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マギクラフト・マイスター  作者: 秋ぎつね
79 捜理協会篇
2995/4348

79-22 チェルの判断

 『捜理協会(そうりきょうかい)』の『大聖堂』内『礼拝堂』で行われている『朝の礼拝』。

 その場では『ファナ』がかれ……つまり、依存性のある覚醒効果を持った煙が充満し……ており、同時に『暗示(セデュース)』の効果を持つ魔導具が使用されているようだった。

 そして何を『刷り込まれて』いるのかといえば。


『世の人々を救うのは平等ではなく公平さである』

『信者以外との接触は極力控えよ』

『力あるものは弱きものを助け、富めるものは貧しきものを救い、健康なものは病弱なものをいたわるべし』

『一致団結し、協会の理想のために努力せよ』

『教義を一般大衆に教えてはならぬ』

『世界の平和と安定に寄与すべく日々を送ろう』

『聖女を敬い、導師を尊び、協会に忠誠を』


 切れ切れに聞こえてくる声を補完してみると……というような内容であった。

 

〈5パーセントほどは推測による補完が入っているけれど、それほど大きく間違っているとは思わないわ〉

〈そうですね〉


 チェルとアンは5倍速の超音波で会話を行っているため、人間の耳には聞こえていない。


〈もっともらしい教義の合間に、洗脳を行っているようね〉

〈そうですね〉

〈……盗まれた『ファナ』がこんなことに使われているのは見過ごせないですね〉

〈ですが、どうするのですか?〉

〈どうしようかしらね……選択肢は幾つかあるのですけれど〉

〈それは? 参考までに、その選択肢を聞かせてください〉

〈別に構いませんが……アンさん、あなただってそのくらいのこと、考えついているのではありませんか?〉


 などと言いながらも、チェルはアンに『選択肢』を語った。


1.この場で『暗示(セデュース)』の魔導具を奪還し、『依存症』を治療し、施設を破壊してでも『ファナ』を奪還する。

2.この場は一旦引き、秘密裏に『暗示(セデュース)』の魔導具を奪還。対象が就寝中に『依存症』を治療。『ファナ』の栽培地を探し出し、焼却する。

3.『捜理協会(そうりきょうかい)』に入信したふりをして内部に入り込み、1を行う。

4.然るべき組織に通報、取り締まってもらう。

5.この場で『大聖堂』を破壊。聖女、導師らを捕らえ、監禁する。

6.何もせず、放置。


 かなり過激なものと、論外なものも混じってはいるが、確かにおおよそはアンが考えたものと酷似していた。


〈その分類で行きますと、2か4がいいと思いますが〉

〈そうですね、2で行きましょうか〉

〈そうしますと『ファナ』の栽培地を見つけるのが最優先ですね〉

〈ええ。多分一般の信者は知らないでしょうね。導師か聖女に聞いてみるのが一番じゃないですか?〉

〈そうですわね。でもその2人……いえ、何人いるのかは不明ですので人数は決めるのをやめましょう〉


 聖女は3人ほどいるらしいのでこの判断は賢明である。


〈ですが、『魔導具の奪還』や『依存症』を治療、『ファナ』の栽培地を焼却……どれも一筋縄ではいきませんよ〉

〈それはわかっています。ですから、……そのためにも『魔法工学師マギクラフト・マイスター』の力を借りたいのです〉

〈それに、その3つを実行したあとの『捜理協会(そうりきょうかい)』はどうするつもりですか?〉

〈何もしなくていいのでは?〉

〈はい?〉

〈つまり、悪事……というよりも、人を害する手段を奪ってしまえば、あとは好きにさせてもいいと、そう言っているのです〉

〈それでいいと言うのですか?〉


 アンの詰問に、チェルは静かに頷いた。


〈わたくしは、この世界に過ぎた干渉をするつもりはありませんから〉

〈過干渉はしない?〉

〈ええ。本来なら、わたくしは目覚めることなく『第2地下』で眠っているはずだったのですから〉


 それは『ハーン』も同じである、とチェル。


〈わたくしたちの基地が所有していた薬(毒)草の種と魔導具を取り返すことは正当な権利だと思いませんこと?〉

