78-04 仁からの指導
メルツェのことは、今夜はとりあえずルビーナに任せるとして、仁はまだ少し元気のないゴウに言葉を掛ける。
「ゴウ、この後少しいいか?」
「あ、はい、ジン様」
「食事が終わったら工房へ行こう」
「はい!」
工房、という単語が聞こえたためか、少し元気な声で返事をするゴウだった。
そしてメルツェとのお喋りに夢中なルビーナの耳には入っていなかったようである。
* * *
ゴウの工房で、仁は先程エルザたちと相談した内容を説明する。
「……というわけだ。まずは、工房で助手を務めてくれるゴーレムを作るところから始めたいと思う。どうだ?」
「ジン様にご指導いただけるなら、願ってもないことです!」
大乗り気のゴウであった。
「よし。助手ゴーレムだから……必要なポイントは何だ?」
「はい。指示に対する理解力。素材や工程の知識。それに、精密動作性とパワー……でしょうか」
「70点だな。工学魔法の能力も大事だぞ」
「あ、そうですね……」
「次は、それを踏まえて、素材はどうする?」
「軽くて丈夫、硬度が高く、歪みが少ないこと、非磁性が望ましい……と思いますので、軽銀系がいいかな、と」
「うん、それでいい」
「はい!」
「それじゃあ、外見を決めよう。これは好きにしていいぞ」
「では……」
ゴウが何と言うか、仁としては興味があった。
成人男性型か、それとも少女型か。あるいは成人女性型であろうか、と。
「いつか……直してみたい自動人形があるんです。ですから、その練習として成人女性型にします」
「お、そうか」
仁としてもその可能性は高いかなと思っていたので、それほど意外ではなかった。
「では、外見についておおよその数値を決めよう。必要なのは身長の値だな」
骨格を作るにあたり、これだけは決めておかないわけにはいかない。
太め、細め、といった体格は後から調整することも容易だが、身長はやや面倒なのである(決して不可能ではない。特に仁がいるなら)。
「155センチくらいにしたいです」
「うん、標準的だな」
「体格はややスリム系で」
「そうか」
『アミィ78』もそんな体型だったんだな、と仁は想像しながら頷いてみせた。
「筋肉には何を使う?」
「パワーがありすぎると精密動作が難しくなりますし、その逆も言えますから、生体素材系で」
「うん。だが、ちょっと違うぞ」
「え?」
「精密動作性を左右するのはパワーじゃない。伸縮率だ」
「そうなんですか?」
「勘違いしやすい点だな」
ねじりコイルばね(スプリング)を考えてみるといい。
ばねを作っている素線径が同じ、巻径も同じなら、全長が長い(=巻数が多い)ばねのほうが短いばねよりも、ばね定数が小さい、すなわち弱いばねになる。
そして、素線径が同じでばねの全長が同じならば、巻径が小さい方が強いばねになる。
ここまでが前提。
ばねを筋肉繊維に置き換えて考える。
精密動作させるには、変位すなわち長さの制御をしやすいほうが有利だ。
そのためには、素線の全長が長い方が、小さな変位の誤差に対する許容量が大きくなる。つまり精密動作に向くといえる。
「つまり、筋肉の素線径を細く、かつ長くしてたくさん束ねれば、精密動作性とパワーをうまく両立させることができる」
「わかりました!」
こうした手ほどきをしつつゴーレムを作っていくのは、仁の教育方法である。
もちろん、あるレベル以上の知識と技術がないと理解できないのだが、マリッカの弟子であるゴウには、十分な基礎ができていた。
「それではやってみよう」
「はい!」
素材の軽銀は十分にストックされているので、骨格を作るには十分であった。
「『変形』『変形』『強靱化』『変形』……」
「うん、いいぞ」
ゴウの手際を見て、さすがマリッカの弟子、と仁は嬉しく思っている。
加工の速度は(仁から見て)今一つだが、精度は申し分ない。
アドリアナ式のゴーレムの基礎構成部分……骨格と筋肉の取り付けを、ゴウは1時間で完了した。
「どうでしょうか、ジン様」
「いいぞ。ただ、腰の関節がちょっと弱いかな?」
「あ、重いものを持ってもらうこともあるからですね?」
「そうだ。……どのくらいを想定した?」
「1トンかな、と……」
「そうか。それなら今のままでいいかな」
仁としてはその2〜3倍、3トンくらいを運べるものにするものだと思っていたのである。
実際、『職人』ゴーレムは10トンくらいは楽に運べる。
細かなチェックをした後、仁は合格だ、と告げた。
ゴウの表情が明るくなる。
そして次の工程に進もうとしたのだが、
「今日はここまでだ。センサ類や制御核なんかは明日やろう」
と仁は宣言した。
「そういう作業は、十分休息をとってからやった方がいい。これは実体験だ」
なにせ仁は、ちょいちょい寝食を忘れて製作に没頭しがちなのだから。
「わかりました」
「手を洗って戻ろう」
「あ、はい」
流水で手を洗った後は工学魔法『浄化』で手と身体をきれいにし、母屋へもどった仁とゴウである。
* * *
「お帰りなさい、ジン兄」
2人を迎えたのはエルザのみ。
「ダイキとココナは?」
「今、入浴中」
「そうか」
仁たちを優先してくれたため、自分たちの入浴は遅くなってしまった2人なのであった。
「メルツェとルビーナは?」
「どっちかの寝室へ行って話し込んでる」
「そうか」
ルビーナも同年代で同性の友人はいなかったので、メルツェとおしゃべりするのが楽しいらしい。
(なお、『長老』700672号の養女、ネージュとルージュは友人ではあるが同年代とはちょっと言い難い)
「ルビーナにとってもいいことなんだろうな。……もう少しこっちに滞在することをアマンダさんに……ああ、アマンダさんをこっちに連れてこようか?」
マーサかミーネを、とも思っていた仁であったが、アマンダを連れてくるのもアリかと考えたのである。
「いきなりというのは面食らうかもしれない。アマンダさんはこっちの国のこと、何も知らない、はず」
「それもそうか……」
「だから、ちょっとだけ予備知識を得てもらってからがいいと思う」
「それもあるかな」
「ん。アマンダさんも後で呼ぶとして、ここはまずは母様、がいいかも」
エルザは実の母ミーネを推薦した。
確かに、元侍女であったミーネなら、メルツェの扱いも心得ているかもしれないと、期待する仁であった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
本日4月29日(木)は14:00に
異世界でホムンクルスになっていたのでスローライフを目指す
https://ncode.syosetu.com/n8402fn/
を更新します。
こちらも応援のほどよろしくお願いいたします。
20210429 修正
(誤)メルツェのことは、今夜はとりあえずルビーナ任せるとして、
(正)メルツェのことは、今夜はとりあえずルビーナに任せるとして、
(誤)流水で手を洗った後は工学魔法『浄化』て手と身体をきれいにし
(正)流水で手を洗った後は工学魔法『浄化』で手と身体をきれいにし
20210801 修正
(旧)
「それは、難しいかも。アマンダさんはこっちの国のこと、何も知らない、はず」
「それもそうか……」
「それに……アマンダさんが来たら、ルビーナが緊張しそう」
「それもあるかな」
「ん。ここは母様、がいいかも」
(新)
「いきなりというのは面食らうかもしれない。アマンダさんはこっちの国のこと、何も知らない、はず」
「それもそうか……」
「だから、ちょっとだけ予備知識を得てもらってからがいいと思う」
「それもあるかな」
「ん。アマンダさんも後で呼ぶとして、ここはまずは母様、がいいかも」
2話後の78-06でのエルザの意見と整合を取りました。




