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マギクラフト・マイスター  作者: 秋ぎつね
77 仁とショウロ皇国篇
2893/4357

77-08 互角の戦い

 ルビーナの『ナイルⅤ』とゴウの『メイストーム』の対戦は、決勝戦に相応ふさわしい、白熱したバトルとなった。


『お互い一歩も譲らず! 特に驚くのは新人ゴウ選手です! マリッカ様の秘蔵っ子ということでしたが、いつの間にこんな技術者が育っていたのか! 将来が楽しみであります!』


 そのアナウンスを聞き、司会兼解説者も知らなかったようだ、と仁は察した。


(オノゴロ島の住民も知らないとしたらどこで……ああ、『ノルド連邦』で教育していたのかな?)


 そんなゴウの出自に関しての推測はやめ、仁は目の前で展開する決勝戦に注目することにした。


*   *   *


 速度と機動性で『ナイルⅤ』に勝る『メイストーム』であったが、欠点もある。

 それは軽いために『機体の安定性が悪い』ということである。

 特に上空は風が強いため、照準合わせに1割ほど余計な時間を取られていた。

 極限のバトルでこの1割というロスは大きい。

 結果、『ナイルⅤ』と『メイストーム』はほぼ互角のバトルを繰り広げることになったのである。


 直線飛行では、速度に勝る『メイストーム』に分があるので、『ナイルⅤ』は蛇行を織り交ぜながら飛んでいる。

 『メイストーム』はその速度を生かし肉薄したいのだが、『ナイルⅤ』も小刻みな機動を繰り返し、照準を付けさせない。

 『メイストーム』も、速度を出しすぎて『ナイルⅤ』の前に出てしまっては撃たれてしまうため、その速度を生かせないでいた。

 結果、互角の絡み合いとなる。


 だが、ルビーナもゴウも、このままではらちが明かないと思っており、この膠着こうちゃく状態をなんとか変えたいと考えていた。

 しかし奥の手はお互いに出し尽くしており、決定打に欠ける。


 こんな時は、れたほうが負けだとわかってはいても、何かプラスアルファの手を打ちたくなるのが人情。


「ジン兄なら、こういう時、どうする?」

「そうだなあ……不意を突く……言うのは簡単だが、実行は難しいな」

「例えば?」

「フェイントを掛けてからやることだろうな……だけど、相手はゴーレムだし」


 人間相手なら有効でも、ゴーレムに対してはおそらく意味がないだろうなと仁は言った。


技術テクニックには技術テクノロジー。昔読んだ本に載っていた言葉だ。……あれ? 技術テクノロジーには技術テクニックだったかな?」

「ジン兄の場合は間違いなく『技術テクニックには技術テクノロジー』だと、思う」

「まあ、なあ……」


 圧倒的なハードウェアで相手を蹂躙するイメージしかない、とエルザに言われ、苦笑した仁である。


「バトルって本来、『勝つ』ことが目的だからな。『統一党(ユニファイラー)』相手のときも、『魔法連盟』相手のときも」

「……ん、わかる」

「でもこれは『試合』だから。互いに切磋琢磨して、より高い境地を目指す、そんな場だからさ」


 そんな彼らがちょっと眩しい、と笑った仁であった。

 その笑みが少しだけ寂しそうに見え、エルザは仁の手をそっと握った。


*   *   *


「こうなったら、意地でも勝たないとね!」


 ルビーナは冷静に状況を分析している。

 今、2機は『ローリング・シザーズ』に近い、交錯した軌道をとっている。

 パイロットの技能と機体の特性理解が最も必要とされる機動と言われており、腕の差がはっきり現れる……のだが、2機は互角であった。


「……僅かだけど、やっぱり向こうの方が反応がいいわね……」


 機体が軽い分、『メイストーム』の方が余裕があるように見える、とルビーナは判断した。


「だけど、こっちにも考えがあるわ」


 互いに牽制し合いながら上昇していく2機。

 その高度は4000メートルを超えた。


