79-11 音声での説明
『魔族』の勢力が強いと判断した理由を、魔導頭脳『イザーク』は説明している。
『空に浮かぶ巨大な飛行物体だ。重力魔法を使っていると推測する。そして重力魔法は『魔族』の得意とするところだからな』
「逆に言えば、それだけですか?」
『そうだ。何かまずいか?』
「人類がそうした飛行物体を開発した可能性は考慮しないのですか?」
『もちろん考えた。だが、『魔族』の女がその中へ入っていったのだ。ゆえに『魔族』側のものと判断して何が悪い?』
頑なな言い分に、ユミィとヴェラは、魔導頭脳『イザーク』のあやうさを見た。
「なるほど、言い分はわかります。ですが、前提条件が間違っていたらどうしますか?」
『なんだと? どういう意味だ?』
「つまり、その女性が『魔族』ではない可能性を考慮したのかということです」
『してはいない。その女は『魔族』で間違いないからだ』
「その根拠は?」
『魔族感知センサーだ。創造主が設定したそれに引っ掛かったということは、『魔族』で間違いない』
ここまで話をしてきて、ユミィとヴェラは、この魔導頭脳『イザーク』は相当に『頭が固い』ということを理解した。
そんな場合には、相手に理解させつつ論理で追い詰めていく必要があるということを、『知識転写』により知っている。
ユミィとヴェラには、老君が蓄えた膨大な経験の一部が譲渡されているのだから。
「まだ少し根拠としては弱いですね」
『そうか? それこそ、その根拠は?』
「それに答える前に、1つ確認させてほしいのですが、『人間関係』というものへの理解はされていますか?」
『施設維持に必要のないものは入力されていない』
「人間関係の理解は必要ないことだと?」
『そうだ』
「それは間違っています。なぜならば、施設内では大勢の人間が暮らすこともあるでしょう。その際に人間関係というものを知っていると知らないのとでは管理業務の効率に違いが出てきます」
『……その意見が正しいことを認めよう』
「では、『人間関係』についてのデータを送りましょうか?」
これが第1の難関である。
ここで魔導頭脳『イザーク』がどのような反応を見せるか不明だったからだ。
この申し出を受けるか断るか、で2つのプランに分かれることになる。
『うむ、『人間関係』のデータを受け取るとしよう』
そして、思ったより素直にデータの受信を受け入れたのである。
『ただし』
「何か条件が?」
『もう少し音声での情報のやり取りをし、そちらが私が欲するだけの情報を持っていることを確信したら、だがな』
これは多少なりとも考慮されたことである。
順序としては逆になるが、情報交換を行って信用されたなら『データの送受信』を提案するというプランもあったのだ。
音声での、と限定しているのは、ハッキングのような行為を警戒しているのだろうと思われた。
「いいでしょう。何をお話しします?」
『まずは、外の情報はどれくらい持っている?』
「今が大陸暦3902年2月18日であること。この国は『セルロア王国』ということ。……こういう情報でいいですか?」
『まさにそれだ。……しかし、その前に質問をしたい』
「なんでしょうか」
『ユミィとヴェラと言ったな? かなり前に連絡をしてきたときは、何も知らないようだったが、いつの間にそのような知識を付けた?』
やはり魔導頭脳『イザーク』は感づいていた、とユミィもヴェラも悟った。
そしてこういうときのために用意した説明を行う。
「私たちはあなた、『イザーク』と違って外へ出ることができます。人間と話をすることもできます。時間さえあれば、そうした情報を蓄えられるのはおかしなことではないでしょう?」
『もっともだ。そしてそれこそが、私の欲する情報なのだ』
対人インターフェースを持たない『イザーク』にとって、外界の情報は何よりも欲するものであった。
『イザーク』が取れた手段は、『消身』を使えるゴーレムを送り出し、人間の町で情報収集をするくらいのもの。
それとて、隠れて行わねばならないので、僅かな情報しか得ることができなかったのだ。
「そうでしょうね。間違った情報からは誤った認識しか導かれませんから」
『そのとおりだ。そして、不十分な情報からは不確かな結論しか得られない』
「それがわかっていて、不用意に判断をしたのですね」
『あの場合、仕方がなかった。あの女が『魔族』でないなら、過剰な対応をした、で済む。が、『魔族』だったなら、あれでも不適切だったろう』
「……過剰な対応で済ますのですか? まかり間違えば、あの女性は大怪我をしたところですよ?」
『危険と被害とを比較したなら、致し方ない』
「それがあなたの価値観ですか……」
魔導大戦中の価値観であろうから、こうした判断を一概に否定できないところが辛い。
根底から修正していかねばならないのだ。
『『魔導大戦』が終結したのは知っている。結果が『痛み分け』になったこともな。……だが、その後の勢力図はどうなっている? 小競り合いや紛争は?』
「そうした情報も含めて、送信できますが?」
『何? そうか……』
「私たちを信用してもらえれば、すぐにでも」
『難しい問題だ』
送られてきた情報が正しいかどうかの判別をどうするか。その1点に尽きるといってもいいだろう。
また、書き換えられない基底命令というものも存在する。
魔導頭脳『イザーク』の場合、『魔族との友好関係が成り立った』という情報を与えたらどうなるか。
ロクなことにならないだろうと老君は推測していた。
暴走する可能性が大なのである。
であるから、まずは音声で情報を与えていくことにする。
この場合、時間は掛かるが、反応を見極めながら進めることができるというメリットがある。
「まあいいでしょう。もう少し、話し合いましょう」
『望むところだ』
「『デイナール王国』は『魔導大戦』後、求心力を失って幾つかの小群国に分裂しました」
『うむ、なんとなくだが知っている』
「この国はセルロア王国。旧ディナール王国の中心地に首都を構えています」
『うむ』
「その他にエゲレア王国、フランツ王国、クライン王国、エリアス王国が旧ディナール王国から分かれました」
『それもなんとなくだが知っている』
「そして、最も東、海に面した国はレナード王国と名乗っていましたが今は滅亡し、『旧レナード王国』と呼ばれています」
『そうであったか』
「さらに、セルロア王国の西に、新たな国が興っています。その名をショウロ皇国」
『ほう』
「そしてそのさらに西、ハリハリ沙漠の向こうにも国がありまして、ミツホ、フソーなどと呼ばれています」
『なんと』
「さらにさらに、その西、ローレン大陸の西端ともいえる地域には4つの公国が成立しています」
『実に興味深い』
ここまではまあまあ順調であった。
そしていよいよ、核心を突く説明となる。
「ローレン大陸の北はゴンドア大陸。そこには『ノルド連邦』という国があります」
『……む……?』
「ノルド連邦には、『北方民族』と呼ばれる者たちが住んでいて、ローレン大陸の国々と交易が盛んに行われているのです」
『……待て。もしやそこは、その国は……』
魔導頭脳『イザーク』も気付いたようだ。
その反応は……。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20210614 修正
(誤)頑なは言い分に、ユミィとヴェラは
(正)頑なな言い分に、ユミィとヴェラは




