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マギクラフト・マイスター  作者: 秋ぎつね
78 過去からの縁篇
2955/4413

78-22 病気模倣機

「診察魔法をだます魔導具?」

「そうなんだ」


 仁は、超一流の治癒師である愛妻エルザに相談を持ちかけていた。


「診察する魔法に対し、決まった、あるいは任意の診断結果を返すようなものを考えている」


 仁は、そうした魔導具を作る理由も説明した。


「確かに、マキナだけじゃなく『第5列(クインタ)』にもそういう装置が付いているといいかも」

「だろう?」

「ん……まず、順番に考えてみたい。診察する魔法って、何と何があるのか」

「それはそうだな」


 仁とエルザが挙げたのは

 『診察(ディアグノーゼ)』と『診察(チェックアップ)』の2つ。

 ショウロ皇国式の詠唱と、一般的な詠唱での違いはあるが、この2つは同じ効果がある。


「エルザは両方できるんだよな?」

「ん、一応」

「それじゃあ、使ってみてくれないか? 俺はそれを『追跡(トレース)』と『精査(インスペクション)』で追ってみる」

「ん、わかった。……まずは『診察(ディアグノーゼ)』」

「『追跡(トレース)』」

「次は『診察(チェックアップ)』」

「『追跡(トレース)』」

「……どう?」

「同じだな」

「じゃあ次は『精査(インスペクション)』を掛けてみて」


 というように、仁とエルザは診察系の魔法をチェックしたところ、『診察(ディアグノーゼ)』と『診察(チェックアップ)』の魔力の流れは同じであった。

 つまり、この2つは同じ魔法であるということができる。


「詠唱はあくまでもイメージを固めるものだからな」

「ん、そう思う」


 とはいえ、今は魔法談義をするときではない。

 仁とエルザは次のステップへと移ることにした。


「他に、診察に使う魔法ってないかな?」

「めったに使わないけれど『分析(アナライズ)』がある」

「ああ、そうか」

「でも『分析(アナライズ)』は使い所が違う」

「そうだろうな」


 医療分野での『分析(アナライズ)』は、体内に異物がないか、というような時に使うからだ。

 つまり、内科的な調査手段と言える。


「そうすると、今回の『病気模倣機(シックエミュレータ)』は、外科的な偽情報を返すようにすればいいということか」

「ん。……例えば関節痛」

「なるほど、それなら、『動かすと痛い』と説明できるな」


 同様に、腰痛や筋肉痛も使えそうだと仁は考えた。


「……とはいえ、『藁にもすがりたい』と思うような症状は腰痛もしくは膝痛あたりだろう」

「確かに、そう」


 腰痛はぎっくり腰のように、日常生活に支障をきたすし、膝痛も歩けなくなるような酷いものもある。


「加えられた『診察魔法』の魔力を吸収してしまい、代わりに『腰痛』『膝痛』を示す魔力反応を発すればいいかと考えているんだ。それなら本人が『治った』と言えば済むだろうから」

「ん……それでいけると思う」

「そうか」


 だが、『腰痛』『膝痛』を示す魔力反応がわからない。

 実際にそうした患者に診察魔法を掛けて、その反応を調べなければならないようだ。


「うーん……これは……マリッカに相談かな?」

「あ、『オノゴロ島』に、そういう患者さんがいるかもしれないということ?」

「そういうことだな」


 そこで、老君経由で『仲間の腕輪』を通じてマリッカに連絡をとってもらうことにした。


 『オノゴロ島』とロイザートの経度差は100度、時差は6時間40分ほど。

 ロイザートは今午後10時なので、『オノゴロ島』は午後3時20分。

 マリッカはすぐに応答し、『テスタ』を通じて住民の様子を調べてくれた。


『ジン様、腰痛の人は2人、膝痛の人は5人います』

「そうか。……ちょっとエルザに診察させてもらっていいかな?」

『もちろんです。エルザさんほどの治癒師に見てもらえるなら、みんな喜びます』

「そうか。じゃあ、すぐに行く」

『お待ちしてます』


 そういうわけで、仁とエルザは即『オノゴロ島』へと移動したのである。

 お供として、礼子はもちろん、今回は蓬莱島から医療用自動人形(オートマタ)のリーゼも呼んでいる。

 医療関係のデータを記録してもらうためだ。


*   *   *


 仁たちが『オノゴロ島』の転移門(ワープゲート)室から出ると、マリッカが出迎えてくれた。


「いらっしゃいませ、ジンしゃま」

「急な依頼で悪いな」

「いえ、お気になさらず」


 仁はマリッカに今回の調査の理由を説明した。


「はあ……そういうことですか。発想がジン様らしいですね」


 感心するマリッカ。


「もう、こちらにある診療所に患者さんは呼んであります」

「手際がいいな。ありがとう」


 早速、仁たちは診療所へと向かった。


「おお、マリッカ様、ジン様、エルザ様」


 患者は皆、仁たちを見て感激している。


「ええと、皆さん、本日はこちらのエルザさんが治療を行ってくださるそうです」

「ありがたいことです」

「エルザ、です。まず、診察をさせてもらいます」

「お願いいたします」


 こうした流れで、エルザは『診察(ディアグノーゼ)』を使い、リーゼはその魔力の流れや、患者から返ってくる魔力反応を克明に記録していったのである。


「では、治します。『快復(ハイルング)』」

「おお、腰の痛みがなくなりました」

「治っても無理はしないでください。軽い体操から始め、筋肉を少し付けると再発しにくくなります。腹筋と背筋を2対1くらいの頻度で鍛えるといいでしょう」

「ありがとうございます」


 腰痛の予防として、腰回りの筋肉を鍛えるといいと言われている。

 日常生活をしていると、腹筋よりも背筋の方を使うことが多い(腰を曲げて荷物を持ち上げるなど)ので、腹筋に重点を置いて鍛えよう、というわけだ。

 バランスが取れないとかえって逆効果になりかねないので、背筋も少し鍛える必要がある。


 このようにしてエルザは、集まった7人の患者を診察し、治療していったのである。


*   *   *


「ありがとうございました、エルザ様、ジン様、マリッカ様」


 集まった7人の患者は、快癒したことの礼を言って帰っていった。


「これでデータも集まったかな?」

「ん、大丈夫だと思う。念のため、『治った』ときの魔力反応データも、記録してもらったし」

「よし、帰って魔導具作りだ。マリッカ、ありがとう」

「どういたしまして」


 こうして、『病気模倣機(シックエミュレータ)』作りのためのデータは揃ったのである。

 いつもお読みいただきありがとうございます。


 20210517 修正

(誤)腹筋よりも背筋の方を使うことが多い(腰を曲げて荷持を持ち上げるなど)

(正)腹筋よりも背筋の方を使うことが多い(腰を曲げて荷物を持ち上げるなど)

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― 新着の感想 ―
[気になる点]  2955話の診療データを取る部分ですが、少ししっくりきません。つきつめると医学博士というのは何なのか?になってしまうのです。  例えば膝痛にしてみますが、痛みの原因は個人毎に少しずつ…
[良い点] >エルザは『診察』を使い、リーゼはその魔力の流れや、患者から返ってくる魔力反応を克明に記録していった これ、臨床データを更に蓄積すれば、健康診断用の魔導具が作れますよね?特に、病気の早期発…
[一言] なるほど、確かにフリッツでは関節痛とか再現できないかもしれませんね 彼の出番は外傷とか、再現しやすいものに限られているでしょうし エ「そう、外傷とか感染症とか、あとお薬とか」 公「お前、な…
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