77-07 決勝戦
30分の休憩時間が終わった、午後3時。
『さあ皆さんお待ちかね、決勝戦です!』
アナウンスが流れ、ついに決勝戦が開始された。
『決勝に進んだのはやはりこの人、前回の準優勝者、ゼッケン2、ルビーナ・ギャレット! 初代『マギクラフトクイーン』でもあります! 機体はデルタ翼機『ナイルⅤ』!』
ルビーナに対し、観客から大きな拍手が贈られた。
『対するは驚異の新人、ゼッケン3、ゴウ・アガート! 機体はデルタ翼機『メイストーム』!』
これまた大きな拍手。
決勝戦に相応しい高度なバトルが予想された。
『それでは、決勝戦を開始します! カウントダウン開始……10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、スタート!』
2機のエンジンが始動し、滑走が始まった。
「ジン兄、光線銃を後ろ向きに付けて、今発射したら勝てるんじゃ?」
エルザがアイデアを披露してくるが、仁は首を横に振った。
「確かに勝てるだろうが……そうやって勝っても嬉しくないだろうな」
「……確かに」
「勝つことも目的だが、どうやって勝つか、も重要だと思う」
「ん、わかる。……技術を尽くして勝ちたいのであって、単なるアイデアで勝っても嬉しくないということ?」
「そういうことだな。その辺の線引きは、多少個人差があるんだろうけど」
「じゃあ、後ろ向きに銃を付けて、空中戦で背後を取られた時に撃つ、というのは?」
「それこそ難しいところだな」
「ジン兄なら?」
「俺か? 俺なら……そうだな、『脅し』に使うかな」
「脅し?」
「うん。後方にも銃があると知れば、背後を取ることをためらうだろうから、戦術的に有利になる」
「ああ、そういうこと」
「まあ、同一条件内で技術を競うというならなし、だな」
「ん、わかった」
仁とエルザの会話でもわかるように、ルールの穴を突いての勝利は、どこまで認められるか、線引きが非常に難しいということである。
これはやるかやられるか、の壊し合いではない。技術の競い合いなのだから……。
* * *
『ナイルⅤ』と『メイストーム』の2機は空中にあって、並走ならぬ並飛行を続けていた。
速度を合わせ、飛行方向を合わせる。
これは並々ならぬ技術と技能が必要なことである。
そして、それを行っているのはゴウの『メイストーム』であった。
「ジン兄、これって、どういうこと?」
「うーん、俺にもよくわからないが、狙ってやっているわけだから……ルビーナを焦らしているのかもしれないな」
「……あ、この状況に我慢できなくなったルビーナが、何かやるのを待っている、と?」
「そうじゃないかと思う」
この場合、先に離脱したほうが背後を取られやすい。
『巴戦』と似たような状況なのである。
「でも、操縦しているのはゴーレムであってルビーナじゃ、ない」
ゴーレムが焦りを覚えるということはないのでは、とエルザは言った。
「それはそうだが、監督席から指示を出すことができるんだからな」
「確かに、そうかも」
もしもゴウがルビーナの性格を見抜いていてそんな作戦を立てたのだとしたら、おそるべき洞察力だ、と仁は感じていた。
* * *
だがルビーナも、伊達に『マギクラフトクイーン』の称号を持っているわけではない。
「うー……ここでこっちから離れたら、向こうの思うつぼよね……」
と、客観的に状況を見極めることができていた。これは大きな成長である。
そして、彼女の機体とゴーレムもまた、並々ならぬ機能を秘めている。
「5秒間だけリミッター解除! フルパワーで今の状況から脱却しなさい!」
とっておきの『切り札』をここで出すことにしたのである。
機体強度、エンジン強度ギリギリの出力を発揮させる指示。
それを受け、操縦ゴーレムは斜め上昇中に弾かれたようにスピードアップした。
その速度はそれまでの1.4倍。
さすがの『メイストーム』も、追従しきれない速度だった。
だがあくまでも5秒間だけ。
それ以上は機体強度がもたないのだ。
音の壁を超えられるような機体構造にはなっていなかった。無理をすれば空中分解である。
もちろん、もっと機体強度を上げれば音速も夢ではないだろうが、その場合は機体の重量がかさみ、加速や機動性が犠牲になると思われた。
しかし、その5秒間で『ナイルⅤ』は『メイストーム』と700メートルほどの距離を空けることに成功していた。
光線銃の射程は500メートルなので、十分な距離である。
「おお、さすがルビーナ。まだ隠している手があったのか」
仁も感心する一手であった。
観客もまた拍手を贈っている。
「だけどジン兄、今のは最後の手段だったわけで、それを使わざるを得なかったということは……」
「ああ、ルビーナ、苦しくなったな」
仁とエルザは画面に見入った。
* * *
『一旦距離をとった2機! 今度は大きな水平ループを描き、相手の隙を狙っているようです!』
アナウンスが競技場に響く。
およそ上空1000メートルでの対峙だ。
今度はどちらがより有利なポジションを取れるかの競い合いである。
半径300メートルほどの円を描いて相手の背後を取ろうとする2機。
『どちらも譲らず! 白熱した戦いになりました!!』
このまま再び膠着状態が続くかと思われた、その時。
『ああっ、ゼッケン3、急激な小回り! ゼッケン2の背後に付けるのか!!』
ゼッケン3『メイストーム』が、これまでの3分の2ほどの半径の水平ループを行ったのである。
* * *
「あれは……水平に宙返りしている状態に近いな。軽い機体だからこそできるわけだな」
70度程もバンクしての急旋回である。失速寸前の大技といえた。
『メイストーム』にしても、1つの賭けであったろう。
これで『メイストーム』が『ナイルⅤ』の背後を取って決着か、と思われたのだが、ルビーナはもう1つ、『奥の手』を隠していた。
「お、まだ加速できるのか!?」
並行飛行から離脱する時に使った『リミッター解除』である。
2秒だけ、1.3倍の速度に加速する『ナイルⅤ』。
3分の2のショートカットと1.3倍の速度。
結果は……互角だった。
ゼッケン2『ナイルⅤ』とゼッケン3『メイストーム』は光線銃の射程ギリギリである500メートルの距離をおいてのドッグファイトを続けたのである。
いつもお読みいただきありがとうございます。




