77-04 初顔合わせ
マリッカはゴウ・アガートについて、仁たちに説明をした。
「実はあの子、孤児なんです」
「え?」
マリッカがいきなり驚きの事実を口にした。
「この島の住民は、許可をもらって外界に出ることがあります」
「ああ、それは前に聞いたな」
そうした点ではある程度の自由があるわけだ。
「10年前、4歳だったあの子を連れてショウロ皇国経由でエゲレア王国、エリアス王国と回ったアガート一家は、そのエリアス王国で事故に遭ったんです」
「何だって……」
「乗っていた馬車が落石に遭って、馬や御者も一緒に谷底へ……」
「結界とか、守護者は?」
「両親が作った自動人形が1体付いていました。ですが3人を守りきれず、結果、あの子だけが生き残ったのです」
「なんてことだ……」
重い話であった。
「もう父方にも母方にも祖父母はおらず、親戚もいなくて……」
「そうだったのか」
「はい。それで私も気に掛けていたんですが、工学魔法の才能があることを知って、『ノルド連邦』で教えることに」
「なるほどなあ」
『オノゴロ島』の面々もあまり知らない様子だったのには、そういうわけがあったのか、と仁も納得した。
「で、もう5年目になるんですけど、才能のある子だと思いますよ」
「今年何歳だって?」
「まだ誕生日は来ていませんが、3月8日で14歳です」
「ルビーナより1つ上か」
「そうでしゅ」
とりあえず、聞きたいことは聞けたので、性格や人柄などは自分の目で確かめるべく、仁たちは出場者用の区画へと向かうことにした。
「あ、ジン様」
「やあ」
途中でダイキ・ココナ夫妻に会ったので、一緒に行くことにする仁であった。
* * *
「あ、ジン様! マリッカ様も! それに、お客様たち!!」
出場者用のエリアに入ると、ルビーナが真っ先に仁たちに気が付いて駆け寄ってきた。
「ねえねえ、見てくれた?」
「ああ、見たよ。随分進歩したな」
「えへへー、褒められちゃった」
その向こうにはシュウもいたので、
「シュウ、惜しかったな。本当に紙一重だったと思うぞ。……あとは戦術の研究もいいかもな」
と声を掛けておく。
「ありがとうございます!」
そして、初戦敗退したシーリーンとエルヴィスにもアドバイスをしておく仁である。
が、もう1人、グリーナがいない。
「グリーナは?」
「ああ、グリーナは、フレディさんとエリスさんとお昼食べてるはずよ」
「そっか」
それならそれでよし、と思う仁であった。
「で、勝った3人は?」
ルビーナはいたものの、ゴウ、ヴェルナー、フローレンスの姿が見えなかった。
「食事を終えてすぐ、格納庫へ行ったわ。機体の確認をするんだって」
「……ルビーナはいいのか?」
「まだ40分くらいあるし、手を加えることはできないのよ」
機体の状態を確認することは許可されてはいるが、修理や整備は駄目なのだという。なかなか厳しい規定である。
「で、これから行くつもりだったのよ」
それよりも、ジンたちが来てくれるんじゃないかと思って待っていた、と言う。そしてそれは当たったわけだ。
「それじゃあ、急いで格納庫へ行ったほうがいいな」
「うん!」
駆け出すルビーナ。
仁もその後に続いた。礼子とエルザはもちろん、マリッカも、ラインハルトもベルチェも、ダイキもココナも付いていく。
格納庫は競技場の端、滑走路の脇にある。
駆け込んだルビーナに続いて仁たちも格納庫へ。
「ジ、ジン様!? マリッカ様も! それに……!」
仁たちに気が付いたのは一番入り口に近いところにいたフローレンスであった。
「え? ジン様?」
「マリッカ様?」
フローレンスの声にゴウとヴェルナーも仁たちの方を見た。
「やあ。勝ち抜き、おめでとう」
「ありがとうございます」
「あ、ありがとうございます……」
ヴェルナーはいつもどおり、だがゴウは機体の陰に半分隠れながらの挨拶だった。
それを見て、ゴウは人見知りなのか、と仁は感じた。
そこでまずはゴウ以外の3人に話し掛ける……と見せかけ、全員に向けて言葉を贈る。
「風洞実験を繰り返したと見えて、どの機体も空力的に洗練されているなあ。この調子で精進してくれよ」
「ありがとうございます」
「頑張ります!」
「……」
ゴウはやはり無言だ。
そこで仁は、格納庫内を見て回るフリをして参加者たちから少し距離を取りつつ、小声でマリッカに質問する。
(……ゴウって人見知りなのか?)
(……はい。幼児の時に両親をなくしたことや親戚に預けられたことが影響しているのかもと思ってましゅ)
(それはあるかもな……でも、マリッカには?)
(最初は人見知りしていましたが、今は、1対1なら普通の子と同じように話してくれます)
(そうか)
トラウマを抱えているかもしれない、と仁は思ったが、今すぐにどうこうできるものでもない。
仁とマリッカがそんな話をしているとき、他のメンバーはそれぞれ機体やゴーレムを見て回っている。
「ルビーナのゴーレムだけど、反応速度を重視したのかい?」
「うん、ラインハルトさんの言うとおり。やっぱり操縦するには重要だものね」
「そうだよなあ。動作の精密性はどうやっている?」
「ええと……」
ラインハルトはルビーナと話し込んでいる。
そしてベルチェはフローレンスに話し掛けていた。
「フローレンスさん、ここまで完成度を上げるには苦労なさったでしょう?」
「ええと、ベルチェ様、でしたね。はい、風洞試験を繰り返しました」
「ああ、やっぱりね。皆さん、開発で苦労しているのですわね」
ベルチェ自身は製作はしないが、ラインハルトのそばで長いこと見てきたので、こうした理解は一般人よりも遥かに深い。
なんといっても『仁ファミリー』であるし。
最後に、ダイキとココナ。
本戦1回戦勝者4人の作品である飛行機とゴーレムを順番に見て回っている。
ルビーナの『ナイルⅤ』、ヴェルナーの『マーキュリー』、フローレンスの『フォーゲル』と見て、最後にゴウの『メイストーム』の番となった。
「この機体のデザインが、私は一番好きだわ」
ココナが言う。
「うむ、こういうデザインは、理論と、感性によるものらしいからな」
ダイキが答えた。
理論を踏まえ、それぞれの感性でデザインしたもの。それは機能美、と呼ばれるものなのかもしれない。
「この機体の製作者は君だね?」
操縦ゴーレムの陰に隠れるようにしてチェックを続けていたゴウに、ダイキが尋ねた。
「……はい」
ダイキとゴウが初めて交わした言葉がそれであった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20210312 修正
(誤)「そうだよなあ。動作の精密姓はどうやっている?」
(正)「そうだよなあ。動作の精密性はどうやっている?」
(誤)操縦ゴーレムの陰に隠れるようにして整備を続けていたゴウに、ダイキが尋ねた。
(正)操縦ゴーレムの陰に隠れるようにしてチェックを続けていたゴウに、ダイキが尋ねた。
20210314 修正
(誤)そして、初戦敗退したシーリーンとフローレンスにもアドバイスをしておく仁である。
(正)そして、初戦敗退したシーリーンとエルヴィスにもアドバイスをしておく仁である。




