78-19 アヴァロン、動く
2月13日、『アヴァロン』に、全長100メートルの飛行船『アリストテレス』が着陸していた。
言わずと知れた『デウス・エクス・マキナ3世』の乗機である。
出迎えているのは最高管理官のトマックス・バートマンと秘書自動人形のマノン。
前日に連絡を入れてあるので、トマックスも余裕を持って迎える準備ができていた。
「ようこそ、マキナ殿」
「ご無沙汰している」
トマックス・バートマンはマキナと従騎士レイを執務室へと案内した。
「本日は『公平党』についての話をしにきた」
「……ふむ、『公平党』か。最近、セルロア王国南部を中心に勢力を伸ばしている集団ですな」
「やっぱり、知っているか」
「それはもちろん」
「では、放置しているのはなぜだ?」
「今のところ、『世界警備隊』案件ではないという判断からです」
「ふむ……動くには証拠が足りない、ということかな?」
「そう捉えてもらっても結構です」
そう聞いたマキナは、まず手札を1枚切る。
「先日、ショウロ皇国の重要人物が誘拐されかけた。……詳細は俺の口からは話せないが、ジンが救出し、犯人は『公平党』の者だと判明している」
「なんですと!?」
そこまでは伝えてもいいと、前日にショウロ皇国で許可をもらってある。さすがに皇帝家の醜聞になるような事実までは話せないが。
「……ショウロ皇国としては、内部の事情もあり、公にはしていないが、『世界会議』になら、概略は話してもよいと許可をもらっている」
「そうでしたか……ふむ」
マキナはさらにもう1枚、手札を切った。
「連中が信者を増やしている、その手口の1つは『麻薬』だぞ」
「な、なんですって!? 麻薬?」
「そうだ」
マキナは『麻薬』について説明した。
「……その麻薬の効果として、幻覚症状がある。禁断症状もきついらしい」
「むむ……」
トマックス・バートマンは考え込んだ。
マキナの言うことが真実なら、『世界警備隊』案件になるからだ。
『麻薬』。
この1点で、『世界警備隊』が動くことができる。それほどまでに『麻薬』が世界に及ぼす害悪は大きいのである。
そして最後に切り札を。
「ジンと相談し、『禁断症状』をコントロールして麻薬の影響をできるだけ早くなくすための方法を考案したんだ」
「おお、それは!?」
「一時的に『洗脳』をし、麻薬を断たせる」
「洗脳……ですか?」
「そうだ。『催眠』を使い、麻薬を欲しがらないように仕向け、健康的な生活をさせる」
「なるほど……!」
「だが、これは個人の治癒師が行うようなものではない。最低でも国家が。できればこの『アヴァロン』でも管理して欲しい」
「そうでしょうな」
トマックス・バートマンは大きく頷いた。
「『催眠』に掛かった患者は、術者の言うがままになります。もし、それを悪用する術者がいたらと思うと、この治療法はきっちりと管理されるべきと思いますよ」
「検討してもらえるか?」
「もちろんですとも。……マノン、医療研のハーシャ・クラウドを呼んでくれるか? できればメイも一緒にな」
「はい、すぐに」
ハーシャ・クラウドは医療研室長、メイ・シャイ・ジョーイは副室長である。
数分後、2人がやって来た。
「最高管理官、何かご用でしょうか?」
「ああ。まあ、掛けたまえ」
トマックス・バートマンは2人を座らせ、マキナを紹介した後、『公平党』と『麻薬』の話をした。
「そんなことが……!」
「その麻薬の成分、もしくは原料はわかっているのですか?」
これに答えたのはマキナ。
「ああ。主原料が『ファナ』だということまでは掴んでいる」
「ファナ……なるほど……『幻覚系』ですね」
「信者を縛るには都合がいいのでしょうね」
ハーシャもメイも、麻薬については詳しいようだ、とマキナは感じた。
「解毒薬はないんですよね。……ですが、『ファナ』でしたら禁断症状は強くとも、健康被害は少ないはずです」
「信者の健康を害したら、搾り取れるものも搾り取れなくなるからでしょうね、室長」
「ああ、そうかも。……最高管理官、早急に手を打つべきです」
「そうか、わかった」
トマックス・バートマンは少し考えてから、
「『世界警備隊』の名の下に、医療班を差し向けよう。麻薬中毒患者を速やかに収容するのだ」
「治療はここ『アヴァロン』でですか?」
「それがいいだろう」
現地では、いつどのような妨害が入るかもわからない。
ということで、『世界警備隊』は動き出すことになった。
「それでは、俺は俺で動いてみよう」
デウス・エクス・マキナが宣言した。
「マキナ殿?」
「『公平党』のみならず、『捜理協会』の方もいろいろと怪しい。いやむしろそっちが元凶かも知れないからな」
「そうですな。……ですが、気をつけてください」
「もちろんだ」
そしてハーシャ・クラウドとメイ・シャイ・ジョーイは退出した。
マキナとトマックス・バートマンは、それからも幾つか、技術的な話し合いを行ったのだった。
* * *
蓬莱島の頭脳、老君は、これからの作戦を考えていた。
『潜入捜査が必要でしょうかな』
例えば『第5列』の誰かを信者として潜入させ、証拠を握るという作戦である。
『セルロア国王に話を通しておいたほうがいいのでしょうね……』
なんといっても、彼らの拠点はセルロア王国内なのだから。
そこで老君は、デウス・エクス・マキナをセルロア王国国王に謁見させ、この件についての調査許可を貰わせようと考えた。
現セルロア王国国王ボザール・ヴァロア・ド・セルロアとマキナは、『世界会議』で顔を合わせているので、一応『顔見知り』の範疇に入る。
『ですが、アポイントなしには謁見できないでしょうね』
そこで老君は、『アヴァロン』からセルロア王国に連絡を入れてもらうようトマックスに依頼せよと、まだ『アヴァロン』にいるマキナに連絡をした。
マキナから依頼されたトマックス・バートマンは快諾した。
「わかりました。……今日これから、でいいのですか?」
「向こうさんの都合がよければ」
「わかりました。マノン、頼む」
「はい」
こうしてこの後、現地時間午後3時に、デウス・エクス・マキナ3世はセルロア王国王城を訪問することになったのである。
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20210514 修正
(誤)できれはこの『アヴァロン』でも管理して欲しい」
(正)できればこの『アヴァロン』でも管理して欲しい」
(誤)これ答えたのはマキナ。
(正)これに答えたのはマキナ。
(誤)搾り取れるものも搾り取れなくなるからでしょうかね、室長」
(正)搾り取れるものも搾り取れなくなるからでしょうね、室長」