「前回は高度を取りすぎて失敗したけど、今度は違うわ」


 そのまま雲の中に突っ込む2機。

 その雲は水の粒でできていたので、突き抜けた2機はびっしょりと濡れていた。

 が、時速700キロを超える速度で飛べば、すぐに乾いてしまう。


 さらに高度を上げる2機。

 正確に言えば、『ナイルⅤ』が『メイストーム』を上空へ誘い出しているのだ。

 高度は5000メートルを超え、6000メートルに迫る。


「風防にヒーター機能を持たせてあるしね!」


 ゴーレムの視覚センサーも高性能にしてあるのだ。仮に風防に霜が付着しても対処できるはずだった。

 だが、それは『メイストーム』も同じ。

 前回行われた競技の決勝戦を知っている者なら皆、高高度における注意事項は知っている。

 それはゴウも例外ではなかった。


 高度7000メートルを超え、8000メートル。

 登山であれば『デスゾーン』と呼ばれる領域。

 気圧は(ここアルスでも)地上の3分の1。酸素濃度も3分の1。生身の人間が生きていける環境ではない。


 そして、気圧の低下ともう1つ。

 強風である。

 大気の大循環、ジェット気流の影響を受けることになる。


 そしてそれこそがルビーナの狙いであった。


 機体の軽さ。

 それが最大の欠点となって『メイストーム』に襲いかかる。

 機体重量を翼面積で割った値を翼面荷重というが、これが小さいと浮きやすい反面、風にあおられやすくなるのだ。

 事実、『メイストーム』は強風への対処のためにそのポテンシャルの何割かを使わざるを得ない状況に陥っていた。


「今よ! 反撃開始しなさい!」


 ルビーナからの指示に、操縦ゴーレムは従った。

 明らかに動きの鈍った『メイストーム』目掛け、『ナイルⅤ』が襲いかかる……が、一筋縄では行かない。

 『メイストーム』はくるりと反転し、下降に移ったのである。

 背後についた『ナイルⅤ』も続いて下降に移る。

 垂直降下だ。


 重力に引かれながらの降下であるから、その速度はいや増すばかり。


「軽いってことは弱い、ってことよね。……どっちの機体が先に音を上げるか、勝負よ!」


 軽く作ってあるため、『メイストーム』は強度は低めだろうと推測したのである。

 そしてそれは正しい。

 が、2度も『リミッター』を解除した『ナイルⅤ』にも、相応のダメージが蓄積していた。


 速度は時速1000キロを超えた。亜音速である。

 設計時に想定した値を超える速度に、両機、機体がきしみを上げている。

 この状態で急激な操縦を行ったら、おそらく空中分解を起こすであろうと思われた。

 そのため、2機とも迂闊うかつなアクションを起こせなくなってしまっていた。


 勝負の行方はまだまだわからない……。

 いつもお読みいただきありがとうございます。


 20210316 修正

(誤)翼面積を機体重量で割った値を翼面荷重というが

(正)機体重量を翼面積で割った値を翼面荷重というが

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― 新着の感想 ―
[一言] > 『メイストーム』も、速度を出しすぎて『ナイルⅤ』の前に出てしまっては撃たれてしまうため、その速度を生かせないでいた。 夜遅くですが、珍しく誤字が残ってましたね。 →活かせない
[一言] そう言えばWoTでも、降下速度オーバーでダメージ食らうんでしたっけ? 高高度で大丈夫な場合でも、低高度だと空中分解したりも ジ「あと、高高度で強い機体が低高度でも強いとは限らなかったりもす…
[一言] >ああ、『ノルド連邦』で教育していたのかな? そりゃあマリッカの秘蔵っ子だし。 いっぱいいる姉弟子たちから可愛がられてたりw なお、43-05でのマリッカ工房には居なかった模様w >酸素…
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