77-12 閑話128 ゴウのこれまで
3892年の4月、オノゴロ島から1組の親子が旅行にでかけた。
一般世界から隔離されているオノゴロ島であるが、届け出をして許可が下りさえすれば、住民は島の外に旅行に行けることになっているのだ。
一行の人数は4人。
父親ケン・アガート、母親オデット・アガート、そして一人息子のゴウ・アガート。
それに加え、そんな一家に仕える紫色の髪をした自動人形、『アミィ78』。
アガート家がこの旅行を企画したのは、一人息子のゴウが4歳になり、手が掛からなくなったこと、それにアガート家縁の地を訪れてみたかった、ということからである。
ケン・アガートはニドー家とランドル家を、またオデットはニドー家とクズマ家をそれぞれ遠い祖先に持つ家柄である。
そのため、かつて祖先のいた国を観光先に選んだのだ。
ケンとオデットの夫婦仲はよく、また一人息子のゴウは聞き分けがよく手のかからない子であった。
そして『アミィ』シリーズは『オノゴロ島』の最新型で、家事全般に加え、警備や緊急時の救護活動までできる優れものであった。
それゆえに旅行許可が下りたのである。
* * *
まずはショウロ皇国へ。
どうやって行くのかというと……。
『オノゴロ島』から外部へ旅行に出るために、『ルート』が用意されているので、それを使うのだ。
まずは『転移門』でショウロ皇国の国境外にある『駅』へ行く。
そこは地下基地で、一般人にはわからないような偽装が施してある。
まあそれ以前に、一般人は立ち寄らないような僻地……ハリハリ沙漠なのであるが。
その『駅』では3つの行き先を選ぶことができる。
ミツホ、ショウロ皇国、そして『ノルド連邦』だ。
この3つの国は、入国審査が簡単で、平時なら(指名手配犯でなければ)誰でも問題なく入国できる。ゆえに密入国にはならないわけだ。
ちなみにセルロア王国、フランツ王国、エゲレア王国、クライン王国、エリアス王国は、3892年当時は『魔法連盟』の影響が強く、入国審査がやや複雑であった。
* * *
初日はバルラクの町に泊まった。
ここはイスマルと同様、ハリハリ沙漠に面した辺境の町。
沙漠見物の観光客、沙漠の研究に来た学者、商人、また、ミツホの住人も出入りしており、雑多な感じがする町だ。
だがそれゆえ、アガート家の3人も、何の違和感もなく町の雰囲気に溶け込んでいた。
そしてそこから数日を掛け、3人は首都ロイザートを目指す。
途中、ランドル家のあった……いや、今も続いている……エキシに立ち寄り、1泊した後、トスモ湖対岸のロイザートへ。
伯爵となったニドー家の屋敷を遠くから眺め、2日掛けてロイザート観光を行った。
その次には『トロッケンバーン』を東へ向けて移動し、セルロア王国を経由してエゲレア王国へ。
首都アスントの観光もそこそこに、ブルーランドを目指した。
ブルーランドではクズマ侯爵家の噂を聞き、それが好意的なものばかりだったことにホッとし、また、『クラフトクイーン工房』が今も続いていることを喜んだ。
* * *
そこで帰ればよかったのだが、彼らはエリアス王国のポトロックを目指すことを思いついてしまった。
その町もまた、『魔法工学師』縁の土地だったからだ。
「有意義な旅行だなあ」
「ええ、あなた」
「我々のルーツを訪ねる旅、か。結構多くの家庭でやっているんだろう?」
「そう聞いていますわ」
「ゴウも楽しんでくれたようだな」
「ええ。わからないなりに楽しんでいたみたいですわ」
「うん。いずれまた、この子が大きくなったら旅行に行きたいものだな」
「そうですわね、あなた」
移動は主に乗合馬車を使った。
『オノゴロ島』の魔法技術はもっと進んでいるが、そこは『郷に入れば郷に従え』。
今の世界における交通手段を使うのが原則である。
「乗合馬車は混み合って居心地がよくないので貸し切りにしたが……乗り心地がよくないな」
「そうですわね。……『ばね上重量』が軽くなったこともあるんでしょうか」
「それはありそうだな。だが、根本的な構造がよくないんだろう」
夫妻もまた魔法技術とともに科学の基礎を修めており、折りに触れ『外界』の技術が停滞あるいは後退したことを嘆いていた。
そして一行は国境を抜け、エリアス王国に入った。
デルフト峠を越え、首都ボルジアへ。
1日を観光に費やした後、南下。
リナート町を経て、ハンバルフ峠を目指す。
悲劇はその時に起こった。
