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マギクラフト・マイスター  作者: 秋ぎつね
78 過去からの縁篇
2938/4340

78-05 移籍

 2月9日になった。

 外は曇り、寒い朝である。窓には窓霜がびっしりと付いた。

 が、ニドー邸の中は空調がなされ、快適である。

 朝食も済み、ゆったりとした時間が流れるニドー邸……に、来訪者があった。

 ヨヒア子爵である。侍女頭のイェニーも付いてきていた。

 応接室でダイキは子爵と対面する。


「アポイントもなしの来訪、申し訳なく思います。ですが、『審議会』で決まった、事故処理に対する謝礼を持ってまいりましたので」


 ニドー伯爵の友人も滞在中ということなので、帰ってしまわれないうちにやって来た、と子爵は説明した。


律儀りちぎだな。期日は特に定められていなかったのだから、もっと後でもよかったのだが」

「いえ、それでは申し訳が立ちません」

「わかった。……ジン殿も呼ぼう」


 礼金を受け取るのは仁もであるから、ダイキは仁も呼ばせたのである。


「ヨヒア子爵閣下、ご無沙汰しております」


 ルビー102に案内され、仁が応接室にやって来た。

 ヨヒア子爵は立ち上がって仁に礼を行う。


「おお、ジン殿とおっしゃいましたな。その節は、お世話になりました」


 きちんとした人物のようで、事故当時は気がいていたのだな、と仁は感じた。


「いえ、済んだことです。それにこうして礼金をいただければ、もうこちらから言うことはございません」

「いえいえ、その上、メルツェ様をお助けいただいたことも聞き及んでおりますぞ」

「できることをしただけですよ」

「ご謙遜ですな。……ニドー伯爵閣下はよいご友人をお持ちで羨ましい限りですよ」

「いや、なに」


 そんな外交辞令めいたやり取りの後、ヨヒア子爵は、


「メルツェ様にもご挨拶したいのですが」


 と言う。

 特に断る理由もないので、ダイキは再びルビー102にメルツェを呼びに行かせた。

 2分ほどでルビー102はメルツェと共に戻ってくる。


「おおメルツェ様、ご健勝そうで何よりです」

「え、えっと、ヨヒア子爵様、そ、その節は、お世話になりました」

「いえいえ、何の。……ニドー伯爵、1つ提案があるのですが」

「何かね?」

「このイェニーを、メルツェ様がいらっしゃる間だけでも、こちらで使ってもらえませんか?」

「え?」

「イェニーは、メルツェ様のご母堂と友人でした。メルツェ様のこともよく知っております」

「なるほど、メルツェ殿の数少ない知人だったな」


 ダイキはここで少し考えた。

 確かに、この屋敷にはメルツェが気を許せる者が少ない。

 ルビーナは客人であり、いずれ帰ってしまう。ならば……。


「メルツェさん、どうですか? あなたがそうしたいなら、イェニーを雇い入れたいと思いますが」


 ダイキはメルツェの気持ちを聞くことにした。


「ええと……わ、私は、イェニーさんがいてくださると、嬉しい……です」

「そうか。それではヨヒア子爵の厚意に甘えることとしよう」

「おお、光栄です。……イェニー、頼むぞ」

「はい、旦那様」


 そういうわけで、いろいろ協議した結果、向こう1年間……メルツェが身の振り方を決めるまで……イェニーはニドー伯爵家で働くこととなった。

 待遇はメルツェ付きの侍女。

 ニドー家にはもう400年も働いている5色ゴーレムメイドがいるので、メルツェ専属になってもらったのだ。

 それでは仕事が少なすぎるとイェニーがぼやくので、手が空いている時は色々と手伝ってもらうということになった。

 特に食事については、ゴーレムメイドたちの知らないレシピを知っているので、いろいろ教えてくれることになった。


 もちろん、ニドー家のやり方で有益なものはイェニーに教えることになる。


*   *   *


「こほん、では……イェニーと申します。皆様、1年間、よろしくお願いいたします」

「こちらこそよろしく頼む」

「イェニーさん、よろしくおねがいしますね」


 まずは家長であるダイキとココナに対し、主従の礼を行うところからだ。


「メルツェお嬢様、よろしくお願いいたします」

「え、え? お、お嬢様?」


