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マギクラフト・マイスター  作者: 秋ぎつね
76 アドリアナ記念館篇(3901年〜3902年)
2880/4353

76-27 裏技

「この『日替わりランチ』、なかなかいけるな!」

「ほんと、美味しいです」

「唯一文句があるとすれば、量が少ないことかな?」


 エイラ、カチェア、グローマの感想である。


「『アヴァロン』の食堂も安くて美味しいですが、ここもいいですね。採算がとれるのか心配になっちゃいます」


 経済観念が抜きん出ているカチェアがそんなことを言っている。


「そのへんは、採算取れないような商売にはしていないだろ」

「いえ、エイラさん、お野菜とか穀物とかお肉とか……食材は『時価』ですから変動するんですよ。安いときと高い時の差が大きいんです」

「そういうものか」

「はい、そうなんです」


 温室やビニールハウス栽培はまだまだ一般的ではないし、貯蔵も冷蔵庫くらいで、フリーズドライや極低温冷凍庫もないので、冬期の野菜類は高いのが当たり前であった。

 カチェアはそういう事をよく知っているのだが、よくも悪くも研究馬鹿なエイラとグローマは知るよしもない。

 ただ、新鮮な野菜サラダをうまいうまいと食べるのみ。


「『アヴァロン』も、もう少し野菜や果物の輸入をしてくれるといいんだがな」

「野菜はともかく、あたしは果物が食べたいねえ」


 海上基地のため、『アヴァロン』では新鮮な野菜や果物は貴重なのであった。


 と、そこに声を掛けてきた者が。


「やあ、エイラ、カチェア、グローマ。君たちも来ていたのか」

「こんにちは、エイラさん、カチェアさん、グローマさん」

「おや、クラートスとクミルじゃないか。君らも今日見学かい」


 同じ『ゴー研』……『ゴーレム研究会』の同僚であった。


「そうなんだ。君等は一昨々日(さきおととい)から休暇を取っていたようだが、その後次々に申請が出てね。ならいっそ、交代で休むより研究室ごと休みにしてしまえ、ということでさ」

「なるほどね。で、いつまで?」

「うん? 休みか? 昨日・今日・明日の3日間さ。『アヴァロン』から臨時増発便が出ているんだ」

「へえ……そりゃよかったな」

「ああ。君らは自腹だろう?」

「うん、まあ……な」

「我々は、交通費は掛からないのさ」

「ちょっと羨ましいかもですね」

「カチェアもそう思うか? まあ、3日間だけだから慌ただしいがね。それじゃあ、こちらも席を取らないとな」

「それじゃ、また研究室で」


 言うことを言い終わると、クラートスとクミルの2人は席取りに行ってしまった。


「『アヴァロン』も気を利かせているんだな」


 と、仁が言うと、カチェアが頷いた。


「そうみたいですね。やはり見学に来るだけの価値はあると判断したんでしょう」

「光栄だけどな……だが、君たち3人はちょっと割を食ったということか?」

「そうらしいな」

「なんか済まないな。……ああ、そうだ、今夜の宿は決まっているのか?」

「いや、どうしようかと考えている」


 エイラの言葉をカチェアが補足する。


「実は、ロイザートに宿を取れなかったんです。それで、少し離れた町の宿を探すつもりです」

「我々は明後日まで休暇を取っているからな」


 それを聞いて仁はほっとした。宿をキャンセルする必要がないからだ。


「ああ、それなら都合がいい。うちに泊まってくれよ」

「へ?」

「ええと、ニドーさん、以前案内してくださったお屋敷ですよね?」

「そうだよ」


 3899年の暮れに、仁は3人をロイザートの屋敷に連れて行ったのである。ただし、その時は泊まってはいない。


「助かります。ありがたくお受けします」

「よっしゃ」


 実はもう既に、連れてくる前提でダイキ・ココナ夫妻は準備を進めているから、断られるとちょっと困るのだった。


(事前に連絡をつけておけばよかったけどな。まあ、結果オーライということで)


