76-30 空白の時代
すみませんすみません
仁とマリッカは『オノゴロ島』の一室で話し合っていた。
給仕をしているのはマリッカの自動人形、花子。
今回礼子は仁の後ろでおとなしくしている。
「……驚きだったな」
「はい、ジンしゃま」
2人は先程『テスタ』から聞いた、『始祖』の時代以降、アドリアナ・ティエラくらいまでのできごとについて思い起こしていた。
「おおよそのことしかわからなかったけど……」
「はい」
「一旦、かなりの衰退期があったんだな……」
「仕方ないことなんでしょうね」
『テスタ』によると、統治した初代の『始祖』がいなくなり、代を重ねれば重ねるほどに寿命で稼働しなくなった魔導具・魔導機は増えていったという。
それに伴い、生活レベルも少しずつ後退していき、最も低下した集落は、魔導具も作れないような低レベルだったようだ。
それに対し、整備要員が存在した集落では、新しい魔導具・魔導機を作ることはなくなった程度で、僅かな文系・文化的後退で済んだらしい。
それがおよそ2500年くらい前。
その後、『始祖』の血も薄まり、『アルス人類』という新人類が台頭し、再び文明は進歩を始める。
『始祖』の技術のほとんどはロストテクノロジーとなり、過去の集落は『遺跡』という形で遺され、時折進んだ技術をアルスにもたらした。
ごくごく一部の『アルス人類』は、一般的な『アルス人類』よりも衰退の度合いが小さく、僅かながらも優位性を保つことができていた。
その1つが『ニューエル』の集落であり、『アドリアナ・ティエラ』の先祖である。
そしてもう1つが今の『ノルド連邦』となるわけだ。
「……とはいえ、詳しい変遷はわからないけどな」
「そうでしゅね。『テスタ』もまた、外の世界について無頓着というか、興味がないようでしたから」
「外の世界が技術的に劣っていたのも大きいんだろうな」
「ですね。脅威になりえないと判断できるほどに劣っていたわけでしゅから」
その後……400年ほど前になると、無視できないほどに技術的な発展をしたので、『テスタ』は『ヘレンテ』を派遣していろいろと調査をさせ……仁たちとの邂逅を経て今に至る、というわけだ。
「やっぱり、どんな技術も、背景を失うと……と言えばいいのか、基礎がなくなると……と言えばいのか、とにかく衰退するものなんだな、と痛感したよ」
「そうですね……」
400年前の仁が築き上げた成果も、『魔法連盟』という破壊勢力によってほぼなかったことにされてしまった。
これは1つには、成果を与えるだけで、技術の底上げを疎かにした報いと言えるかもしれない。
与えるだけ与えて投げっぱなし、と言ってもいいようなやり方をしたのでは駄目だったということだ。
そんな仁の技術を受け継いだのは『オノゴロ島』に避難した子孫たちだったのだから。
「今回は、ゆっくりじっくりやるさ」
「それができますからね、今のジンしゃまは」
* * *
さて、そんな用事も一区切りできたので、仁はダイキ・ココナ夫妻がどうしているか気になってきた。
そこでマリッカが、オノゴロ島地上施設を管理する自動人形『ディレク』に尋ねてみると、
〈はい、マリッカ様。お二方は楽しく過ごされているようです。今現在は島巡りを楽しまれています〉
との答えが返ってきた。
「それならいいんだ。今日は1泊して、明日帰ればいいし」
ロイザートの家は老君が『覗き見望遠鏡』で監視してくれているので心配はない。
「では、ルビーナたちに会っていかれますか? あの子たちも会いたがっているようですから」
「そうするよ」
* * *
ルビーナたちのいる区画へ行くと、仁は大歓迎された。
「ジン様! 久しぶり!」
「正月に会ったばかりだぞ」
「もう1週間経つじゃない」
「まあそれはそうだが」
「ジン様、新年おめでとうございます」
「あ、ああ、そうだな。おめでとう」
まだ新年の挨拶をしていない面々もいたので、改めて挨拶を交わす仁であった。
「……で、何をしていたんだ?」
「もちろん、『飛行機競技』の準備よ!」
「大型風洞もできたので、実験が捗っています」
ルビーナの言葉を、グリーナが補足した。
「ああ、そうだったか。それじゃあ次回は期待できるな」
「ねえジン様は出ないの?」
「うーん、ちょっとバタバタしているから、日程的に難しいかもしれない」
「えー……」
あからさまに肩を落とすルビーナを見て、仁は慌てて言い添える。
「あ、でも、優勝者と1対1のバトルをするくらいはやってもいいぞ」
「え、ほんと?」
「ああ。俺の飛行機は微妙にこっちのレギュレーションに合わないかもしれないけどな」
「前回と変えてないはずよ」
「なら大丈夫だ」
「それは楽しみですね!」
「今度こそ優勝を目指すぞ!!」
この『優勝者と仁の飛行機が1対1でバトルできる』という宣言は、参加者たちには大きなご褒美だったようで、皆やる気をさらに漲らせたようだった。
* * *
「何か問題になっていることはあるかい?」
『飛行機競技』に出場予定の面々との相談会の様相を呈してきたので、本格的に相談を受けることにした仁。
「ええと、ジン様、いいでしょうか?」
「グリーナか。どうした?」
「はい。速度を上げるためには主翼を小さくしたほうがよさそうだと、風洞実験で感じたんですが、合っていますか?」
「ああ、それでいいと思う。……ただやりすぎると低速での性能が落ちて、離着陸がやりにくくなるから、それとのトレードオフだな」
「あ、やっぱりそうなんですね。わかりました。ありがとうございます!」
仁もそれほど航空力学に詳しいわけではないが、それでも『オノゴロ島』の面々から見たら、知識においても経験からみても、まだまだ雲の上の人のようだ。
だが当の仁は、彼らがこの調子で懸命に開発を続けていったら近い将来には抜かれるだろうなと感じていた。
「1つ、いいでしょうか?」
「シュウ、何だい?」
「はい。ええとですね、『先尾翼機』というものがあるようですが、今ひとつ利点がわからないんです」
「ああ、それか。俺も詳しくは知らないが、昇降舵の効きがいいようだぞ。逆に言うと安定性が悪いとも言えるかな」
先尾翼機の場合、例えば機首上げのときはプラス(上向き)の揚力を発生させている。これは主翼の揚力と同方向のため、効きがよくなるわけだ。
通常の配置だと、機首を上げる時は尾翼を下げる(下向き)力が発生していることになり、主翼の揚力とは逆向きである。
「他のデメリットは、先尾翼から発生した気流のせいで主翼の効率が落ちるかな」
「わかりました」
仁としても、知らないことは答えられないが、それでも参考意見を言うことはできた。
3902年の『オノゴロ島』も活気に満ちている。
いつもお読みいただきありがとうございます。
本日は 異世界シルクロード(Silk Lord) も更新しております。
https://ncode.syosetu.com/n5250en/
お楽しみいただけましたら幸いです。
20210306 修正
(誤)通常の配置だと、機種を挙げる時は尾翼を下げる(下向き)力が発生していることになり
(正)通常の配置だと、機首を上げる時は尾翼を下げる(下向き)力が発生していることになり




