77-05 準決勝第1戦
そろそろ休憩時間が終わりに近づいてきたので、仁たちは格納庫を辞することにした。
「そういえばマリッカ、彼らの整備時間を邪魔したみたいなんだが……よかったんだろうか?」
「大丈夫です。正確には『整備』ではなく『点検』のみが許可されているだけでしゅので、時間は十分あったはずです」
「ああ、そう言っていたな」
「はい。競技期間中は決勝戦が終わるまで、手を加えてはいけないことになっています」
「厳しいんだな」
つまり、1回戦、準決勝、決勝と、3連戦しなければならないわけで、その過程でダメージを受けないことも戦略的に重要になってくる、というわけである。
「……あれ? おーい、ダイキ、ココナ、行くぞー」
格納庫を出た仁は、2人が付いてきていないことに気がつき、振り返って声を張り上げた。
「……あ、はい。……ゴウ君、またな」
「またね、ゴウ君」
「はい」
そしてダイキとココナ夫妻は早足で格納庫を出てきたのである。
「なんだか、随分と仲よくなったんだな」
と仁が言うと、ダイキとココナは頷いた。
「ええ。人見知りをしているだけで、話してみると素直な子でしたよ」
「ただ、大人に対して一歩引いているというか……やっぱり事故がトラウマになっているんでしょうかね」
あの短時間でよくもそこまで見抜いたな、と、ダイキとココナの洞察に仁は感心したのであった。
* * *
『さて、午後の部、準決勝です!』
午後1時、競技が再開された。
『今回のトーナメントは、1回戦を勝ち抜いた参加者がもう一度くじを引きまして対戦者を決定する方式です!』
なるほど、夏の甲子園でもそんなことをやっていた時があったな、と仁は思い出した。
再抽選の結果はというと、
ゼッケン2 ルビーナ・ギャレット デルタ翼機『ナイルⅤ』対 ゼッケン8 フローレンス・ファールハイト 後退翼機『フォーゲル』
ゼッケン3 ゴウ・アガート デルタ翼機『メイストーム』対 ゼッケン6 ヴェルナー・ランドル デルタ翼機『マーキュリー』
となった。
期せずして、女性同士、男性同士の対戦となったようだ。
「まずはルビーナとフローレンスか」
『さあ、準決勝第1戦はゼッケン2、ルビーナ・ギャレットのデルタ翼機『ナイルⅤ』対、ゼッケン8、フローレンス・ファールハイトの後退翼機『フォーゲル』です!』
歓声と拍手が起きた。
スタートの合図と共に2機は滑走を開始。
ほぼ同時に離陸し、急上昇に入った。
……と思いきや、ルビーナの『ナイルⅤ』は急上昇を一旦打ち切り、下から『フォーゲル』を狙い撃ったのだ。
いち早くそれを察したフローレンスが操縦ゴーレムに連絡したため、かわされはしたものの、なかなか斬新な戦法だった。
「なるほどな……」
こういった型の飛行機には、それなりに適した戦法があるということか、と仁は納得した。
既存の戦術、機動もいいが、新たな戦法を考えつける頭の柔軟さも必要だな、と。
「ジン兄、これって、弾数と弾速を制限したら、もっと面白くなると、思う」
黙って対戦を見ていたエルザが唐突にそんなことを口にした。
「ああ、確かにな。弾数無制限とか、照準と着弾がほぼ同時とか、反則っぽいものな。戦闘も変わってくるだろうな」
ただ、面白くなるかどうかは未知数だ、と付け加える仁であった。
また、あまりリアルな戦闘に近づけるのもどうなのか、という気もしている。
「それもそう、かも」
「判断は、競技をする者・見る者がしたほうがいいだろうな」
「ん」
そんな話をしているうちに、2機は上空へと上ってバトルを繰り広げている。
「様子がよく、分かる」
「だな」
仁が技術提供した撮影方法により、遥かな高空で行われるバトルも魔導投影窓上でつぶさに見ることができる。
「2機ともやるなあ」
機動力を目一杯生かし、被弾しないよう動き回っている。
こうなると決着はなかなかつかない。
その時、礼子が面白いことに気が付いた。
「お父さま、エルザさん、あの光線銃ですが、どうやらトリガーボタンを押してから光線が発射されるまでにタイムラグがあります」
「え?」
「わたくしの見立てでは、およそ1秒」
「へえ……」
誰のアイデアかはわからないが、ちょっと面白い試みだなと仁は思った。
「それなら結構面白いな……あとは、照射時間が一定時間以上じゃないと色が変わらないとかか?」
「それは難しいかも。少しずれたら無効になるし」
「それもそうか……」
そんな会話をしている間にも、2機は背後を取ろうと躍起になっており、危うく主翼同士が衝突しそうになる。
すわ、前回の決勝戦の悪夢再びか、と思われたが、操縦ゴーレムは俊敏な操縦で一気に距離を取り、衝突は回避された。
が、一旦距離を取った後、再びドッグファイトが始まった。
「見応えがあるなあ」
「そうですわね、あなた」
ラインハルトとベルチェも、この勝負に見入っている。
上空2000メートルで繰り広げられる白熱した戦いを、観客は皆、固唾を飲んで見守った。
そしてついに決着の時が訪れる。
青空を流れる白い雲、その1つが偶然にも2機の間に漂ってきたのだ。
雲に突っ込む2機。
2秒後、そこから2機が出てきた時、勝敗は決していた。
「あ……」
フローレンスの『フォーゲル』のエンジン周りの塗装が真っ赤になっていたのだ。
『ついに勝負が決しました! ドッグファイトの末、勝利したのはゼッケン2、ルビーナ・ギャレットの『ナイルⅤ』!!』
大歓声が沸いた。
「……機体の性能差はほとんどないようだったから、多分、ゴーレムの性能差だな」
「ジン兄、どういうこと? さっき見た限りでは、ゴーレムの差もほとんどなかったみたいだけど」
仁の言葉にエルザが質問してきた。
「俺が見たところでは、ルビーナのゴーレムの『視覚センサー』はかなり性能が良かったんだ。赤外線に対する感度が特に」
「ああ、だから雲の中でも相手の機体の位置がわかった、と?」
「そういうことだな。おそらく、前回風防に霜が付着して視界が遮られてしまい、衝突事故を起こしたことの反省からだろう」
「フローレンスは当事者じゃなかったから、そこまで切実に感じていなかった、ってこと?」
「それは本人に聞いてみないとわからないけどな」
ルビーナの操縦ゴーレムは、反応速度や動作速度は他の参加者たちと大差なかったが、視覚センサーつまり『目』はよかったのである。
それが明暗を分けた、ということであった。
次はゼッケン3、ゴウ・アガート対ゼッケン6、ヴェルナー・ランドルである。
いつもお読みいただきありがとうございます。
本日は 異世界シルクロード(Silk Lord) も更新しております。
https://ncode.syosetu.com/n5250en/
お楽しみいただけましたら幸いです。
20210313 修正
(誤)『さて、午後の分、準決勝です!』
(正)『さて、午後の部、準決勝です!』




