77-13 模擬戦開始
2月2日、午前9時、『オノゴロ島』。
昨日熱戦が繰り広げられた競技場に、仁の『ルフト1』とルビーナの『ナイルⅤ』が姿を見せていた。
観客も、昨日に劣らぬ入りである。
どこから聞きつけてきたのか、と思った仁であるが、考えてみると競技の初めに優勝者は仁の機体とバトルできる、と宣言していたことを思い出す。
「……みんな覚えていたんだな……」
仁の機体は礼子が操縦する『ルフト1』。ルビーナは『ナイルⅤ』。
仁は競技用の光線銃2基を機体に取り付け、またその光線が当たると赤く発色する透明塗料を機体に塗布済み。
ルビーナは酷いダメージを受けた『ナイルⅤ』を一晩で元どおりに修復し、改良までしていた。
『さあ、いよいよ始まります、世紀の一戦!』
アナウンスまで付いており、『オノゴロ島』住民たちも大盛りあがりのようだ。
「どんなバトルになるか、楽しみだな」
「そうですわね、あなた」
「ジン殿の機体対、競技優勝者か。興味深い」
「楽しみね」
「わくわくするわね」
ラインハルト、ベルチェ、『長老』ターレス、ネージュ、ルージュらは来賓席で観戦だ。
そしてエルザは仁のいる監督席に。
ダイキ・ココナ夫妻とゴウ・アガートは、ゴウたっての希望で仁の監督席に同席させてもらっていた。少々狭いが、長時間でもないので拡張工事はせず、そのままだ。
折りたたみ椅子を持ち込み、全員がなんとか着席できているのでよしということになっていた。
* * *
『それではエキシビジョンマッチ、『ジン様対ルビーナ戦』を開始致します!』
大歓声と拍手の渦の中、スタートへのカウントダウンが開始された。
『10……9……8……7……6……5……4……3……』
静まり返る会場。
『2……1……スタート!!』
『ルフト1』と『ナイルⅤ』がそれぞれ滑走路を反対方向へ向けて動き出した。
両機ともすぐに離陸速度に達した。
『両者、ほぼ同時に離陸! 上昇を開始します!!』
そして、急角度で上昇していく2機。
2機は垂直上昇に移り、仁の『ルフト1』をルビーナの『ナイルⅤ』が追う形になった。速度は時速400キロほどだ。
『ルフト1』は600メートルという、光線銃の射程プラスアルファの絶妙な距離を保ち、先行する。
ルビーナの『ナイルⅤ』が若干速度を変更してもその距離は変わらない。
「……レーコさん、凄い反応ね……それを実現させるジン様の機体も凄すぎるわ……」
感心した後、ルビーナは監督席で不敵に笑った。
「でも、あたしの『ナイルⅤ』だって、決勝戦のままじゃないのよ! ……リミッター解除!」
ルビーナの指示に、『ナイルⅤ』は弾かれたように飛び出した。
短時間で1.5倍の速度となる。
だが。
「う、うそ!?」
『ルフト1』もほぼ同時に速度を上げ、彼我の距離はほとんど変わらないのだった。
「さすがジン様ね……」
仁の『ルフト1』が、自分の『ナイルⅤ』を遥かに上回る性能を持っていることを改めて知ったルビーナだった。
「だけど、まだまだ! ……リミッター第2段階解除!」
さらに速度を増す『ナイルⅤ』。垂直上昇にも関わらず、時速700キロを超えた。
しかし、『ルフト1』はそれにも対応したため、彼我の距離600メートルはほとんど変わらなかったのである。
* * *
「よし、礼子。水平飛行に移れ。ドッグファイトだ」
高度4000メートルを超えた時点で、仁は次の指示を出した。
水平飛行に移行する『ルフト1』。一瞬遅れて『ナイルⅤ』もそれに続く。
『ルフト1』は、半径1キロほどの大きな旋回を行う。『ナイルⅤ』も同様。
その旋回半径を、『ルフト1』は次第に小さくしていく。
1キロメートルが800メートルに、800メートルが600メートルに。
最終的には200メートルほどの急旋回となる。
時速は800キロほど。機体と操縦者に掛かる加速圧はもの凄いはずだが、2機はそれに耐えた。
「礼子、今度は急降下だ」
仁の指示に従い、礼子は『ルフト1』を急降下させる。
『ナイルⅤ』もそれに続いた。
90度の垂直降下。
速度は亜音速である時速1000キロを超え、まだ上がっていく。
時速1100キロ、1200キロ……。
そしてドンという衝撃波と共に、2機は音速の壁を超えた。
ぐんぐん迫る海面。
礼子は海面の上500メートルで機首を引き起こした。
途轍もない風圧が主翼に掛かる……が、仁設計、製作の機体は見事にそれに耐えた。
なにしろ、『力場発生器』を使わずに直径100メートルの宙返りを行える機体である。見事に海面ぎりぎりで水平飛行に移行した。
続くルビーナの『ナイルⅤ』は、とてもそこまでの離れ業はできないと早々に判断、海面上1000メートルでの引き起こしを行い、やや余裕を持って水平飛行に移った。
* * *
「う、うわあ……。超音速からの引き起こし……。『ナイルⅤ』を改造しておいてよかったわ……」
そう、ルビーナは『ナイルⅤ』を修理した際に、ダメージの大きな箇所を中心に強化を施すという改造をしていたのである。
つまり現在の『ナイルⅤ』は、正確には『ナイルⅤ改』ということになる。
「ジン様の『ルフト』……スペックの概要は聞いたけど……確かに競技の規程内だったわ……あたしと何が違うのかしら」
唯一競技の規定を逸脱しているとすれば操縦者。礼子は自動人形であってゴーレムではない、ということくらいだ。
「でもそれは決め手じゃない……確かに操縦ゴーレムの性能は総合的に見て重要だけど、ここまでの性能差を作り出せるほどじゃない」
ルビーナは仁の機体の高性能さはどこから来るのか、必死に分析を続けた。
「機体の形状、工作精度、そして素材……かしらね……とにかく総合的に何一つ及ばないんだから、この差も当然よね」
プライドの高いルビーナではあるが、自己分析は正確にできており、その上で何が足りないのか、きっちりと見極めていた。
今のところ、光線銃の撃ち合いというより、機体性能の比較をしているようなものだ。
これを通じ、自分が何を得ることができるのか。
それはひとえに自分次第だと、ルビーナは自覚し、『ナイルⅤ改』を必死に仁の『ルフト1』に追従させるのであった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
本日3月21日(日)は14:00に
異世界でホムンクルスになっていたのでスローライフを目指す
https://ncode.syosetu.com/n8402fn/
を更新します。
こちらも応援のほどよろしくお願いいたします。
20210321 修正
(誤)またその光線が当たると赤く発色する透明塗料を基体に塗布済み。
(正)またその光線が当たると赤く発色する透明塗料を機体に塗布済み。
(誤)ルビーナは酷いダメージを受けた『ナイルⅤ』を一晩で元どおりに修復し。改良までしていた。
(正)ルビーナは酷いダメージを受けた『ナイルⅤ』を一晩で元どおりに修復し、改良までしていた。




