77-14 白熱の空中戦
ルビーナは仁の『ルフト1』を必死に解析している。
「あたしの『リミッター解除』でも追いつけない加速は……いったいどうやって得ているのかしら?」
『魔法型噴流推進機関』の出力は、使用している風属性魔法の強さで決まる。
風を吹き出した反作用で推進力を得ているということは、風速と風量に左右されるということ。
より多くの空気を吸い込み、より勢いよく吹き出せば、推進力は大きくなるということだ。
「だから『リミッター解除』は吸い込む空気を増やしているんだけど……それでも追いつかないなんて」
そう、ルビーナの『リミッター解除』とは、『ナイルⅤ改』の魔法型噴流推進機関により多くの空気を押し込むことであった。
風属性魔法を使い、吸気する空気の密度を高めることでそれを実現している。それがルビーナのやり方だった。
この時、エンジン内の圧力も相応に高まるので、軽量化されたエンジンの寿命が短くなるのが欠点である。
「エンジンを強化するとその分重くなるのよね……」
なのに仁はどうやって強度と軽量化を実現しているのか……。
ルビーナは考えた。
* * *
「よし礼子、その調子でもう少し追いかけっこを続けろ」
『はい、お父さま』
監督席から礼子に指示を出した仁は、ルビーナは今、何を考えているだろうかと思っていた。
仁から見て、ルビーナたち『オノゴロ島』の技術者たちに最も足りないのが経験だ。
それを体験させたくて、撃ち合いの空中戦をせずに追いかけっこをしているのだった。
「この模擬戦を通じて何かを学んでくれればな……」
ただ教わるのではなく、自分で発見することで、身につく技術もある。
ルビーナのことだから、必ず何か得るものがあるはず、と信じて疑わない仁であった。
「あの子は、天才型だしな」
仁はルビーナが、『勘』で『なんとなく』こうした方がいい、というような『感覚型』だろうと思っている。
それゆえ、試行錯誤をすっ飛ばして完成にこぎつけるのがうまい。
だからこの辺で『研究すること』を覚えてくれれば、より一層の技術向上が望めると見ているのだった。
* * *
「……そう、か……エンジンの効率とか出力特性とか、風洞実験ではわからないものね……」
そして、仁の期待どおり、ルビーナは少しずつ、さらなる向上へのための糸口を掴みつつあった。
「エンジンも単独でのテストを繰り返して、最適なノズル形状とか圧縮比とかを決めればいいんだ……」
これまで『勘』と多少の経験で作ってきた『魔法型噴流推進機関』。
それにもまだまだ改良の余地があると気がついたルビーナ。
仁の目論見はまずまず成功しているようであった。
* * *
「……やっぱりジン様はすごいですね」
「そうだな。ゴウ君にはわかるかい?」
「はい」
ゴウはダイキ・ココナ夫妻らと共に、仁の監督席後ろで観戦している。
ゆえに仁が礼子に出す指示も耳にしており、ルビーナのことを思っての展開に持っていっていることも理解していた。
そしてそれは同時に、後ろで見ている自分にも教えている、ということも察することができていた。
「私には工学魔法の素質がなかったからなあ……こうした競技に参加できる人たちが羨ましいよ」
ダイキがそう言うと、ゴウは、
「少し、わかります。……僕も、今回参加するまでは、ずっと憧れて見ているだけでしたし」
と、ぽつりと言った。
「まあ、そうだったの……」
「君にもそんな時があったのだな」
監督席にはエルザもいるのだが、ダイキ・ココナ夫妻とゴウに気遣って無言のまま隅に寄っていた。
そして3人の様子を窺っている。
(どうやら、ダイキさんココナさんはゴウ君が気に入ったみたい。ゴウくんもお2人とは話しやすそう)
これは、ダイキとココナがゴウを養子にすれば万事丸く収まるのでは、と考えるエルザであった。
* * *
『ジン様の『ルフト1』を追うルビーナの『ナイルⅤ』! まだ双方、光線銃を発射しておりませんが、非常に見応えのある空戦となっております!』
今のところ、600メートル先を行く『ルフト1』を『ナイルⅤ』が追う、という展開に終止している。
だがそれすら、これまで見てきたどの空戦よりもレベルが上だった。
なにせ速度が違う。
垂直上昇でさえ時速400キロを超え、垂直降下に至っては超音速。
平均速度はおそらく時速800キロ前後。
その速度域で急旋回を行えば、機体と操縦者に掛かる重力は数十Gになるであろう。
そんな空戦を見せられては、観客が沸くのも当然と言えた。
『ここで宙返り! しかも逆宙であります!』
高度3000メートル付近で行われるドッグファイト。
ハイスピードで行われるそれに、観客の目は釘付けであった。
* * *
「……そろそろいいだろう。礼子、戦闘開始だ」
『はい、お父さま』
『追いかけっこ』は終了し、『撃ち合い』を開始するよう、仁は礼子に指示を出した。
* * *
水平飛行をする『ルフト1』を追う『ナイルⅤ改』。
その距離はおよそ600メートル。
と、不意に『ルフト1』は機首を上げ、機体全体でブレーキを掛ける。
第1戦でルビーナが見せた『コブラ』。
礼子と『ルフト1』が行ったそれは、より完全な機動であった。
『ナイルⅤ改』はあっという間に『ルフト1』を追い越してしまう。
そして体勢を立て直した『ルフト1』はぴたりと『ナイルⅤ改』を照準器に収めた。
発射される光線。
だが、さすがはルビーナ、ただ撃たれてはいない。
ジンキング(上下左右に機体を小刻みに動かす機動)を行い、少しでも射線を外そうとした。
そのため、光線が当たったのは主翼の中ほど。
これでは『小破』判定となり、競技は継続である。
このままではジリ貧と判断したルビーナは、『ナイルⅤ改』に搭載した『奥の手』を使うことにしたのだった。
「ジン様が改造を許可してくれたから付けられた、最後の手段……!」
そして、『ナイルⅤ改』は…………。
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