77-02 8人の選手たち
仁の『ルフト』1、2、3からなる『ホワイト・コントレイル』のデモンストレーションは大好評のうちに終了した。
割れんばかりの拍手と大歓声が競技場に満ちる。
『ジン様、ありがとうございました! さあ皆さん、それではいよいよ本戦を開始します!』
再び拍手と歓声が生じる。
『では、まず出場者の紹介を! ゼッケン1、シュウ・ニドー! 機体は後退翼機『紫電』!』
「電光や雷光、それに紫電か。雷系が好きなのかな」
太平洋戦争時の日本海軍機にも同名の局地戦闘機があったが、これはそれとは似ても似つかない後退翼機である。
『ゼッケン2、ルビーナ・ギャレット! 機体はデルタ翼機『ナイルⅤ』!』
「おお、新型か」
『ゼッケン3、ゴウ・アガート! 機体はデルタ翼機『メイストーム』! 初出場です!』
「ゴウ・アガート……新人か」
これまで聞いたことのない名前だったが、その機体は仁の目から見てもなかなか洗練されていた。
『ゼッケン4、グリーナ・クズマ! 機体は後退翼機『ゼフィルス』!』
「前回はエディスが出ていたんだよな。二人は従姉妹だっけか」
『ゼッケン5、シーリーン・エッシェンバッハ! 機体は後退翼機『ガーベラ』!』
「花の名前か。なかなか速そうだ」
『ゼッケン6、ヴェルナー・ランドル! 機体はデルタ翼機『マーキュリー』!』
「マーキュリーって水星……だよな。よく知っていたな」
『ゼッケン7、エルヴィス・アルコット! 機体はデルタ翼機『パンサー』!』
「ほう、前回よりずっと洗練されているな」
『ゼッケン8、フローレンス・ファールハイト! 機体は後退翼機『フォーゲル』!』
「フローレンスの機体も洗練されたなあ」
皆、機体のデザインが洗練されており、風洞試験によるフィードバックがなされていることが見て取れた。
(このまま行くと、あと数回で抜かれるな……航空力学的な機体では)
仁の真骨頂は『魔法工学』と『科学』の融合による作品作りである。
だが『オノゴロ島』では、『科学』を追究し、己以上に昇華してくれるに違いないと仁は期待を抱いた。
(純粋な科学を追究する一派も絶対に必要だからな)
オノゴロ島の子孫たちがそれを担ってくれたらいいな、と思う仁である。ただし、それを義務とはしたくない、とも思っている。
なんとなれば、自由な精神で追究しなければ、学問とその成果は歪んだものになると思っているからである。
(戦争なんかじゃなく、純粋な競い合い。それができるのは、今の世界では『オノゴロ島』だけかもしれないもんな)
外の世界では、どうしても『国』という単位が足枷になっており、その枠組みから完全に自由になることはできていない。『アヴァロン』でさえも、だ。
(そして俺は俺で、『魔法工学』の道を究めるさ)
それが『魔法工学師』たる自分の役割だ、と仁は改めて認識したのであった。
* * *
競技場では、8人の8機が紹介され終わったところである。
「そういえば、何度も競技会に名を連ねているシドニー・マレク、ナタリア、ユージン・フォウルらは、今回は残念ながら予選落ちか……」
その一方で、ゴウ・アガートという新人も現れている。
アナウンスでゴウ・アガートの紹介を聞くと、年齢は今年14歳。黒い髪に茶色の目をしている。
礼子がこっそり教えてくれたところによると、仁、ラインハルト、ビーナら……つまりはニドー家、ランドル家、クズマ家の血を引く子孫だということだ。
* * *
『さて、それでは本戦第1戦を行います! まずは隣り合ったゼッケン同士の1対1でのバトルとなります!』
製作者たちは専用の『監督席』に着いている。
ここには、操縦者であるゴーレムに指示を出すための通信装置がある他、ゴーレムの目線で見た映像が映し出される魔導投影窓も備え付けられていた。
