78-15 ゴウのオートマタ製作
全員が工房に入ると、
「まず、素材を準備する」
と、この場で唯一の素人であるメルツェに説明するように、ゴウは手順を口にした。
「自動人形の基本素材は軽銀だ。軽く丈夫で、魔力に対する反応も素直だから」
助手ゴーレム『ピスティ』が軽銀のインゴットを運んできてくれる。
「これを使って骨格を作る。……『変形』」
「わ、わあ……」
初めてゴーレムの製作現場を見た……というより、工学魔法を初めて見たメルツェは目を見張って驚いている。
「『アドリアナ式』は、基本的な構成は人間に近いものとしているんだ。……メルツェ、平気かい?」
慣れない者には多少グロテスクな眺めになる、とゴウが心配したが、意外にもメルツェは平然としていた。
「あ、大丈夫です。骨付き肉の料理とか、コカリスクの解体とか、やったこともありますから」
「そ、そうなんだ」
思ったよりメルツェは逞しい一面があったようだ。
「ルビーナ、関節のすり合わせとアダマンタイトコーティングを頼んでもいいかな?」
「オッケー、任せなさい!」
ゴウに頼まれたルビーナは、喜々として作業を開始した。
「『鍍金』……うん、いい出来ね」
「わあ……ルビちゃんも工学魔法を使えるんだ……」
「はは、そうだよ、メルツェ。ルビーナはゴウ以上の技術者なんだ」
感心するメルツェに、仁が説明した。
「そうなんだ……。ルビちゃん、すごい!」
「ふっふーん、もっと褒めて!」
楽しそうに作業するルビーナ。仁が見る限り、ミスはない。
メルツェとおしゃべりしながらでも、やるべきことはやり、押さえるべきところは押さえているな、と仁は評価した。
「寸法修正よし、歪み修正、よし」
ゴウは骨格を仕上げ終わり、チェックも済ませていた。
「次は筋肉組織の製作と配置だ。……『魔法筋肉』は特殊な魔物から採れる生体素材を使う。これは、魔力を流している限り、経年劣化がほとんどないという優れた素材だ」
「そうなんですね……」
「そうなのよ。だからあたしたちが作るゴーレムや自動人形はみんなこれを使うの」
ルビーナは補足説明……というか、解説をしている。
繊維を撚って長さと柔軟性を確保するというコツまでは説明しない。基礎のないメルツェには理解できないだろうからだ。
「……ゴウ、前より手際がよくなったみたいね」
「そうかな?」
「うん。……やっぱりこの前、ジン様の手ほどきを受けたからじゃない?」
そんな話をしながら、ゴウは繊維を撚り、束ねて筋肉を作っていった。
「そして取り付けだ。『アドリアナ式』は人間の身体の構成に準じている。……メルツェ、平気かい?」
骨格に筋肉が取り付けられていくと、無機質だった印象が、生々しくなっていく。
だがメルツェは、
「ご心配ありがとうございます。でも、『タグン』(アナグマとアライグマとハクビシンを足して3で割ったような雑食性の動物)の皮をなめしたこともありますから」
と、これまた平然と答えた。
「そっか。……同時に、筋肉を動かす命令を伝えるための『魔導神経線』も配線していく。これは純ミスリル銀を使う」
純ミスリル銀は柔らかくしなやかなので魔導神経線として使いやすい。
その反面、切れやすいので被覆で強度を増すようにするのがコツである。
「えっと、ミスリル銀って高いですよね?」
「みたいだね」
「みたいだねって……いいんですか?」
「量を使うわけじゃないから」
神経線として使う量としたら10グラムほどであろう。
ミスリル銀の相場はグラムあたり4000〜5000トール。これは400年前から変わっていない。
なので4万から5万トール、日本円では40万から50万円、となる。
「……だから自動人形って高価なんですね……」
ついこの前まで庶民だったメルツェには理解できない感覚だった……が。
ゴウとルビーナにも、あまりよくはわかっていない、
2人とも、素材は常に用意されているものだったからだ。
* * *
そんなやり取りを傍で見ていた仁は、
(うーん、その点はこれから教えていかないといけないな……)
と痛感していた。
仁自身、素材で苦労しない身分だが、数年前この時代に『落ちて』きた際には、蓬莱島のバックアップもなく、素材入手に苦労した経験があるので、その分だけゴウやルビーナよりはマシなのであった。
そうした経験をすることにより、見えてくるものもある。
ゴウとルビーナにも、早いうちにそうした経験をさせておきたい、と仁は思ったのである。
* * *
「胸部と腹部には重要な機器が収まる。人間で言えば内臓にあたる装置だね」
ゴウの説明はメルツェ向けなので、『魔素変換器』とか『魔力炉』のような専門用語は使わない。
それでもメルツェには十分難しい内容なのだから。
「そうした重要な装置は、シールドケースと呼ばれる、丈夫な箱に収め、衝撃などから保護をする」
シールドケースの最も重要な働きは『書き換え魔法』からの保護だが、メルツェにはそこまでの説明はまだ行わないゴウであった。
ゴウは仁の見守る中、『制御核』『魔素変換器』『魔力炉』などを次々と作っていく。
「うん、いいできだな」
「ありがとうございます。……ジン様、触覚の処理をする補助処理装置ですけど、腕、脚それぞれの付け根あたりに1つずつ設けたほうが効率がいいと思うんですが」
「お、いいところに気が付いたな。それでやってみろ」
「はい!」
全身の触覚を1つの補助処理装置で集計、演算、処理をするのではなく、右腕なら右腕、左脚なら左脚をそれぞれ処理してから『制御核』へデータを送る方が効率がいいことにゴウは気が付いたのだった。
それをもう一度上位の補助処理装置で集約し、『制御核』に送ることで、2割ほどの効率アップが見込めるのである。
実は、礼子を始めとする蓬莱島の自動人形・ゴーレムは、既にそうした改良が施されている。
「むぅ……ゴウってば、あたしが遊んでいた時にやっぱりジン様にいろいろ教えてもらってたんだ……」
そんなルビーナの呟きを聞いたのは、耳のいい礼子と、すぐ隣りにいたメルツェだけであった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20210510 修正
(誤)革をなめしたこともありますから」
(正)皮をなめしたこともありますから」
(誤)繊維を撚って長さを柔軟性を確保するというコツまでは説明しない。
(正)繊維を撚って長さと柔軟性を確保するというコツまでは説明しない。
(誤)やるべきことはやり、抑えるべきところは抑えているな、と仁は評価した。
(正)やるべきことはやり、押さえるべきところは押さえているな、と仁は評価した。




