78-20 セルロア王国とマキナ
セルロア王国首都エサイアと『アヴァロン』との時差はほとんどない。
デウス・エクス・マキナ3世は『アリストテレス』で首都上空へ。
そこから艦載機『ダヴ』で王城へ、となる。
『ダヴ』は仁の『タウベ改』と同型の風力式飛行機。
どちらも意味は『鳩』である。
* * *
「ようこそ、マキナ殿、レイ殿」
セルロア国王ボザール・ヴァロア・ド・セルロアの執務室で、マキナは国王に謁見していた。
「素早い対応、ありがとうございます」
今日の今日でこうして訪問できたことに対し、礼を述べるマキナ。
セルロア王ボザールは、それを笑って受けた。
「何の、急な要請で何かと思えば、『麻薬』に関することだとか。これは何をおいても会わねばならん。そうだな、宰相」
「は、陛下」
ボザールと共にマキナと会っているのは宰相のダイン・セーメ・ド・パース。
全体的に若手の多い今のセルロア王国首脳部にあって、長老的な役割を果たす国家の重鎮である。
「紹介していなかったな。宰相のダイン・セーメ・ド・パースだ」
「以後、よろしくお見知りおきの程を、マキナ殿、レイ殿」
「こちらこそ、ダイン殿」
ダイン・セーメ・ド・パースは今年55歳。
すっかり髪のなくなった頭と、対象的な白い顎髭が印象的だ。
一見好々爺に見えるが、茶色の目は眼光鋭く、只者ではないことを示している。
「さて、『アヴァロン』よりの定期連絡で少しだけ聞いたが、『麻薬』について教えていただこう」
「もちろんです」
マキナは詳しい説明を行っていく。
途中、一度も質問を挟むことなく、国王と宰相はマキナの話を聞き終えた。
「……と、いうのが今現在判明していることです」
「なるほどな」
「これ以上の調査は、陛下の許可を得てからでなければ越権行為になりましょう」
「うむ、配慮いたみいる」
「……しかし、具体的な国内での反社会的行動は報告されておらぬのですよ」
宰相が手元の報告書を見ながら答えた。
「『捜理協会』も『公平党』も、我が国においては何ら犯罪行為やそれに近い行為を行ってはおりません」
「いきなり取り締まることは難しい、か」
「はい、陛下」
「ならば、麻薬はどうなる?」
「そこです」
宰相の眼光が鋭くなった。
「我が国において……いえ、『会議国』において、許可なき『麻薬』の使用は重大犯罪です。実態を把握し次第、取り締まりを行うべきかと」
「なるほど。具体的には?」
「潜入捜査が必要かと愚考いたします」
「なぜだ?」
「『麻薬』を使用した『個人』は罪になりますが、『公平党』もしくは『捜理協会』がそれを推奨、あるいは強要したという証拠がありませんので」
「なるほど、大元を断つためか」
「御意」
「……こうなると、『麻薬』の所持も摘発対象にしないといけないでしょうね」
「む、マキナ殿の仰るとおりですな」
法整備の抜けと言うべきか、『麻薬』そのものは鎮痛剤として使われることもあるため、所持そのものを禁じる法はないのだった。
「『麻薬』の種類、あるいは所持する量の上限を規定する必要があるのではないでしょうか。……ああ、さらに、国の認可を受けた個人もしくは団体でなければならない、というのはどうでしょう」
「おお、マキナ殿のご意見、いいですな。さっそく法務相と相談してみましょう」
宰相は秘書に命じ、法務相呼びに行かせた。
1分ほどで法務相ラルゴス・リーパーグがやって来た。
「おお、ラルゴス、呼びたてて済まぬな」
「いえ、陛下と客人がいらっしゃるということは、何か火急の用事なのでしょう?」
「そのとおりだ」
宰相はラルゴス法務相に説明を行った。
「なるほど、そのように法を変えようというのですね。わかりました。草案をまとめ、できるだけ早く審議会を通すようにいたします」
「頼んだぞ」
「は、陛下」
* * *
セルロア王国は王政ではあるが独裁制ではない。
国王の権力は大きいが、絶対ではないのだ。
法を破るような行為は国王と言えども許されてはいない。
法を定めるのは法務省で、最終的に承認するのは議会である。
セルロア王国の議会は、各省のナンバー1とナンバー2で構成され、およそ20人(臨時の省が設けられることもあるので『およそ』)。
必要な法ならば、草案が出てから決定までに3日から4日で決まる。
* * *
「この後、マキナ殿はどうされるのかな?」
宰相が尋ねた。
「そうですね。クゥプへ観光旅行に行ってみようかと」
「クゥプへ?」
「ええ。そこで、もしかしたら『捜理協会』に誘われるかも知れませんねえ」
「そ、それは……」
「個人……観光客として、ですよ?」
「うむ、それなら……」
止めることはできない、と宰相は言った。
セルロア国王はニヤニヤしている。
「マキナ殿もなかなかの策士であるな」
「おそれいります」
「観光を止める権利は余にはない。楽しんで来られよ」
「はい」
「まあ、観光中に自衛する必要ができたら……程々に頼む」
「努力します」
「犯罪者を見つけたら、知らせてくれ」
「そういたします」
マキナと国王のやり取りを、宰相は苦笑を浮かべながら見ているのだった。
「では、そろそろ失礼します」
一礼して執務室を出ていこうとするマキナに、宰相が声を掛ける。
「マキナ殿、くれぐれも御身が『麻薬』に毒されることなきよう、お気をつけを」
「ご忠告いたみいります」
そしてマキナは部屋を後にした。
宰相の心配もわかるが、マキナには適用されない。
なにしろマキナは人間ではないのだから……。
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本日は 異世界シルクロード(Silk Lord) も更新しております。
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