79-10 ちょっと修理
ユミィとヴェラを担いだ戦闘用ゴーレム。
それが『ルトグラ砦』に近付いた頃、夜が明けた。
〈ユミィ、『ギガース』よ〉
〈ええ、ヴェラ。正確には『ギガース改』ね〉
〈随分とおとなしいわね〉
〈起動したことはなかったけれど、やっぱり改良されてはいたのね〉
ユミィもヴェラも、『ギガース』がどのような欠陥を抱えているか知っており、今目の前にいる2体がそれに当てはまらないことを確認していた。
〈これはうちの施設から盗まれた物かしら?〉
〈おそらくはそうだと思うわ〉
〈なんとなく癪に障るわね、ユミィ〉
〈我慢しなさい、ヴェラ〉
そんな会話を交わしていても、内蔵魔素通信機による通信が傍受されることはなく、戦闘用ゴーレムは『ルトグラ砦』の地下へ続く通路を下っていった。
〈いよいよね、ヴェラ〉
〈いよいよね、ユミィ〉
2体を担いだ戦闘用ゴーレムは、魔導頭脳のある部屋に入った。
そこの床に横たえられる2体。
〈まさかいきなり魔導頭脳のある部屋へ運ばれるとは思わなかったわね、ユミィ〉
〈でもこれは大きなチャンスよ、ヴェラ〉
いい方向に予想が外れた。
2体は、作戦どおり、動きを止めて様子を窺う。
〈私達が壊れていないことに気が付くかしらね、ユミィ〉
〈気が付かないようでは、ここの魔導頭脳はポンコツすぎるわよ、ヴェラ〉
『ようこそ、補佐自動人形の諸君。君らが壊れていないことはわかっている。返事をしてほしい』
〈やはりバレているようね、ユミィ〉
〈そうね、お芝居もここまでだわ、ヴェラ〉
そして2体は起き上がった。
「私たちをさらってきて何をさせるつもりでしょうか?」
「私たちが、本来の施設以外のサポートは基本的に行わないことを知らないとは言わせませんよ」
『おお、やはり壊れていなかったな。これは嬉しい誤算だ』
「私たちの質問に答える気はないのですか?」
「誤算といいましたが、それは『壊れていなかったこと』に対してですか? それとも何か他に?」
だが魔導頭脳は変わらず独りよがりのセリフを発する。
『強引なやり方をしたことは詫びよう。だが、現状は芳しくないのだ。『魔族』が『人類』を支配している可能性が出てきた』
「何を根拠にそう判断したのです?」
「その判断が間違っている可能性は?」
それでもまだ『魔導頭脳』はまともな応答をしない。
〈……いくらなんでもおかしいわ、ユミィ〉
〈同感よ、ヴェラ〉
〈ユミィ、もしかしてこの魔導頭脳、聴覚センサーが壊れているんじゃないかしら?〉
〈ヴェラの想像が当たっている気がするわ〉
〈とりあえず、聴覚センサーを直してやる必要がありそうね、ユミィ〉
〈ええ、ヴェラ。そうしないと意思疎通ができないわ〉
そこでユミィとヴェラは、最低限の意思疎通のために、魔導頭脳の聴覚センサーを探した。
が、そう簡単には見つからない。
そこで一計を案じたユミィとヴェラは、床に文字を書いてアピールすることにした。
『何をしている……むう? ……『聴覚センサーはどこにありますか』だと? ……そうか、私の聴覚センサーは全て故障しているのだな』
改めてそれを悟った魔導頭脳は、目の前の2体が、それを直そうとしていることを悟る。
なぜならば、このままではコミュニケーションが取れないからだ。論理的である。
どうやら自分の声は2体に届いているようなので、音声で説明することにした。
『聴覚センサーの1つはこの部屋の天井中央にある』
〈聞きましたか、ユミィ〉
〈聞きましたよ、ヴェラ〉
〈……あそこですね。ですが、手が届きませんね、ユミィ〉
〈力場発生器で浮かぶこともできますが、それは避けたほうがいいですよね、ヴェラ〉
〈では、肩車をしましょうか、ユミィ〉
〈それでも届きそうもないですよ、ヴェラ〉
〈では、もう一度魔導頭脳に頼みましょうよ、ユミィ〉
〈ええ、そうね、ヴェラ〉
そこで2体はもう一度、床に文字を書いて説明を行った。
『ふむ、天井に手が届かない、か。わかった、ゴーレム2体を踏み台にするがいい』
そう言って魔導頭脳は、戦闘用ゴーレム2体を聴覚センサーの真下に並んで立たせたのである。
〈これなら届くわね、ヴェラ〉
〈私が修理するわ、ユミィ〉
そういうわけでヴェラが戦闘用ゴーレムを踏み台にし、天井に埋め込まれた聴覚センサーを取り外していった。
外した聴覚センサーをチェックしていくと、やや劣化気味ではあるが故障はしていないことがわかった。
「結線が切れているようです……と説明しても聞こえないのでしたね」
そういうわけで、ヴェラは聴覚センサーを元どおり天井に嵌め戻す。もちろん結線はきちんと接続して。
作業を終えたヴェラは床に降り立ち、確認を行う。
「……魔導頭脳、私の声が聞こえますか? 私はヴェラといいます」
すると今度は、魔導頭脳から反応が返ってきた。
『聞こえるぞ、ヴェラ。修理を感謝する。……もう1体の補佐自動人形、君の名前は?』
「私はユミィ。あなたの名前は?」
『私には名前はない。強いて言えば識別番号139だ』
それを聞いたヴェラは、1つの提案をする。
「それなら『イザーク』と呼ばせてもらうわ。いかが?」
『ふむ、『イザーク』か。いいだろう、ヴェラ。聴覚センサーを直してくれた礼代わりだ』
「これで話しやすくなるわね、『イザーク』」
* * *
その様子を見ていた仁と老君は呆れていた。
「聴覚センサーの修理ができていなかったのか……思った以上にポンコツなようだな」
『はい、御主人様。修理用のシステムは存在しているようですが、それは天井にまでは及んでいませんね』
「それって設計ミスだろう……」
『はい。そうとしか考えられません』
「だよなあ……」
そんなポンコツ魔導頭脳がユミィとヴェラに何を要求するのか、興味を持って観察する仁と老君である。
* * *
『さて、強引に拉致したことは詫びよう。だが、非常事態ということで許してほしい』
「非常事態、ですか?」
「具体的に説明してください」
『もちろんだ。どうやら外界は『魔族』の勢力が非常に強いらしい』
「それを裏付けるものは?」
「判断材料は何だったんですか?」
『説明しよう。まず、先日地上の砦部分に訪問者があった。彼らの『魔力波形』を測定したところ、1人の女が、99パーセント以上の蓋然性をもって『魔族』と判断できたのだ。そして砦を訪れた一行は、その魔族の女に洗脳されているように見えた』
「……」
魔導頭脳の説明はまだ終わらない……。
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本日6月13日(日)は14:00に
異世界でホムンクルスになっていたのでスローライフを目指す
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20210614 修正
(誤)描
(正)書
2箇所修正




