78-16 ララ
ゴウの自動人形作りは佳境に入っていた。
今は、頭部……つまり『顔』作りである。
「メルツェ、顔について、希望はあるかい?」
「顔……ですか? ええと……」
ここでお母さんそっくりにしてみる? と口にしないだけ、ゴウは自制心があった。
「誰かに似せてみるというのでもいいし……モンタージュしてみるのもいいな」
モンタージュとは、元々は映画用語で、『複数のカットを組み合わせて用いる技法』のことである。
それが転じて、いろいろな目や鼻などを切り貼りして目的の顔(大抵は犯人)を作る際にも用いられるようになった。
ゴウの使い方にはかなり誤用が混じっているが、要は『メルツェのいうとおりに顔をいじってみよう』という意味である。
「そんなこと、できるんですか?」
「できるよ。……ほら、魔導樹脂」
魔導樹脂に顔料を混ぜ、肌の色に近いものとして頭部の模型を作り、いよいよ開始だ。髪の毛がないのは致し方ない。
「丸顔、面長、どんな感じ?」
「やや面長、でしょうか」
「うん。……『変形』……どう?」
「ええと、もう少し面長がいいです」
「わかった。『変形』」
「あ、そのくらいで」
「うん、後からでもいじれるからね。それじゃあ、次は目だ。……」
このような感じで、少しずつメルツェ好みの顔に近づけていく。
「……悔しいけど、ゴウってこういうのうまいわよね」
「ルビーナの言うとおりだな。ゴウは論理的、というか、情報を視覚化するのがうまいと言うか……」
特徴を聞きながら似顔絵を描ける人がいるように、ゴウもまた、そうしたセンスがあるようだ。
直感で行動するルビーナにはちょっとできない芸当である。
ちなみに仁はゴウとルビーナの中間くらい。バランスがよいと言えば言えるが、中途半端とも言える。
それはさておき、顔作りはそろそろ終盤だ。
「口元は?」
「ぼってりした唇は嫌です」
「うん」
「あまり大きいのも嫌です」
「うん。……『変形』」
「ああ、それくらいで」
「よし」
そして完成した『顔』。
「…………」
「なんていうか、『平凡』ね」
「おい、ルビーナ!」
「あ、ごめんなさい、メルちゃん」
「……」
「メルちゃん?」
「……あ、ご、ごめんなさい、ルビちゃん、何?」
「ううん、なんでもない。メルちゃんこそ、何を考えていたの?」
「この顔……」
「顔?」
「……母さま、に似ているの」
「お母さんに?」
それを耳にした仁は、どうやらメルツェは、無意識のうちに母親の面影を追っていたようだな、と考えた。
それを直截的な言葉で指摘するのはどうかと考えていると、エルザが口を開いた。
「メルツェさん、子供が親の影を追うのは当たり前のこと。ちっとも恥ずかしいことじゃ、ない」
「エルザ様……」
「あなたがそうと意識せずに望んだ顔、嫌なものじゃあないでしょう?」
「もちろんです!」
「ん、なら、この顔で作ってもらえば、いい」
「はい!」
「……というわけだから、ゴウ、お願い」
「わ、わかりました」
エルザはそれで引っ込み、仁の隣に腰を下ろした。
「さすがだな」
「ん、これくらい、なら」
女の子の心理だから、やっぱりエルザのほうがよくわかっているよなあ……と、少しほっとした仁であった。
髪の色は緑、セミロング。瞳の色も緑とした。
これで自動人形の印象は、メルツェの母とはかなりかけ離れたようだ。
そしてそれでいい、とメルツェは言ったのである。
* * *
「ええと……被覆はルビーナに頼んで、いいかな?」
「もちろん。と言うか、ゴウが言い出さなかったら蹴っ飛ばしていたわよ」
「……」
女性型自動人形への被覆とは『魔法外皮』で覆うことだ。
つまり、被せることで一気に人間らしくなる。
そういうわけで思春期入り口のゴウには少々……いや、かなり気恥ずかしかったのである。
「服は私が、作ってあげる」
そしてエルザも協力を申し出た。
「助かります」
こうして、最後の最後はルビーナとエルザの協力もあって、無事に『メルツェ専用自動人形』は完成したのである。
* * *
「よくやったな、ゴウ。ルビーナもサポートお疲れさん。エルザも服をありがとうな」
「ありがとうございます」
「いい勉強になったわ。ジン様、ありがとう」
「うん。チェックをして…………大丈夫だな。起動してもいいぞ」
「その前に、メルツェに名前をつけてもらいましょう」
「わ、私がですか?」
「そうだよ。これはメルツェの自動人形なんだからね」
「私の……」
「だから、名前をつけてあげて欲しい」
「わかりました」
言われてメルツェは首を傾げながら一所懸命に考えている。
「ええと、それじゃあ、『ララ』というのはどうでしょう?」
「うん、いいんじゃないか?」
「いい名前ね、メルちゃん」
「いい名前だと思う」
こうして、名前は『ララ』に決まった。
「よし、それじゃあゴウ、起動してみろ」
「はい。……『起動』」
「はい、『製作者様』」
「きゃ」
メルツェが小さな声を上げた。
グロ耐性はあっても、自動人形がいきなり動き出すのは驚くらしい。
「君の名前は『ララ』だ」
「はい、私は『ララ』です」
「ララ、調子はどうかな?」
『ララ』はセルフチェックを行い、問題なし、と報告した。
「よし。それじゃあ、君の主人はこちらのメルツェだ」
「はい。メルツェ様、これからよろしくお願いいたします」
「こ、こちらこそ」
こうして、メルツェ専用自動人形『ララ』が完成したのであった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20210511 修正
(誤)ゴウのセリフ場合、かなり誤用が混じっているが、
(正)ゴウの使い方にはかなり誤用が混じっているが、
(誤)ちっとも恥ずかしことじゃ、ない」
(正)ちっとも恥ずかしいことじゃ、ない」




