77-11 ご褒美
『今回もまた、いつにもまして素晴らしい競技会でした。皆さんの努力がうかがえ、非常に喜ばしく思います』
閉会式の挨拶を、マリッカが語っている。
やや上から目線の言い方に聞こえるが、競技委員会からの『お願い』によるものだという。
こういう時はあまりフレンドリー過ぎてもいけないということで、こうした口調になったのだそうだ。
『それでは次に、ジン様から総評をお願い致します』
そして仁もまた、『魔法工学師』として、演説を頼まれていたのである。
仁はゆっくりと演壇に上がり、集声の魔導具を手にし、口を開いた。
『ジン・ニドーです。今回、まず驚いたのは機体が洗練されていたことです。おそらくは風洞試験の賜物と推測致します。……』
仁の演説は技術的な内容に終止する。
『……いずれは、航空力学を始めとする分野で、世界的な権威が出ることを期待致します』
その演説を聞いた幾人かは、さらなるやる気を掻き立てられたことだろう。
また、来賓としてラインハルトも総評を述べることとなった。
『……皆さん工夫を凝らした飛行機とゴーレムを製作されていて驚きました。そして競技を見てさらに驚きました。ここではまさに世界の最先端を行く技術が育っています。そしてその技術を歪めることなく伸ばしていっていただけることを願っております。……』
そして表彰式となる。
これはマリッカの手づから記念盾が授与されるのだ。
『準優勝、ゴウ・アガート。……頑張りましたね。くじけずまた挑戦してください』
「……」
悔しそうに少し俯くゴウは、それでもマリッカから声を掛けられ、小さく頷き返しながら準優勝の盾を受け取ったのだった。
『優勝、ルビーナ・ギャレット。おめでとう。次もまた頑張ってください』
「ありがとうございます!」
ゴウとは対象的に、満面の笑みで優勝盾を受け取るルビーナだった。
そして壇上には、本戦に出場した8人が顔を揃える。
『最後に、熱い戦いを見せてくれた彼らに拍手を!』
というアナウンスに応え、万雷の拍手が贈られたのだった。
* * *
閉会式の後、仁たちは選手控室を訪ねた。
決勝戦時のものなので、選手はルビーナとゴウの2人がいるだけだ。
「ねえねえジン様、これであたしの『ナイルⅤ』とバトルしてもらえるのよね?」
仁の顔を見つけたルビーナは、早速約束の履行を迫ってきた。
「ああ、もちろんだ。だけど今日は無理だな。『ナイルⅤ』を直さないとな」
さすがにもう決勝戦は終わっているのだから『手を加えてはならない』ルールは無効だ、と仁は思っている。
さらに、
「もし、改造したいならそれも構わないぞ」
「え、ほんと? するする! 改造する!! 明日までに!」
「明日で大丈夫か? 明後日でなくていいのか?」
「大丈夫! だから明日!!」
「わかったわかった」
優勝そのものも嬉しいが、仁の機体と競えるという副賞もルビーナにとっては嬉しいらしい。
多少寝不足になったとしても、操縦はゴーレムであるから心配はいらないだろうと、仁はルビーナの申し出を受け入れたのだった。
「ルールはどうするんだ? 今回の競技と同じにするか?」
「うん、それでいいわ」
「わかった。それじゃあ、俺の方も光線銃を取り付けないとな」
「あ、そうね。競技委員会の方で支給してくれるはずよ」
「よし」
「ジン兄、私がもらってくる」
「あ、そうしてくれるか?」
「ん」
というわけで光線銃の方はエルザに任せ、仁はゴウの方を窺った。
ゴウは控室の隅で、ダイキ・ココナ夫妻と話をしていた。
「……悔しいです」
「うん、わかる。だがな、君はこれからだ。……負けを知らない人間は大成できないぞ」
「そうね。ゴウ君、その悔しさをバネに、また頑張るのよ」
「……ありがとうございます」
そこへマリッカが加わる。
「ゴウ、見事だったわ。お疲れ様」
「マリッカ様……ごめんなさい」
「何を謝るの?」
「マリッカ様の弟子にしていただいて……優勝して見せたかったのに」
目を潤ませるゴウの頭を、マリッカは優しく撫でた。
「いいんですよ。あなたはよくやったわ」
「マリッカ様……」
その様子は、師弟というより仲のいい姉弟のようであった。
仁もゴウのところへとやって来る。
「ゴウ、準優勝おめでとう。惜しかったな」
「……ジン様」
「あまり気を落とすな。失敗は成功のもと、とも言うぞ」
「……」
それでもゴウが俯いているので、仁は誰に言うともなく、独り言のように語り始めた。
「……俺も、最初の試作飛行機を、最後の最後で墜落させてしまったからなあ。なあ、礼子」
「……はい」
「え?」
「ジン様が?」
「あの時は『バードストライク』って言って、ジェットの吸込口に鳥が吸い込まれてしまってエンジンが停止したんだよなあ」
「そうでした。あの時は申し訳ないことをいたしました」
「いや、礼子のせいじゃないってあの時も言っただろう」
そのやり取りを聞いて、ルビーナとゴウは、仁でもそういう失敗があることを知り、親近感を覚えたようだ。特にゴウが。
「あ、あの、ジン様も、失敗を、するんですか……?」
「ん? そりゃあ、俺だって人間だからな。失敗もするし、挫折もするよ」
人工衛星を打ち上げようとして失敗したこともあったなあ、と仁は思い出した。
「だけど、作りたいという思いでいつもなんとかしてきた気がするよ。……1つの方法が駄目なら、別の方法を試したりしてな」
そして仁は礼子の頭を撫でながら、
「それにいつも、この礼子が助けてくれたなあ」
と言う。それを聞いた礼子は嬉しそうに目を細めた。
「ジン様のそばには、いつもレーコさんがいるんですよね」
「そうだよ」
そこにエルザもやって来る。
「この人とレーコちゃんの絆は、とっても強い、から。時々妬けちゃうほどに」
「おい」
「ほんとのこと」
そう言ってエルザは笑った。
つられてルビーナとゴウも笑った。
「ルビーナとの約束は約束として、見事な決勝戦を見せてくれた2人に、ご褒美としてショウロ皇国へ連れて行ってあげようと思うんだが、どうだろう?」
この提案に真っ先に答えたのはルビーナだった。
「はい! 行きたいです!」
そしてゴウもまた、小さな声で、
「僕も、行ってみたい、です……」
と答えたのである。
「マリッカ、いいよな?」
「はい、もちろんです」
「よし。……ダイキ、ココナ、その際の拠点として、ロイザートの屋敷を使いたいんだが」
「はい、もちろん、ご自由にお使いください」
「ありがとう」
こういうわけで、仁はこの後、ルビーナとゴウをロイザートの屋敷に招待することになったのである。
このことに、ダイキとココナが喜んだのは言うまでもない。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20210319 修正
(誤)その演説を聞いた幾人かは、さらなるやる気を掻き立てらてたことだろう。
(正)その演説を聞いた幾人かは、さらなるやる気を掻き立てられたことだろう。
(誤)というわけで光線銃の方はエルザに任せ、仁はゴウの方を伺った。
(正)というわけで光線銃の方はエルザに任せ、仁はゴウの方を窺った。
(旧)これはマリッカ手づから記念盾が授与されるのだ。
(新)これはマリッカの手づから記念盾が授与されるのだ。




