76-32 閑話127 フォロー
『アドリアナ記念館』が一般公開されてから数日が経ち、好評を博す反面、問題点も浮き彫りになってきていた。
それで仁と老君は相談を行っている。
「俺が気が付いたこととしては、食堂で量の調整ができないこと、メダル発行に時間が掛かること、子供向けのコンテンツがないことかな」
『前の2つに関しましては対応可能ですね』
食堂のスタッフは自動人形『スタフィ』なので、指示を出せば即対応してくれる。
『メダルは、オペレーターを付けたらどうでしょうか』
「ああ、それはいいな」
メダル発行の何に時間が掛かるかというと、文字入力なのだ。
キー配列とかそういう次元の話ではない。
まだまだアルス世界ではキーボードによる文字入力は一般的ではないので致し方ないだろう。
「子供向けは……まだ無理かな……アイデアは幾つかあるんだが」
ゴーレムと一緒に遊ぶ、ゴーレムの運転する乗り物に乗せる、ゴーレムによる劇の上演などを考えていたが、時期尚早だと仁は思っていた。
なにしろ記念館自体、まだこの先どうなるか不透明だからだ。
受け入れられて繁盛するのか、数ヵ月後には閑古鳥が鳴いているのか……。
『私の方からですが、お客様の安全に関しまして、もう少しだけ配慮していきたいと思っております』
「それはなぜだ?」
『はい、御主人様。実は、一般向け開館2日目に、『魔法連盟』の残党が来館したのです』
「そうだったのか」
『はい。当然ながら、記念館内の展示物や内容が気に入らないと、騒ぎ立てそうになりましたので、『スタフィ』と『エンプロイ』にこっそりと排除させましたが』
「そ、そうか」
『不可視化』や『遮音結界』を使い、『穏便に』お引取り願ったそうな。
(『穏便』の内容を具体的に聞くのはやめておこう……)
と思ったとか思わないとか。
* * *
『逆に、評判のよかった点もピックアップし、よりよいサービスを提供できるようにするのがよろしいかと愚考します』
「それはそのとおりだ。……エスカレーターは評判がよかったな。『スタフィ』が適宜案内してくれるというのもよかったみたいだが」
『はい、御主人様。その他に、庭園が綺麗だと仰った方も多かったようです』
「そうか。これから季節が巡って、花が咲く頃にはもっと評価してもらいたいな」
『その場合、庭園にもう少しベンチや四阿を設けたほうがよろしいかと』
「そうだな」
庭園は出入り自由である。ゆえに、近隣の人々の散歩道になってもいいと思っている仁なのであった。
『案内につきましては、玄関ロビーの端に『案内所』を設けたらいかがでしょうか』
「ああ、それはいいな」
博物館や図書館、それに役所などには『案内所』とか『総合案内』というものがある。
自分が行きたいところ、知りたいものをピンポイントで案内してくれる担当者がいる場所だ。
「そうすると『スタフィ』も増やそうか?」
『いえ、いずれ現地で従業員を雇うことになりますから、臨時職員として5色ゴーレムメイドを幾体か派遣すればよろしいでしょう』
「そうか、それは任せる」
『承りました』
仁は老君に差配を任せることにし……1つの案を思いつく。
「『アドリアナ記念館』にも専用の管理魔導頭脳を設置しよう」
『御主人様、それはいいことですね』
現場で管理・監視できるということは、遠方からのそれよりもより現実に即した対応ができるはずだから。
「今は俺が『名誉館長』を務めているけど、いずれレグレイさんに館長になってもらうことになるだろうしな。……そうすると、魔導頭脳よりも館長補佐自動人形のほうがいいかな?」
『両方作ればよろしいのではないでしょうか』
「そうか。老君と老子のようにな」
『はい』
* * *
そこで仁は、記念館専用の管理魔導頭脳を製作する。同時にその端末ともいえる自動人形も。
自動人形の外見は悩んだ末、タイトスーツを着込み、髪をアップに結って眼鏡を掛けた女性司書のイメージとした。
「魔導頭脳は『クラトス』、その端末自動人形は『クラトー』としようか」
どちらも『学芸員』というような意味を持つショウロ皇国の言葉である。
『はい、御主人様、私は『クラトス』です』
『はい、御主人様、私は『クラトー』です』
魔導頭脳とその端末が稼働し、仁に挨拶を行った。
『ありがとうございます、御主人様。これからは『クラトス』『クラトー』らと連携して『アドリアナ記念館』を盛り立ててまいります』
老君もまた、任務遂行がよりやりやすくなったことに礼を述べ、意欲を見せたのである。
* * *
その他にも、細かな改善が行われた。
ポンプの動作モデルには、水の中にラメ状の薄片を入れて水の動きがより見やすくなるように。
顕微鏡の展示では、プレパラート(試料を顕微鏡で観察できる状態に処理したもの)を複数用意。それも、グロテスクなものは避け、蝶の鱗粉や植物細胞などにしている。
エスカレーターには『安全のため、歩いたり走ったり逆行したりしないでください』というような注意書きを目立つように掲示した。
そうした工夫は、気がつくとすぐに取り入れられるため、日に日に記念館は利用しやすくなっていく。
そんな評判は口コミで伝わり、開館当初ほどの混雑はないものの、来館者の数が激減することもなく、毎日賑わいを見せている。
* * *
「そうか、『アドリアナ記念館』は変わらず盛況か」
「はい、陛下」
ショウロ皇国皇帝であるエルンスト・ルプス・フォン・リヒト・ショウロは、嬉しそうに微笑んだ。
「『2代目』にあれだけ支援されていながら、今の体たらくはご先祖様に恥ずかしいとかねがね思っていたが、これでようやく1つ、階段をのぼることができたというものだ」
その顔に浮かべられた微笑みは、かつての女皇帝を彷彿とさせるものであった……。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20210308 修正
(誤)キー配列とかそういう次元に話ではない。
(正)キー配列とかそういう次元の話ではない。
(旧)自分が行きたいところ、知りたいものをスポットで案内してくれる担当者がいる場所だ。
(新)自分が行きたいところ、知りたいものをピンポイントで案内してくれる担当者がいる場所だ。
(旧)そうすると、魔導頭脳よりも館長自動人形のほうがいいかな?」
(新)そうすると、魔導頭脳よりも館長補佐自動人形のほうがいいかな?」




