79-04 エイラの出自
「ふうん、これがあたしの魔力パターンか」
「こうなっているんですね。ジン殿とは随分違いますねえ」
「どういう意味合いがあるんですか?」
『魔力波形分析機』で各人の魔力パターンを測定し、礼子にそれを紙に書き写してもらったものを各自見て感想を述べていた。
「魔力特性なら、周波数の低い方から土、水、火、風、雷、光、闇……となっていくと考えられている」
「なるほど。ジン殿は全体的に高いですね」
「それが『魔法工学師』の特徴の1つだろうと思っているよ」
「なるほど」
「そのせいか、工学魔法を使う人のはフラットっぽいですね」
「そうだな」
エイラとグローマの魔力パターンは、アレオ・ヨカ・ナイツ、カイン・ゲイ、ラザロ・デロッシらのものよりもフラットな波形を見せていた。
だが。
(……高周波帯域が広い。おそらく、これが『北方民族』の特性の一つなんだろう)
もちろん、帯域が広いだけではない。それだけなら仁も対象になってしまう。
「こことここと、ここ。この3つのピークが特徴的だな」
「うーん、そうみたいだな」
仁Dはエイラの魔力パターン図に見られる、高周波帯域の3つのピークを指差した。
(おそらく、北方民族特有の魔法を使うためのピークだろうな)
洗脳隷属魔法や重力魔法の特性ではないかと思われた。
それは、以前敵対したゴルバート・マルキタスが作り上げた『魔力模倣機』絡みのゴタゴタの際に、そのマルキタスの魔力パターンを見る機会があったのだが、それがやはりこうした特徴を持っていたのだ。
サンプルがそれ1つなので、絶対とはいい切れなかったが。
(今度、シオンやマリッカ、ロードトスにも測定させてもらおうかな)
実のところ、これまで特には知り合いの魔力パターンを測定したことはなかったのであった。
(何かの役に立つこともありそうだから、『ファミリー』全員の魔力パターンを測定しておいたほうがいいかもな)
医者のカルテ、というわけでもないが、エルザにも協力してもらい、『仁ファミリー』および知り合いのカルテを用意しておくのは悪くない、と仁Dを操縦しながら仁は考えていた。
「で、何かわかったのか?」
考え込んでいるような仁Dを見て、エイラが声を掛けた。
「ああ。……状況から見て、エイラがターゲットになった可能性が高いと思っていたんだが、この特徴ある波形のせいかなあってさ」
「ええ? そんな理由で狙われたのか?」
不満げなエイラに、仁Dは尋ねる。
「エイラ、君は自分の出自を隠しているようだが、何か理由があってのことなのか?」
「え? いや、別に。ただ、取り立てて人に話すようなことじゃないと思ったからさ」
「なら、話してくれるか?」
「別にいいが……聞いて面白いものじゃないぞ?」
「エイラが話してくれるなら文句は言わないさ。なあ、グローマ?」
「ええ、そうですね、ジン殿。……エイラ、実は僕も気になっていたんだ」
「……物好きなやつだなあ」
そう言いながらも、エイラは淡々と身の上話を始めたのである。
* * *
「実はあたし、拾われっ子だったんだ」
「えっ」
「え……」
「……」
いきなり重い話が始まってしまう。
「だから、両親のこともその前のことも、何も知らない。以上」
「……」
「……いや、拾ってくれた人の話とかあるだろう?」
「うーん……拾われたのは孤児院で、18の時にそこを出て、大陸を放浪して……」
「ちょっと待て」
「どうした?」
グローマ・トレーがエイラの語りを遮った。
「その孤児院ってのはどこにあったんだ? 放浪した大陸ってのはどこだ?」
「ああそうか。済まん、そこの説明が抜けていたな。……ミツホの南だよ」
「ミツホ?」
「ああ」
「……よく魔法を覚えられたな」
ミツホという国は、基本的に魔導士がいない国である。
出会った当時のエイラの手腕を見ていると、かなりの練習を積んでいないとああはいかないはずだ、と仁Dを操縦している仁は思っていた。
「孤児院の院長先生はショウロ皇国の出身でね。基本的な勉強と、素質のある者に魔法を教えてくれたんだ」
「そりゃあいい先生だったな」
仁Dを通じ、心からの賛辞を送る仁であった。
そして、
「その孤児院って、どこの町にあって、何ていうんだ? あ、先生の名前は?」
どうしても今聞いておきたくて、口を挟んでしまった。
「え? ああ、サンド孤児院で、先生はチシン・サンドっていうんだ。町はナント」
「……あそこか」
ナントはミツホ南にあり、湖も近くにあって、かなり栄えた街である。
人口も多く、孤児院の経営もしやすいのだろうなと仁は想像していたのである。
「話の腰を折って悪かったな。続けてくれ」
「うん。といっても、もうあまり話すことはないんだけどな」
そう前置いてエイラは話を続けた。
「18になったあたしは、ちょうど募集していた『大陸西の開拓』てのに応募して、ジャグス公国へ行ったんだけど、大したこともできなくて、メルカーナ公国へ飛ばされたんだ」
癪に障ったんでそこでいろいろ勉強して研究室をもらえるようになり、そんな頃仁と会った……というのだった。
* * *
エイラの話は終わった。
「なるほどな」
「……悪かったな、あまり話したくないことを聞き出すような真似をして」
グローマが詫びるが、当のエイラはあっけらかんと、
「いや、いちいち話すのが面倒だったから話さなかっただけだ。謝ってくれることはない」
と切り捨てる。
だが、その横顔が少しだけ朱を帯びていたのを仁Dの目は見逃さなかった。
* * *
『……結局、エイラさんの出自は不明でしたね』
「だなあ」
蓬莱島では、老君と仁が少し残念そうに、相談を行っていた。
『とりあえず、シオンさんに連絡を取って、『北方民族』の魔力パターンデータを取らせてもらえるよう頼んでおきます』
「うん、頼む。俺は仁Dでセルロア王家の魔力パターンを測定させてもらおう。……ああ、それから、ゆっくりでいいから、エイラが育ったっていう孤児院についても調べておいてくれ」
『承りました』
そしてそれぞれの役目を果たすことになる。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20220328 修正
(旧)『とりあえず、マリッカさんに連絡を取って、『北方民族』の魔力パターンデータを取らせてもらえるよう頼んでおきます』
(新)『とりあえず、シオンさんに連絡を取って、『北方民族』の魔力パターンデータを取らせてもらえるよう頼んでおきます』