 今までは『メルツェさん』と呼んでくれていたイェニーが『お嬢様』呼びをしたもので面食らうメルツェ。

 こればかりは仕方がない。主従の線引はきちんとしなければならないのだから。


 それから、仁やエルザもダイキとココナの友人として挨拶を行う。

 その後、ゴウも呼ばれ、紹介された。


「若様、どうぞよろしくお願いいたします」

「わ、若様!?」

「若旦那様、の方がよろしいでしょうか?」

「え、えっと……」


 呼ばれなれていないゴウにとってはどっちも好ましくない……のを察したイェニーは、


「では、ゴウ様、とお呼びいたしますね」


 と言い直したのである。


「あ、うん、そうしてください」


 それで、ゴウもまあほっとしたのであった。


(イェニーって、杓子定規な堅物じゃあなさそうだな)


 そうしたやり取りや仕草を見ていると、整った中にも柔らかみが感じられるので、仁はこの分ならこの屋敷に馴染めそうだなと思ったのである。


*   *   *


 そのイェニーは3868年生まれなので今年34歳。

 メルツェの母ゼルマとは、宮城(きゅうじょう)で働き出したときからの友人同士だったのだ。


 元々、皇帝家の年少の皇子・皇女の世話をするため、年若い侍女・侍女見習いを募集したとき、13歳で宮城(きゅうじょう)に上がり、後宮勤めになったときの同期なのだ。

 その後メルツェの母ゼルマは時の皇帝ヴァンフリートに気に入られ、彼に仕えるようになった。

 そしてイェニーは、他の多くの侍女見習いたちと同様、貴族の家に奉公することになる。それがヨヒア子爵家であった。

 侍女見習いから、宮城(きゅうじょう)で皇帝家に仕えられる侍女になれるのはごく一部なのだ。

 だからといってイェニーの侍女としての能力が劣っていたわけではない。

 単に容姿の好みで振り分けられただけである。

 当時の皇帝家の子供たちは金髪碧眼の侍女を好んだようで、イェニーは、焦げ茶色の髪、茶色の目。中肉中背だがプロポーションはよい。

 またゼルマは栗色の髪、鳶色の目。イェニーと背は同じくらいだが、やや痩せ型であったという。


 性格は温和で、面倒見がいいので、ヨヒア子爵家の侍女教育は非常に良好であった。

 そのため30代で侍女頭になったわけである。


 しかし。


「……ゴーレムの侍女がこんなにすごいとは思いませんでした」


 力は人間の数倍あり、力仕事も楽々こなす。

 同時に、触覚を有するため人間以上に精密な動作もできる。

 睡眠・食事を必要とせず、24時間働き続けることができる。

 人間離れした……実際人間ではないのだが……記憶力を持ち、膨大な知識を有する。

 当然荒事にも対応でき、並の警備兵よりも頼りになる。

 等、等、等。


 イェニーの奮闘はこれからである。

 いつもお読みいただきありがとうございます。


 本日は『蓬莱島の工作箱』も更新しております。

  https://ncode.syosetu.com/n0493fy/

 お楽しみいただけましたら幸いです。


 20210430 修正

(誤)当時の皇帝家の子供たちは金髪碧眼に侍女を好んだようで

(正)当時の皇帝家の子供たちは金髪碧眼の侍女を好んだようで

(誤)「若旦那様、の方がよろしかったでしょうか?」

(正)「若旦那様、の方がよろしいでしょうか?」


 20210501 修正

(誤)待遇はメルチェ付きの侍女。

(正)待遇はメルツェ付きの侍女。

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― 新着の感想 ―
[一言] ゴーレムの侍女が凄いのは仁の五色ゴーレムだから、って点もあるとは思いますけどね 長く稼働しているから、当然、その家の子供が生まれた時からお世話をしているので好みなどもばっちり把握していて、忘…
[良い点] 仁「……従者自動人形、要らなくなっちゃったな」 エ「良いんじゃない?収まる所に収まったんだから」 仁「まあこれでゴウも、アミィ78に専念できると思えば、それはそれで良いのかな……」 まあ、…
[一言] (誤)「待遇はメルチェ付きの侍女。」 (正)「待遇はメルツェ付きの侍女。」
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