ハンバルフ峠手前、北側は急斜面になっている。
前日まで降っていた雨により、地盤が緩んでおり、一行を乗せた馬車が通りかかった時に土砂崩れが起きたのである。
ケンとオデットは、馬車の窓から襲いくる土砂を呆然と眺めることしかできなかった。
だが。
「アミィ、ゴウを守ってくれ!」
「アミィ、ゴウを頼むわね!」
それは親として、精一杯の言葉であった。
その直後、馬車は土砂崩れに巻き込まれたのである。
* * *
いくら『アミィ』シリーズが優秀でも、3人を救うことはできなかった。
だが、ケンとオデットの願いだけは遂行できたのである。
その身を以てゴウを守ったアミィ78は、泥の中から這い出すと、気を失ったゴウを気遣いつつ、ケンとオデットを捜索した。
だが、2人は助からなかったのだ。
* * *
それからのアミィ78は非常な苦労をしながらゴウを連れて『オノゴロ島』へと帰還した。
ゴウは両親の悲劇を目にして、一時的な『心因性失声症』を起こしており、また年齢的に幼かったこともあり、何があったか説明できなかった。
よってアミィ78の証言が頼りであったが、そのアミィ78もまた事故で深刻なダメージを受けており、ゴウを引き渡したあと、機能停止してしまったのである。
悲劇の全貌が解明されたのはゴウとアミィ78が帰還してから3日後であった。
不幸なことに、ゴウには2親等以内の親族、つまり祖父母や兄弟がいなかった。
だがちょうどその時『オノゴロ島』を訪れていたマリッカが聞きつけ、ゴウに面会をした。
その時、声が出なくなっていたゴウが、マリッカにだけは微かな声で『おとうさんとおかあさんが……』と伝えたことで、マリッカはゴウを引き取ることにしたのである。
* * *
いっそのこと生活環境を一変させた方がいいだろうと、『ノルド連邦』でゴウは育てられた。
子供のいないマリッカは、ゴウを孫のように可愛がった。
祖父母がいなかったゴウは、マリッカを実の祖母のように慕い、いつしか言葉も普通に発せられるようになったのである。
そしてマリッカはゴウに工学魔法と科学を教えた。
これはゴウの希望によるものである。
「マリッカおばあさま、僕に魔法技術を教えてください」
その言葉の裏には、自分を助けてくれた『アミィ』シリーズへの感謝の気持ちと、旅行先で見た先祖の偉業に対する敬意とがあった。
「ええ、いいですよ。……あなたのご両親も、魔法技術に興味を持っていたというわ。頑張るんですよ」
「はい!」
そしてマリッカは、おそらく最後になるであろう弟子の教育に全霊を注いだ。
ゴウもまた、いつの日にか、『アミィ78』を、元どおり、いやより優れた形で蘇らせようという想いを胸に秘め、真摯に学んだ。
* * *
老齢だったマリッカが若返って戻ってきた時には、死ぬほどびっくりしたゴウである。
だが、それが原理不明な偶然による複体化のおかげと知ると喜びに変わった。これで、これからもマリッカに師事できる……と。
そしてデビュー戦となる飛行機競技で初優勝を飾り、マリッカへのお礼にしようと密かに思っていたのだが……。
……奮闘虚しく準優勝に留まったのである。
工学魔法の深遠さと、己の未熟さを思い知ったゴウは、さらなる精進を誓ったのであった……。
いつもお読みいただきありがとうございます。
本日は 異世界シルクロード(Silk Lord) も更新しております。
https://ncode.syosetu.com/n5250en/
お楽しみいただけましたら幸いです。
20210320 修正
(誤)ケンとオデットは、馬車の窓から遅いくる土砂を呆然と眺めることしかできなかった。
(正)ケンとオデットは、馬車の窓から襲いくる土砂を呆然と眺めることしかできなかった。
(誤)また年齢的も幼かったこともあり、何があったか説明できなかった。
(正)また年齢的に幼かったこともあり、何があったか説明できなかった。
(旧)「アミィ、ゴウをよろしくね!」
(新)「アミィ、ゴウを頼むわね!」
(旧)不幸なことに、ゴウには2親等以上の親族、つまり祖父母や兄弟がいなかった。
(新)不幸なことに、ゴウには2親等以内の親族、つまり祖父母や兄弟がいなかった。
(旧)だが、それが魔法技術の粋によるものであることを知り、さらに学問への傾倒を深めた。
(新)だが、それが原理不明な偶然による複体化のおかげと知ると喜びに変わった。これで、これからもマリッカに師事できる……と。




