、『世界警備隊』の本部である『アヴァロン』へ案内しよう。そこには俺の兄弟弟子も来ているはず」
「その方とは……もしや?」
「ああ。『魔法工学師』、ジン・ニドーだ」
「それは楽しみです」
そして『アリストテレス』は夜の闇の中、『アヴァロン』を目指した。
* * *
時間調整を行い、現地時間で2月21日の午前8時、『アリストテレス』は『アヴァロン』の空港に着陸した。
その横には『ハリケーン』が既に着陸している。
「あれは『魔法工学師』の乗機『ハリケーン』だ」
『ハリケーン』は全長40メートル。『アリストテレス』よりも小さいが、それでも空港に駐機されているどの飛行船よりも大きい。
「この船よりは小さいですが、それでもただならぬ何かを感じます」
チェルが言った。
「そう、そのとおり。あの船は、多分この『アリストテレス』よりも総合性能は上だろう」
「それほど、ですか」
「ああ。だからジンが『魔法工学師』を継いだんだ」
「なるほど。……初代様にお会いしてみたかったですね」
「それはちょっと無理だな……」
『アリストテレス』から下船するマキナ3世、チェル、ハーン、アン。
彼らを出迎えたのは『アヴァロン』の最高管理官であるトマックス・バートマンと仁、それに礼子であった。
仁はマキナ3世たちより10分ほど早く到着し、トマックスと共に彼らを待っていたのである。
「やあ、マキナ」
「よう、ジン」
「マキナ殿、ようこそ」
「トマックス殿、今日はよろしく。急な来訪で申し訳ない」
「いやあ、貴殿たちにはもう慣れましたよ」
そんな挨拶を交わしたあと、チェルとハーンが紹介される。
「チェルと申します。よろしくお願いいたします」
「ハーンと呼んでくれ。よろしく頼む」
「こちらこそ」
そして仁Dも自己紹介する。
仁Dは『魔法障壁』を展開していない。
アンと同じ魔力パターンであると検知してもらわないと、本人であるという証明が面倒臭いからだ。
ちなみに作りものであるとバレた場合は、こちらも『不必要な危険を避けるため』という理由が用意されている。
「ジン・ニドーだ。3代目『魔法工学師』を名乗っている。こっちは従騎士の礼子だ」
「あなたが『魔法工学師』ですか。お会いしたいと思っておりました」
「それは光栄だな」
「……そして従騎士、でしたか。レーコ様、お会いできて光栄です」
「よろしくおねがいします」
チェルは仁Dと礼子に対し、控えめな挨拶を行った。ハーンは無言である。
そして一行は『世界警備隊』の小会議室へ。
そこで今後のことを打ち合わせるのである。
メンバーは、今顔を合わせた面々に加え、最高管理官副官のイルミナ・ラトキンが加わっている。
* * *
「まず、俺から報告しよう」
小会議室では、まずデウス・エクス・マキナ3世が口火を切った。
「『捜理協会』では……」
これまで調べた結果を報告していく。
曰く、
捜理協会では、信者を麻薬『ファナ』の中毒にしている。
捜理協会では、『暗示』の効果がある魔導具を使い、信者を洗脳している。
捜理協会では、3人いると言われている『聖女』もまた、麻薬漬けになっている。
これを、アンが補足する。
捜理協会では、『大聖堂』で行われる『朝の礼拝』で洗脳が行われている。
その内容としては、『世の人々を救うのは平等ではなく公平さである』『力あるものは弱きものを助け、富めるものは貧しきものを救い、健康なものは病弱なものを労るべし』という協会の基本理念の他に、『信者以外との接触は極力控えよ』や『一致団結し、協会の理想のために努力せよ』『聖女を敬い、導師を尊び、協会に忠誠を』などと、協会への忠誠を深める内容が挟まっている。
そしてチェルも発言。
「その麻薬『ファナ』と『暗示の魔導具』は、私どもの系列の基地が所有していたものなのです」
と。
ここで仁Dが補足説明を行う。
「セルロア王国南部のルトグラ、という町近くにある砦の地下に魔導大戦時の施設があった。しかもご丁寧に二階層……というのかな。『第1地下』はここのグローマやエイラを危険に陥れた『イザーク』という魔導頭脳が管理している。その『イザーク』がとある理由で暴走したのでやむなく強制停止したところ、『第2地下』の施設が目覚めたわけだ」
そこに所属する自動人形がチェルで、ゴーレムがハーンだ、と締めくくる仁Dである。
そこから先は本人……チェルが説明を行う。
「今のジン様の説明は真実です。同じような施設がクゥプの南海上にある島の地下にもありまして……そこはいざという時の避難所として作られました」
そして避難した人を落ち着かせるために暗示の魔導具があり、また麻薬も置かれていた、と説明。
ここでマキナ3世が引き継ぐ。
「そういうわけで、『捜理協会』が使っている暗示の魔導具は盗難品だ、麻薬も同じ。2つを取り戻し、協会を糾弾するのに何の問題もないと思うが」
仁Dもまた、それが真実だと口添えをした。
「こちらで独自に調査した結果、今のチェル殿の発言のとおりだと証言しよう」
「わかりました。そういうことでしたら、『世界警備隊』としても動くのにやぶさかではありません」
と、トマックス・バートマン。
「それでは引き続き、『捜理協会』の捜索について打ち合わせを行いましょう」
そういう流れになったのである。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20210702 修正
(誤)彼らを出迎えたのは『アヴァロン』の最高管理感であるトマックス・バートマンと仁、それに礼子であった。
(正)彼らを出迎えたのは『アヴァロン』の最高管理官であるトマックス・バートマンと仁、それに礼子であった。
(旧)そこは今、無力化しているんだが、そのために『第2地下』の施設が目覚めたわけだ
(新)その『イザーク』がとある理由で暴走したのでやむなく強制停止したところ、『第2地下』の施設が目覚めたわけだ




