78-22 病気模倣機
「診察魔法を騙す魔導具?」
「そうなんだ」
仁は、超一流の治癒師である愛妻エルザに相談を持ちかけていた。
「診察する魔法に対し、決まった、あるいは任意の診断結果を返すようなものを考えている」
仁は、そうした魔導具を作る理由も説明した。
「確かに、マキナだけじゃなく『第5列』にもそういう装置が付いているといいかも」
「だろう?」
「ん……まず、順番に考えてみたい。診察する魔法って、何と何があるのか」
「それはそうだな」
仁とエルザが挙げたのは
『診察』と『診察』の2つ。
ショウロ皇国式の詠唱と、一般的な詠唱での違いはあるが、この2つは同じ効果がある。
「エルザは両方できるんだよな?」
「ん、一応」
「それじゃあ、使ってみてくれないか? 俺はそれを『追跡』と『精査』で追ってみる」
「ん、わかった。……まずは『診察』」
「『追跡』」
「次は『診察』」
「『追跡』」
「……どう?」
「同じだな」
「じゃあ次は『精査』を掛けてみて」
というように、仁とエルザは診察系の魔法をチェックしたところ、『診察』と『診察』の魔力の流れは同じであった。
つまり、この2つは同じ魔法であるということができる。
「詠唱はあくまでもイメージを固めるものだからな」
「ん、そう思う」
とはいえ、今は魔法談義をするときではない。
仁とエルザは次のステップへと移ることにした。
「他に、診察に使う魔法ってないかな?」
「めったに使わないけれど『分析』がある」
「ああ、そうか」
「でも『分析』は使い所が違う」
「そうだろうな」
医療分野での『分析』は、体内に異物がないか、というような時に使うからだ。
つまり、内科的な調査手段と言える。
「そうすると、今回の『病気模倣機』は、外科的な偽情報を返すようにすればいいということか」
「ん。……例えば関節痛」
「なるほど、それなら、『動かすと痛い』と説明できるな」
同様に、腰痛や筋肉痛も使えそうだと仁は考えた。
「……とはいえ、『藁にもすがりたい』と思うような症状は腰痛もしくは膝痛あたりだろう」
「確かに、そう」
腰痛はぎっくり腰のように、日常生活に支障をきたすし、膝痛も歩けなくなるような酷いものもある。
「加えられた『診察魔法』の魔力を吸収してしまい、代わりに『腰痛』『膝痛』を示す魔力反応を発すればいいかと考えているんだ。それなら本人が『治った』と言えば済むだろうから」
「ん……それでいけると思う」
「そうか」
だが、『腰痛』『膝痛』を示す魔力反応がわからない。
実際にそうした患者に診察魔法を掛けて、その反応を調べなければならないようだ。
「うーん……これは……マリッカに相談かな?」
「あ、『オノゴロ島』に、そういう患者さんがいるかもしれないということ?」
「そういうことだな」
そこで、老君経由で『仲間の腕輪』を通じてマリッカに連絡をとってもらうことにした。
『オノゴロ島』とロイザートの経度差は100度、時差は6時間40分ほど。
ロイザートは今午後10時なので、『オノゴロ島』は午後3時20分。
マリッカはすぐに応答し、『テスタ』を通じて住民の様子を調べてくれた。
『ジン様、腰痛の人は2人、膝痛の人は5人います』
「そうか。……ちょっとエルザに診察させてもらっていいかな?」
『もちろんです。エルザさんほどの治癒師に見てもらえるなら、みんな喜びます』
「そうか。じゃあ、すぐに行く」
『お待ちしてます』
そういうわけで、仁とエルザは即『オノゴロ島』へと移動したのである。
お供として、礼子はもちろん、今回は蓬莱島から医療用自動人形のリーゼも呼んでいる。
医療関係のデータを記録してもらうためだ。
* * *
仁たちが『オノゴロ島』の転移門室から出ると、マリッカが出迎えてくれた。
「いらっしゃいませ、ジンしゃま」
「急な依頼で悪いな」
「いえ、お気になさらず」
仁はマリッカに今回の調査の理由を説明した。
「はあ……そういうことですか。発想がジン様らしいですね」
感心するマリッカ。
「もう、こちらにある診療所に患者さんは呼んであります」
「手際がいいな。ありがとう」
早速、仁たちは診療所へと向かった。
「おお、マリッカ様、ジン様、エルザ様」
患者は皆、仁たちを見て感激している。
「ええと、皆さん、本日はこちらのエルザさんが治療を行ってくださるそうです」
「ありがたいことです」
「エルザ、です。まず、診察をさせてもらいます」
「お願いいたします」
こうした流れで、エルザは『診察』を使い、リーゼはその魔力の流れや、患者から返ってくる魔力反応を克明に記録していったのである。
「では、治します。『快復』」
「おお、腰の痛みがなくなりました」
「治っても無理はしないでください。軽い体操から始め、筋肉を少し付けると再発しにくくなります。腹筋と背筋を2対1くらいの頻度で鍛えるといいでしょう」
「ありがとうございます」
腰痛の予防として、腰回りの筋肉を鍛えるといいと言われている。
日常生活をしていると、腹筋よりも背筋の方を使うことが多い(腰を曲げて荷物を持ち上げるなど)ので、腹筋に重点を置いて鍛えよう、というわけだ。
バランスが取れないとかえって逆効果になりかねないので、背筋も少し鍛える必要がある。
このようにしてエルザは、集まった7人の患者を診察し、治療していったのである。
* * *
「ありがとうございました、エルザ様、ジン様、マリッカ様」
集まった7人の患者は、快癒したことの礼を言って帰っていった。
「これでデータも集まったかな?」
「ん、大丈夫だと思う。念のため、『治った』ときの魔力反応データも、記録してもらったし」
「よし、帰って魔導具作りだ。マリッカ、ありがとう」
「どういたしまして」
こうして、『病気模倣機』作りのためのデータは揃ったのである。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20210517 修正
(誤)腹筋よりも背筋の方を使うことが多い(腰を曲げて荷持を持ち上げるなど)
(正)腹筋よりも背筋の方を使うことが多い(腰を曲げて荷物を持ち上げるなど)




