76-28 歓待
『アドリアナ記念館』の駐機場に『ハリケーン』は置かれている。
「さあ、乗ってくれ」
「一昨年……いや、もう一昨々年になるのか? 以来だな」
そう、3899年の暮れ、仁は蓬莱島に3人を招待しており、その際に『アヴァロン』からショウロ皇国へ『ハリケーン』で移動したのであった。
「あれから、いろいろな飛行船や風力式浮揚機にも乗ったが……やっぱり乗り心地が違うなあ」
エイラが言う。
「揺れの周期が長い方が乗り心地がいいとは一概に言えないんだよな」
「うん、グローマの言うとおりだ。実は俺、乗り物酔いしやすいたちでさ」
「え、ジンさんが?」
「そうなんだよ、カチェア。だから乗り心地には気を配っているんだ」
「なるほど、そういうことか」
『乗り物酔い』は三半規管が異常を起こすなど自律神経の失調が原因と言われている。
つまり、個人差があるわけだ。
大きな船だと酔わず、小さなボートだと酔う、という者や、その逆もまたありうる。
仁はどちらかというと、ゆっくりした大きな揺れに弱い。
だが振動に分類されるような細かい揺れには比較的強いのだ。
そういうわけで、『ハリケーン』は、長周期で大きな揺れを起こさないよう調整されている。
具体的には安定翼の配置や、重心位置の調整。
それにいざという際には『力場発生器』で揺れを打ち消すこともできる。
そんな『ハリケーン』なので、普通の人間にとっても乗り心地はいいと感じられるのだろう。
夕暮れまでのほんの短い遊覧飛行ではあるが、友人3人は楽しんでくれているようだ。
「夕暮れの空が綺麗ですね」
「だなあ」
「トスモ湖、だっけ? 湖もきれいだ」
仁も、夕暮れの空は好きである。
こうして空から見ると、また格別。
「『ゴー研』も、いろいろやっているんだろう?」
「ああ、もちろんさ。たまには遊びに来てくれよ、ジン。ああ、もうジンでいいんだろ?」
「そうだな。無理言って悪かった」
「それじゃあ、ジンさん、航空研ともタイアップして、いろいろやってますからね。見ていただきたいものもありますよ」
「そうだなあ。機会があったら行くよ」
「おう、待ってるよ」
そして太陽セランが西の地平線に沈む前に、『ハリケーン』はロイザートの屋敷に到着。危なげなく屋上に着陸したのであった。
* * *
「お客様方、ようこそお越しくださいました」
「ええと、ダイキさん、ココナさん、でしたっけ。お世話になります」
「おお、カチェアさんでしたね。そちらはグローマさん、エイラさんですね」
「いつぞやはお世話になりました」
「いえいえ、お構いもできませんで」
あの時は昼食を食べた後、蓬莱島へ移動してしまったので、あまり屋敷でもてなせなかったことをダイキとココナは気にしていたようだ。
「まずお風呂へどうぞ」
「ありがとうございます」
ちゃんと男性用・女性用があるので、仁とグローマ、カチェアとエイラに分かれて入浴である。
「ああ、いいお湯だね」
「ほんとですね。昨夜泊まった宿はお風呂がなかったですし」
「シャワーだけだったものな。あれは寒かった」
「休暇をもらえた時にはもう宿がほとんど埋まっていましたからね」
「ああ。今夜だってどうしようかと言っていたんだものな。泊めてもらえて助かったな」
エイラとカチェアは楽しげだ。
また、仁とグローマもいろいろ会話をしている。
「泊めてもらえて助かりましたよ、ジン殿」
「うん、会えてよかった」
「それにしても、我々が来ていることがよくわかりましたね?」
「それに関しては『魔法工学師』の技術ということにさせておいてくれ」
「わかりました」
「で、明日は『アヴァロン』に帰るのか?」
「午前中はロイザートを観光してからと思っています」
「案内はいるかい?」
「いえ、それも含めて楽しもうと思っていますので」
「そうか」
帰りの定期便は正午にロイザートの飛行場を出る便のチケットを購入してあるそうなので、それまでは自分たちだけで観光をするということだった。
* * *
夕食は『アヴァロン』ではあまり出されないと思われる、純ショウロ皇国料理が出された。
エイラたちに好き嫌いはないという前情報によるものだ。
「お、これは珍しいな」
トメィトゥル(トマト)を煮込んだスープ、塩漬け肉の野菜煮込み、メジカ(鮭)のバター焼き、大麦の粥、固茹で卵。
食前酒に白ワイン。これはエルリッヒの3888年という、ラインハルトも絶賛する逸品である。
「このワイン、ひょっとしてもの凄く高いワインですよ……!」
「まあまあ、カチェア、今夜はそういうこと気にせず味わってくれよ」
「そ、そうですね……」
「このスープ、美味しいですねえ」
「ありがとうございます、それは家内の得意料理でしてね」
褒められたダイキとココナも嬉しそうだ。
仁も、本格的なショウロ皇国料理に舌鼓を打った。
「……はあ、ダイキさんは伯爵なんですか……」
「ええ、皇帝陛下から伯爵位を賜っております」
「すごいんですねえ……」
「いえいえ、私自身の功績なんて塵ほどもないですよ。全てご先祖様のおかげです」
「いや、そうお考えになれるということが凄いことだと思いますよ」
食後はお茶を飲みながらの雑談となった。
「明日の午前中はロイザートの観光と伺いましたが」
「ええ、その予定です」
「どこか、お勧めはありますか?」
「そうですね、買い物でしたら『南東区画』、町並みをご覧になるのなら『北東区画』ですね」
南東区画は商人・職人の町であり、北東区画は貴族街である。
仁の屋敷は北東区画の南端に近い場所なので、どちらを回るにも便利だ。
「それじゃあ南東区画を見て回ることにします」
独自の魔導具や珍しい素材などに興味があるとグローマが言った。
「本当に、案内はいらないのか?」
「ジン、ありがとう。本当にいいんだ。大体のことを聞いておいて、あとは歩き回って探すのも醍醐味だからな」
見つからなければそれはそれでよし、とエイラは言った。
「そういうものかな」
「そういうものさ。本当に欲しいものなら、購買部を通じて手に入れられるしな」
『アヴァロン』の購買部は、時間は多少掛かっても、欲しいものを仕入れてくれるという。
もちろん、欲しいものについてできるだけ正確な情報を伝える必要があるが。
それを踏まえて、掘り出し物を探しながら町を見て回るというエイラたち。
観光のやり方にもいろいろあるものだな、と感心した仁であった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
本日3月4日(木)は14:00に
異世界でホムンクルスになっていたのでスローライフを目指す
https://ncode.syosetu.com/n8402fn/
を更新します。
こちらも応援のほどよろしくお願いいたします。
20210304 修正
(誤)仁も、本格的なショウロ皇国に舌鼓を打った。
(正)仁も、本格的なショウロ皇国料理に舌鼓を打った。




