77-01 平和の象徴
3902年、2月1日。
この日、『オノゴロ島』で飛行機競技が行われていた。
『さあ、いよいよ始まります! 今回、本戦に進めたのは8名の技術者たちです!』
アナウンスが響き、観客が沸く。
今回は解説者なしでいくようだ。というよりも解説者なしでいけるほど、アナウンサーが熟練になったらしい。
『今回から、ジン様による技術提供によりまして、遠く離れた空中での様子を克明に映し出せるようになりました!』
またしても観客が沸き、拍手が起こる。
今回仁が提供したのは『覗き見望遠鏡』に準ずる技術。
空中に展開した『光学結界』で光を反射させ、遠くの光景を映し出すというものだ。
この結界は可視光のみを反射し、物体に対しては干渉しないため、飛行機がぶつかってもノーダメージである。
『覗き見望遠鏡』の場合は物質も透過することができるが、こちらの技術は可視光に限られるし、途中に光を遮るものがあったら使えなくなってしまう。
それでもこうした競技の中継には大きな威力を発揮するものであった。
* * *
招待客として、『仁ファミリー』とその関係者も幾人かやって来ていた。
「楽しみですわね、あなた」
「そうだな」
まずはダイキ・ニドーとココナ・ニドーの夫妻。
「お父さま、いつか私も出てみたいです」
「父さま父さま、私も!」
「そうか。それにはもっといろいろ学ばなくてはな」
「がんばります」
「がんばりまーす!」
『長老』ターレスとその養女、『ネージュ』と『ルージュ』。
「こういう競技ができる……凄い島なのね、ここは」
「グリーナも出ているんだよ」
これはカイナ村領主、エリス・ニドーとその孫、フレディ・ニドー、である。
「楽しみだなあ」
「あなたも出たかったのではありませんの?」
「まあな」
そしてラインハルトとその妻ベルチェも、来賓用の観客席に座っていた。
「ん、よくわかる。ライ兄も工作バカだし」
「ジンと同じくな!」
もちろん、仁の愛妻、エルザも一緒だ。
その他の『仁ファミリー』はこの場には来ておらず、蓬莱島で老君による中継画面を見ているのだった。
* * *
『そして、本大会優勝者は、ジン様がお作りになった飛行機と1対1でのバトルを行うことができます!』
「おお!」
「それはすごい!」
「今から楽しみで仕方がないな!」
観客のテンションは上がる一方だ。
『それでは、まずジン様から一言いただき、その後ジン様の飛行機によるデモンストレーションを見せていただきたいと思います!』
一層大きな歓声が沸いた。
その後、仁が壇上に姿を見せ、その様子が大型魔導投影窓に映し出されると、さらに歓声は大きくなる。
だが仁が口を開くとその歓声はぴたりと止んだ。
『皆さんこんにちは、ジン・ニドーです。本日は、『飛行機競技』へのお招き、ありがとうございます』
静寂に包まれた競技場に、仁の声が響く。
『厳しい予選を勝ち抜いた8名、誰が優勝してもおかしくないでしょう。そして、そんな優勝者と競えるのは光栄です。……ここで、私が精魂込めて作った飛行機、『ルフト』をご紹介しましょう』
大きな拍手が起こり、飛行場に3機の『ルフト』が姿を表した。
演出のため、今まで『不可視化』で姿を消していたのである。
『ルフト1、ルフト2、ルフト3です。3機のチーム名は『ホワイト・コントレイル』。『コントレイル』とは『飛行機雲』のことです。では、デモンストレーション、開始!』
仁の声に合わせ、『ルフト』3機は滑走を開始。
競技場の滑走路は1.5キロメートルの長さがあるが、3機は1キロ弱で離陸した。
先頭が礼子の乗る『ルフト1』、右後方にソレイユの『ルフト2』、左後方にルーナの『ルフト3』という位置関係で3機は上昇していく。『デルタ』と呼ばれる編隊だ。
離陸直後に編隊を組むには卓越した操縦技術が必要なはずだが、この3機はいともたやすくそれを行ってしまっている。
3機はその位置関係を崩すことなく上昇しつつ、『スモーク』を噴射。
「おお!」
「なんだ? 故障?」
「いや、違う。これは……!」
「こういう仕掛けなんだ!」
「さすがジン様!!」
観客が沸く。
『ルフト1』は白、『ルフト2』は赤、『ルフト3』は青のスモークである。
仁とサキが苦労して作った、魔法によるスモークだ。
なので時間が経つと文字通り雲散霧消してしまう。その作り方は今のところ企業秘密とされていた。
3色の尾を引き、3機は急上昇。
まずは連続3回の宙返りを行ってみせた。
白・赤・青の3重の輪が蒼空に描かれた。
* * *
「綺麗ですわね、あなた」
「だなあ。ジンとサキが何かやっていたのはこれだったようだな」
* * *
そして3機は次の演技に移る。
3度めの宙返り後、背面のまま水平飛行をし、そこから水平ロール。
だが、1機ごとのロール(きりもみ)ではない。
あたかも3機が1つの飛行機であるかのように、デルタを組んだままロールを行ったのだ。
先頭を飛ぶ『ルフト1』は普通のロールでいいが、後方の2機はそうはいかない。立体的な機動を行い、見事な連携を見せた。
観客からは割れんばかりの拍手が贈られた。
水平飛行に戻った3機は、『スプリットS』と呼ばれる機動を行う。
『スプリットS』とは、要するに縦方向のUターンである。
水平飛行と下方向への逆宙返り、そしてロールを連続的に行うことで、180度の方向転換を行うわけだ。
これもまた、3機が1機としての機動を行ったため、3色の『スモーク』がきれいな『撚り』を見せてくれた。
* * *
「きれい、父さま」
「そうだな、ネージュ」
「あれって、ジンさんの自動人形が操縦しているんでしょう?」
「そうだよ、ルージュ。レーコさん、ソレイユさん、ルーナさんだね」
「すごいなあ」
* * *
今度は水平に弧を描いて飛ぶ3機。
下から見上げている観客には、この方が受けがいいだろう。
大空に3色の輪が描かれていく。
8の字……ではなく、『四つ葉のクローバー』である。
青い空に3色の線で描かれた図形は、平和の象徴とも言えた。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20210309 修正
(誤)だが仁が口を開くとその完成はぴたりと止んだ。
(正)だが仁が口を開くとその歓声はぴたりと止んだ。
20220324 修正
(旧)「こういう競技ができる……凄い島だねえ、ここは」
(新)「こういう競技ができる……凄い島なのね、ここは」




