78-21 マキナ、クゥプへ
セルロア王国王城を辞したデウス・エクス・マキナ3世と従騎士レイは『アリストテレス』に戻った。
そしてすぐに、内蔵された転移門で蓬莱島へ戻る。
『アリストテレス』は乗員たちがマキナの基地である『アルカディア』へと帰還させるのだ。
ちなみに、時速30キロで海上を移動できる『アルカディア』は、今現在、エリアス半島から東へ200キロメートルほど離れた海上にある。
蓬莱島に戻ったマキナは、若干の装備を整え直すと、従騎士レイと共にセルロア王国南部の町、クゥプ郊外へと『転送機』で送り込まれた。
そこに待っていたのは『第5列』の1人、『デネブ25』、通称『ミア』。
「ようこそ、マキナさん、レイさん」
「ミア、でよかったか。世話になる」
ミアは今現在、クゥプで女だてらに漁師をしていることになっている。
一人暮らしなので、彼女の家を拠点にするつもりなのである。
* * *
ミアの家はクゥプの郊外というより、海岸近くにあった。
一応、少し高くなった場所に建てられた一軒家である。
潮風に耐えるよう、石でできている。
「これは大谷石か」
正式名は浮石凝灰岩。エリアス王国南端のポトロックでよく見られる建築様式である。
「そうです。この辺でも少し採れるんですよ」
家に2人を招き入れながら、ミアが説明した。
「私は2年前からこの場所で漁師をやっています」
「なら、事情に詳しいな」
「では、簡単に状況を説明します」
そう前置きをしたミアは、内蔵魔素通信機を使い、2秒足らずで情報交換を行った。
〈『捜理協会』が台頭してきたのは5年くらいまえからのようです〉
〈なるほど。『公平党』は?〉
〈そちらも同時期のようです〉
〈信者勧誘はどうなっている?〉
〈ターゲットは中流階級と言えばいいでしょうか。大金持ちではなく小金持ち、ですね〉
〈ふむ?〉
〈貧困層には接触してきません〉
〈なるほど、ならミアには?〉
〈まるきり接触はありませんね〉
漁師といっても小舟を使った沿岸漁業であるから、収入はたかが知れている。1人がかつかつ、やっと食べて行けている、という風を装って、ミアはこの地で暮らしていた。
〈つまり、金を吸い上げることができないような層は相手にされないということか〉
〈そういうことですね〉
〈あからさまだな〉
〈ええ〉
それゆえ、『デネブ25』=ミアは、外部から2団体を観察できたともいえる。
〈で、どうなんだ?〉
〈外見上は普通といえますね〉
〈普通とは?〉
〈具体的にいいますと、信者を集め、教育を行い、お決まりの福祉活動を少し行って見せています〉
〈福祉活動の内容は?〉
〈病人・怪我人の治療が8割、生活困窮者への支援……炊き出しですね……が2割といったところです〉
〈確かに普通だな〉
〈それで、麻薬についてですが、外部からでは全くと言っていいほどわかりません〉
〈そうなのか?〉
〈ええ。組織内部だけで使われているようです〉
〈だが、外部に漏れたりはしないのか?〉
〈今のところはうまくいっているようですね〉
どうやら、信者たちは『麻薬』を使われているという自覚がないようだ、とミアは言った。
〈老君からの指示で、その2団体に重点を置くようにしたのは3日前からですし〉
〈それもそうだな〉
それだけ巧妙に活動していたのであれば、通常の諜報活動では『第5列』といえど、通り一遍の情報しか得られなくても無理はなかった。
〈ですが、その3日間でいろいろわかってきました。特に今日〉
〈何があった?〉
〈大規模な集会が行われました〉
〈……場所は?〉
〈済みません、説明していませんでしたね。……クゥプの南外れに4年前に建てられた大聖堂です〉
〈大仰な名前だな〉
〈ええ。ですが、色々なギミックがあって、馬鹿にできません〉
〈ほう? どのような?〉
〈遮音結界と、初歩の魔法障壁と、侵入者対策の罠があります〉
〈確かに普通じゃないな〉
〈ええ。……その大聖堂で、今日の昼間、大集会があったのです〉
信者の大半が集う集会だという。
教祖に相当する『導師』が教えを垂れ、『聖女』が癒やしの光を降り注ぐ、というものらしい。
〈『教祖』と呼ばれるのは創設者だけのようです〉
〈まあ、わからないでもないな〉
〈……で、大集会が終わって出てきた人々は、皆幸福そうな顔をしていましたよ。入る前は辛そうな者、暗い顔をした者、イライラした者などいろいろでしたのに〉
〈『麻薬』のせいだと思うか?〉
〈おそらくは。ですが初歩の魔法障壁のせいで、集会の実態がつかめませんでした。残念です〉
今のところ老君からの指示は、『無理をせず、細く長く調査を続けること』なのである。正体がバレるほどの強引な調査はまだ許可されていない。
〈それは仕方ないだろう。奴らの調査だけが『第5列』の役目ではないからな〉
それゆえ自分たちが来た、とマキナ。
〈明日、入信できるかどうか打診してみることにしよう〉
〈ああ、それでしたら、多分無理です〉
〈なぜ?〉
〈今現在、入信するには会員からの推薦が必要なのです〉
〈慎重なのだな〉
〈そうとも言えます〉
〈ふうむ……ならばどうするか〉
ここで、レイが発言。
〈一般人はまったく相手にされていないのですか?〉
〈いや、そんなことはありません。先程も言いましたが、病人・怪我人の治療もやっておりますから〉
〈……ですがそれを利用するわけには行きませんね……〉
マキナもレイも、またミアも、人間ではないからだ。
診察系の魔法を使われたら、いっぺんで正体がバレてしまう。
〈いや、そうとも限らないぞ〉
〈え?〉
〈診察魔法に対し、偽の結果を返すような魔導具を用意すればいい〉
〈なるほど〉
〈そして、そんな物を作れるのはジン様だけだ〉
〈ですね〉
そういうわけで、マキナは老君にこのアイデアを伝えた。
そして、仁に検討してもらうよう老君に依頼したのである。
ここまででおよそ2秒。
圧縮したデータのやり取りにより、音声での情報交換の数十倍の効率が得られているのである。
* * *
そして老君は、仁が寝室にいることを確認し、連絡をとったのである。
「どうした、老君?」
『はい、御主人様。実は、『公平党』と『捜理協会』を調べに行ったマキナから、こういう要望が来たのです』
「ふうん……なるほど……わかった」
時刻はまだ午後9時、ロイザートの屋敷にいた仁は、マキナが希望する魔導具を検討することにしたのであった。
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お知らせ:本日は都合により
異世界でホムンクルスになっていたのでスローライフを目指す
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5月18日(火)を予定しております。
お知らせ2:16日(日)昼過ぎまで不在となります。
その間レスできませんのでご了承ください。
20210516 修正
(誤)〈具体的にいいますと、信者を集め、教育を行い、お決まりの福祉活動を少し行って見せでいます〉
(正)〈具体的にいいますと、信者を集め、教育を行い、お決まりの福祉活動を少し行って見せています〉