まずはゼッケン1のシュウとゼッケン2のルビーナの対戦である。
いきなり前回の決勝に残った2人の対決だった。
『バトルのルールは前回と同じです。特定波長の光線銃2基を使い、相手の機体を狙い打ちます。各機体には光線銃の波長に反応して赤変する透明塗料が塗布されております』
被弾すれば機体のその部分が赤くなり、その程度に応じてダメージを判定するわけだ。
そしてパイロットが被弾したり、機体のダメージが一定レベルを超えたりした場合に『撃墜』『大破』判定がなされるというわけである。
『ただし、予選でもご説明したとおり、今回から光線銃の仕様が変更になっております』
予選を見なかった仁は聞いていなかったので、あとで確かめることにする。
『操縦者はゴーレムであります。ゴーレムの性能もまた、勝敗に少なからぬ影響を与えるでしょう!』
* * *
競技開始の合図で、2機は滑走路をそれぞれ逆方向に向けて滑走していく。
少しでも早く離陸したほうが有利なのは言うまでもない。
シュウの『紫電』とルビーナの『ナイルⅤ』はほぼ同時に離陸した。
そのまま逆方向に向かい、60度ほどの角度で上昇していく。
そしてこれまたほぼ同時に宙返り……いやインメルマンターンを行い、上空で水平飛行に移ったあと、真正面からの撃ち合いとなった。
銃弾での撃ち合いと異なるのは、光線銃であるがゆえの『弾速』(弾ではないが)である。
光ったのが見えた時にはもう回避は不可能。というか着弾している。
従って、撃たれる前に回避行動を起こさなければならない。
この方式でのバトルは2度めなので、シュウもルビーナも心得ていた。
競技の性質上、光線銃には『射程距離』が設定されており、今回の有効射程は500メートルとなっていた。
これは実際の機関銃よりも遥かに短いが、競技を盛り上げるための設定のようだ。
確かに、遠距離から狙撃で決着が付くのは興ざめだな、と仁も納得したのである。
* * *
さて、水平飛行からの撃ち合いになるかと思われたが、一瞬早くシュウの『紫電』が急上昇を行い、ルビーナの『ナイルⅤ』からの銃撃をかわした。
『ナイルⅤ』も『紫電』を追って上昇。
うまく背後に付いたと思ったのも束の間、『紫電』はそのまま宙返りを行い、『ナイルⅤ』の背後を取った。
だが、『ナイルⅤ』もそのままではいない。
同様に宙返りに入ったのである。
『巴戦のようです! これは凄い!』
アナウンスが叫ぶ。
巴戦とは、2機以上の戦闘機が相手の背後を取ろうと宙返りを繰り返すこと(相撲でも巴戦というものがあるが全くの別物)。
相手よりも速ければ背後を取れるわけであるが、これがなかなか難しい。
速さ以外にもう1つの方法は、より小さく回ること。
だが小さく回ると速度が低下するため、どちらを取るかはその時々で判断する必要がある。
そして今、『紫電』と『ナイルⅤ』、好敵手同士の機体性能はほぼ互角であった……。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20210310 修正
(誤)この方式でのバトルは2度めなので、シュウもグリーナも心得ていた。
(正)この方式でのバトルは2度めなので、シュウもルビーナも心得ていた。
20210311 修正
(旧)仁、ラインハルト、ビーナらの血を引く子孫だということだ。
(新)仁、ラインハルト、ビーナら……つまりはニドー家、ランドル家、クズマ家の血を引く子孫だということだ。
20210607 修正
(誤)特定波長の光線銃2機を使い、相手の機体を狙い打ちます。
(正)特定波長の光線銃2基を使い、相手の機体を狙い打ちます。
(旧)光ったのが見えた時にはもう回避は不可能。
(新)光ったのが見えた時にはもう回避は不可能。というか着弾している。




