79-05 分析結果
午後4時。
仁Dは、約束どおりに国王の執務室を訪れた。
「おおジン殿、もう少しだけ待ってくれ」
セルロア国王は書類に目を落としたまま言った。
その前には処理済みの書類がうず高く積み重ねられていた。
そして3分後、最後の書類に目を通し終わり、認可のサインをした国王は仁に向き直った。
「待たせたな、ジン殿。では、隣の部屋へ行こう」
隣室は小会議室である。
そこには3名の王族らしき人たちが待っていた。
1人は年配の男性、1人は若い男性、もう1人は少女である。
いずれも薄茶色の髪をしており、血縁関係をうかがわせる。
「ジン殿は初めてであろう。順に自己紹介せよ」
その言葉に応じ、年配の男性王族が口を開いた。
「俺はフランシス・ヴァロア・ド・セルロア。先代の王の弟だ」
「叔父上は、元近衛騎士団総帥を務めておられた」
国王ボザールが補足してくれた。
確かに武人の雰囲気があるな、と仁Dを通して仁は感じていた。
次に自己紹介してくれたのは若い男性王族。
「私は陛下の弟でマルセル・ヴァロア・ド・セルロアです。高名な『魔法工学師』ジン殿にお会いできて光栄です」
少し線の細い、おとなしそうな印象を受ける王弟であった。
そして最後は……。
「……ジャンヌ・ヴァロア・ド・セルロアです……。陛下の妹、です。お目にかかれて光栄、です」
王妹もまた、儚げでおとなしい少女であった。
「あとは姉が一人いて、公爵家に嫁いでいる。ゆえに今身近にいる王族はここにいる4名ということになるかな? ……ああ、叔父上のところに3人の従兄弟がいるが、王都にはおらんのだ」
最後に国王ボザールの説明が入った。
「そういうわけで、さっそく測定を頼む」
「わかりました」
礼子がテーブル上に『魔力波形分析機』を置く。
そして年齢順に測定を行っていった。
1人だけ、まるで違う波形が出て、王家の血を疑われる……などという展開もなく、全員の波形の測定はスムーズに行われた。
王家の波形をこんなに気安く測定させていいんだろうか……とも思う仁であったが、今現在、『王家につながる者』を波形で判別するということはなされていないため、問題視されなかったのだろう。
また、『魔法工学師』がそれだけ信用されている証、ということも言える。
それはさておき、結果的に、国王も含めた4人の魔力パターンは、似ているところもあり似ていないところもあった。
「ほう、先程ジン殿が言っていた、特徴のあるピークは全員が持っているな」
国王が感心したように言う。
「ええ。多分これが特徴なんでしょうね」
「ジン様、この絵の意味って何ですか?」
ジャンヌ王女も興味深く質問してきた。
「ええと、この横方向は、大まかに言って魔法の属性を表します」
「あ、どんな魔法が得意か、わかるのですね?」
「そうです。……殿下の場合、このあたりの波形が高めですから、水属性がお得意なのではないですか?」
「あ、はい、そうです。……わあ、わかってしまうものなのですね。……叔父上はこのあたりですが、ここは?」
「火属性ですね」
「あ、当たってます!」
「ふむ、ジン殿、本当にこれを見れば、その者の適性がわかるのだな」
多少半信半疑だったのか、王弟フランシス・ヴァロア・ド・セルロアも興味を惹かれたようだ。
「つまり、この波形? を知ることができれば、適性のない属性にこだわらなくてもよくなるということか」
「そうとも言えますし、そうでないとも言えますね」
「それは?」
「この魔力パターンは不変ではないということです。もちろん、1が100にはなりませんが、1を2にすることはできます」
「なるほど」
「ですので、波形を見て諦めるのではなく、訓練の効果を見る、という使い方をしたほうが前向きですね」
「貴殿の言うとおりだな」
「……で、ジン殿、この魔導具は量産できるのか?」
興味深そうに国王ボザールが尋ねてくるが、仁は首を横に振った。
「いえ、難しいですね。基本的にこれ1台しかないと思ってください」
「そうか、それは残念だ」
実際には簡単に量産できるが、この『魔力波形分析機』を一般に普及させた場合、どんな混乱が起きるか見当がつかない。
魔力パターンが似ていないというだけで勘当されたり、浮気を疑ったり……などということも考えられるのだ。
そういう意味で、安易な普及はさせたくない仁たちなのであった。
ゆえに今回、セルロア王家の魔力パターンを計測してしまったのは少々軽率だったかもしれない……と反省した仁なのであった。
しかし、済んでしまったことは仕方がない。
「必要なときは声を掛けてください」
と言い、午後5時、仁Dは一旦小会議室を後にした。
その日は王城に泊まることになるので、担当の侍女が客室へと案内していった。
「ここまでで結構です」
客室の前で礼子がぴしゃりと言う。
侍女も、仁と礼子のことは知っているので、素直にその言葉に従ったのである。
* * *
「さて老君、どんな塩梅だ?」
仁Dが個室に入り、礼子が見張りをしてくれているので、仁は操縦席を離れ、老君との相談を開始した。
『はい、御主人様。シオンさんは快く測定に同意してくださいました。そこでサキさんに頼んで、測定してきてもらいました』
サキもまた、仁ほどではないが『ノルド連邦』で顔が利く。
「そうか。……で?」
『はい。測定結果はここに』
森羅のシオン、傀儡のロードトス、傀儡のリュドミラ、森羅のヴィータ、森羅のロロナらの魔力パターンがあった。
「おお……やっぱりな」
『北方民族』の特徴として、帯域が広いことがある。平均的な人類よりも2割ほど高周波帯域に広いのだ。
高い部分のは光属性と闇属性の一部を司り、重力魔法や転移魔法を可能にしている。
そして全体的にレベルが高めなことで、洗脳系魔法が使えるわけだ……と仁はパターンを分析していた。
「エイラの魔力パターンも近いものな。レベルはシオンやロードトスたちより低いが、帯域は同じように広い。まず間違いなく、この帯域で『ルトグラ砦』の魔導頭脳は判別しているんだろう」
『はい、御主人様。そう断言できると思います』
老君も仁の分析を肯定した。
「そうすると、次は攻略法だが……」
いよいよ作戦立案である。
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20210608 修正
(誤)侍女も、仁と礼子のことは知っているので、素直にその言葉に従ったにである。
(正)侍女も、仁と礼子のことは知っているので、素直にその言葉に従ったのである。