〈……確かにそうした権利はあるでしょうね……ですが、できるのですか?〉

〈アンさんが協力してくれるのであれば、より簡単に〉

〈具体的な作戦はもうできあがっているのですか?〉

〈不確定要素の排除が90パーセントで止まっていることを除けば〉

〈さすがですね〉

〈アンさんだって大体のことは思いついているでしょうに〉

〈それは、まあ〉


 今のチェルは、アンの能力について過小評価はしていない。

 少なくとも自分と同等の『制御核(コントロールコア)』を持ち、『ハーン』よりも強力なパワーを発揮できる、と分析していた。

 とはいえあくまでもそれは定性的な分析であり、本来なら定量的な分析をするはずがデータ不足のためできないでいるわけだ。


〈どうでしょう、アンさんのご主人様とやらは協力してくれないでしょうか?〉

〈……どうでしょうか……そういった相談を行うなら、もう一度『島基地』に戻りませんか?〉

〈確かにそうですね〉


 そういうわけで、わざわざクゥプへ出てきたチェルたちであったが、もう一度『島基地』に戻ることにしたのであった。


*   *   *


 こうした超音波帯域での会話も、老君は聞いているし、仁に報告も行っている。


御主人様(マイロード)、いかがでしょうか?』

「『捜理協会(そうりきょうかい)』を無害化し、被害者を治療するわけか……」

『問題は、組織自体を潰すことはせず、放置する、という点ですね』

「それ自体はいいような気がするが」

『はい。チェルさんの倫理観は悪くないと判断いたします』


 老君も、チェルの判断を支持する、という。


『チェルさんらはいきなりこの時代に現れた異分子です。ですので必要最小限の修正……この場合は盗品の回収ですね……を行い、後のことはこの時代の人々に委ねる、ということでしょう』


 単なる放置とは違う、と老君は言う。


「ただなあ……『ファナ』がなくなり、『暗示(セデュース)』の魔導具も回収し、依存症の人がいなくなったら……例えば『世界警備隊』だって『捜理協会(そうりきょうかい)』を糾弾できないぞ?」


 物的証拠が何もなくなるから、と仁はそのことを危惧していた。


『そうですね。そのへんを踏まえ、『世界警備隊』に引き合わせることも検討すべきでしょう』

「つまり、『世界警備隊』と共に『捜理協会(そうりきょうかい)』に『手入れ』をするということか?」

『そういうことになります』

「……悪くはない、か……」


 ただ、『世界警備隊』には『北方民族』……チェルらのいう『魔族』もいる、という点が心配な仁である。


『それはわかります。ですが、私の予想によりますと、きちんとした手順を踏んでの状況説明を行えば、『北方民族』への攻撃は行わないだろうと思われます』

「そうか……」


 そこで仁は老君とさらに話し合い、まずはチェルの真意を確かめ、それによって今後の対応を決めることにしたのである。

 いつもお読みいただきありがとうございます。


 20210625 修正

(誤)『御主人様(マイロード)、いかでしょうか?』

(正)『御主人様(マイロード)、いかがでしょうか?』

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― 新着の感想 ―
[良い点] チェルさんの謙虚な発言w上から目線キャラはどこへ行ったのやらw チェル「べ、別にマギクラの事が気になるとかじゃないんだから、勘違いしないでよね///」 ホ「『…しないでよね////』っと。…
[一言] 警備隊との連携か ……考えてみると、問題なさそう チェルが苛立ってるのはあくまで自分達の所から盗まれた暗示の道具と麻薬を悪用してる点だし、過剰な干渉を避けるのも良い そして、マギクラフトマ…
[一言] >>人間の耳には聞こえていない 腐「えっ!?」 >>選択肢 案「5+1ですか?」 仁「raid?」 >>過ぎた干渉をするつもりはありません ハ「神様気取り?」 紛「働きたくないだけの我ら…
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