78-03 思春期
近衛騎士の1人が、『公平党』についてわかったことを説明してくれている。
「『公平党』は、ここ5年くらいで急速に信者を増やしてきた団体のようです」
「信者?」
「ええ。元々は『捜理協会』という新興宗教団体が母体だったということです」
「捜理協会?」
「はい、真理を求め、真理を体現する世の中を作ろうという理念を掲げておりますが、いわゆるインチキ宗教ですね」
「ははあ、なるほど……」
世の中が平和になると、そうした小賢しい連中が民衆を煽り、騙し、己の利益を追求するようになるんだな……と、仁は思いながら説明を聞いている。
セルロア王国は大国。領土も広い。
だが、その文化文明の中心は首都のある北部であり、南部はやや後れを取っている。
そんな風土を狙い、『捜理協会』は勢力を広げつつあったのだ。
「単に人々の救済や教育を理念にしているだけならよかったのでしょうが、現状の体制を壊そうとするなら、それはテロ集団ですから」
「確かに」
セルロア王国南部は、昔から自由を求める気風がある。
かつて、大商人エカルト・テクレスは、己の夢を叶えるべく大型船を建造し、海へと乗り出した。
それもまた、南部人の気質だったのだろう、と仁は昔を懐かしく思い出していた。
それはさておき、近衛騎士の話によると、『捜理協会』の構成員は1000人から1500人ほど。
数が不正確なのは、捕らえた2名からの情報なので、鮮度が悪いからだ。
そして『捜理協会』の中でも特に急進的な者たちが作ったのが『公平党』であるという。
『捜理協会』が民衆の教化を中心に活動しているのに対し、『公平党』は対外的に働きかけている。言い換えれば思想の押しつけを行っている。
もっと言うなら、テロを行おうとしている。
「……と、ここまでが、犯人たちから聞き取った内容です」
「ありがとうございました」
どうにも小物臭が漂ってはいるものの、放置しておけば第2の『魔法連盟』にもなりかねない。
そこでこの件は、ショウロ皇国からセルロア王国へ通達し、取り締まりを行ってもらうことにする、と皇帝は補足した。
「何か質問はありますか?」
最後に、説明を担当した近衛騎士が全員に対してそう言うと、ダイキが挙手をした。
「はい、ニドー閣下、何でしょうか?」
「メルツェ嬢が短剣を鑑定してもらったという道具屋はどうなりましたか?」
「はい、その件は別働隊が調査中ですが、あの後すぐに訪れてみたところ、もぬけの殻になっていたそうです」
「わかりました」
他に質問の出ることもなく、この話題は終了した。
が、老君は礼子を通じて情報を集めており、この件についても追加調査を行うことを決めたのだった。
* * *
立場上そうそう長居することもできず、皇帝エルンスト2世は午後4時半ころニドー邸を後にした。
「はあ……」
小さく溜息をつくメルツェ。
「メルちゃん、疲れたの?」
「うん……」
皇帝たちが帰ったので、ルビーナが顔を見せ、ぐったりしたメルツェを見つけた。
「もうお風呂の準備ができているから、一緒に入ろ?」
「うん……」
半ばメルツェを引きずるようにして、ルビーナは浴場へと消えていった。
* * *
仁たちはダイキと、今後のことについて打ち合わせをしている。
「メルツェを預かる、ということについては想定内だけどな」
「そうですね」
「これに対してヨヒア子爵は文句を言ってこないかな?」
「大丈夫でしょう。彼はよくも悪くも皇帝家に忠実ですから」
「それならいいけどな」
そして話はメルツェの扱いになる。
「色々経験させて、広い世の中を見せてあげるのがいいでしょうね」
ココナが言う。
「うむ。貴族になるならないの判断は本人に任せるとして、どちらを選んでも応援してあげようではないか」
「そうですわね、あなた」
「うーん……」
「ジン兄、何を考えてるの?」
「いや、従者自動人形がいたほうがいいのかなあと思って」
「ジン兄が作るとオーバースペックになる」
「だったらゴウに手伝わせようか」
「あ、それはいいかも」
いずれ『アミィ78』を直すためのいい経験になると思われるので、エルザも賛成した。
「スペックなんかは後でメルツェともゆっくり話し合って決めよう」
「ん」
* * *
一方、浴場のルビーナとメルツェ。
「メルちゃん、やっぱり皇帝家の一員になるの?」
「ううん、わかんない……」
「そうよね……でも、しばらくここの家にいるんでしょう?」
「うん……」
「あたしも時々遊びに来るから!」
「うん……」
「元気出しなよ!」
「うん……」
こんな調子で、テンションが下がりっぱなしのメルツェであった。
さすがのルビーナも、短時間で慰めることはできなかったようである。
* * *
そして夕食の時間となる。
「あ、美味しい。……懐かしい味、です」
「だと嬉しいわ」
老君が調べ、5色ゴーレムメイドたちが再現した、メルツェの実家周辺でよく作られているレシピを元にした献立である。
懐かしい味に、少しほっとしたメルツェであった。
「ねえメルツェさん、いきなり、は無理でしょうけれど、欲しいものがあったり、やりたいことがあったりしたら言ってちょうだいね」
「ありがとうございます……」
俯いたまま、小声で礼を言うメルツェ。
そうした角度だと、甥である皇帝エルンスト2世とよく似ている、と仁は思った。
暗い金髪に碧眼、という点も同じなので、なおさらだ。
身長は同い年のルビーナと同じくらいだが、ルビーナの方がやや細めである。
そうしてみると困窮はしていなかったのだろう、とエルザは推測した。
(うーん……どうしたらリラックスさせられるだろうかな……)
13歳……中学1年生くらい……思春期初めの女の子の面倒を見た経験は、さすがに仁もなかった。
なのでどう扱ったらいいのか、ちょっと見当がつかず、ルビーナに任せっきりなのである。
(あ……マーサさんとかミーネ義母さんとかなら?)
今夜相談してみよう、と心に決める仁であった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20210428 修正
(誤)己の利益を追従するようになるんだな……と
(正)己の利益を追求するようになるんだな……と
(誤)南部はやや遅れを取っている。
(正)南部はやや後れを取っている。
(旧)創理協会
(新)捜理協会
20210429 修正
(誤)「いや、従者自動人形がいたほうがいいのなあと思って」
(正)「いや、従者自動人形がいたほうがいいのかなあと思って」