 仁自身、いろいろと忙しかったから仕方がない、と自分に言い訳したのであった。


*   *   *


 昼食後は『2代目』の部屋からとなる。


「ニドー、君は『3代目』となるわけだが、その資格というのは何かあるのかい?」


 エイラから、されて当然の質問が出てきた。これについては前回、招待客相手に答えているのでそれを参考にする。


「そうだな、簡単に言うと、『とある工学魔法を使えるか』ということになる。これは、練習や努力ではなく、純粋に素質……というより体質によるものなので、なかなかその資格があるものは現れないんだ」

「ふうん、そうなのか」

「だから『魔法工学師マギクラフト・マイスター』は後継者を見つけることを、この礼子に託しているんだよ」


 仁は隣りにいた礼子の頭を撫でた。


「そうか。『2代目』は、玄関ホールの『おちび』に見出された。その『おちび』をグレードアップした『2代目』は、同じく『3代目』のことを『レーコちゃん』に託したわけだ」

「まあそういうことになるな」


「そうすると、兄弟弟子だというデウス・エクス・マキナは……」

「彼は、『魔法工学師マギクラフト・マイスター』になるよりも、『デウス・エクス・マキナ』を継いで世界平和のために生きる、と決めたんだ」


 だが、その実力は折り紙付きだ、と仁は断言した。


「そうだろうな。我々は行ったことがないが移動基地『アルカディア』は『アヴァロン』以上だと聞いているよ」


 グローマ・トレーがしみじみと言った。


「同様に、マリッカ殿も『2代目』の弟子だったけど、後継者じゃない。それぞれの信念に基づいて、違う道を歩んでいるのさ。……今後は『師弟』じゃなく『教育機関』で学ぶ時代になるんじゃないかな」


「マキナ殿にマリッカ殿。あまりに高い頂きだが、目標にしたいものだな」

「そうだな、グローマ」

「頑張りましょうね」

「そうだな。俺が言うのも筋違いかもしれないが、頑張ってくれよ」


 3人はめげず、たゆまぬ努力を怠らないようだ。そのまま頑張ってくれ、と仁は彼らにエールを送ったのである。


*   *   *


 そして午後3時少し前。

 一通りの見学を終え、仁たちは展望台食堂でお茶を飲んでいた。


「このあと、屋敷に行くつもりだけど、まだ少し時間があるから、何か希望はあるかい?」

「そうだなあ……あ、屋敷に行くのは馬車か何かか?」

「いや、『ハリケーン』だ」

「あの飛行船か……それじゃあ、少し遊覧飛行をしてもらいたいな。……グローマ、カチェア、どうだ?」

「うん、いいな」

「いいですね、それ」

「よし、わかった」


 エイラの希望にグローマとカチェアも賛成したので、仁は3人の希望を叶えることにした。


「あ、その前に、せっかくだから記念メダルを買っていこう」


 グローマが言い出し、それならばとエイラとカチェアも買うことにしたのである。


「……並んでいるな」


 だが、記念メダルは人気があると見えて、購入者が15人ほども並んでいた。

 ただ買うだけではなく、文字入力をするので時間が掛かるのだ。


「こりゃあ時間が掛かりそうだ」

「どうしましょう……」


 ここで仁は裏技を使うことにした。

 念のため、『記念メダル発行機』はあと2台、用意してあるので、それを出そうというわけだ。

 それは『アドリアナ記念館』の倉庫にしまってある。


 というわけで、仁はそばにいた『スタフィ』に話をして、その2台を持ってこさせることにしたのである。

 そうすれば発行機は3台となり、15人は5人となって待ち時間も3分の1になる。


 そんな設立者権限を使ったので、15分ほどで仁たちは『アドリアナ記念館』を後にしたのであった。

 いつもお読みいただきありがとうございます。


 20210303 修正

(誤)『アヴァロン』から臨時定期便が出ているんだ」

(正)『アヴァロン』から臨時増発便が出ているんだ」

(誤)ジン

(正)ニドー

 2箇所修正。


(旧)

「まあ、言うなれば最終選考に落ちた、ということになるのかな」


 だが、その実力は折り紙付きだ、と仁は断言した。


「そうだろうな。我々は行ったことがないが移動基地『アルカディア』は『アヴァロン』以上だと聞いているよ」


 グローマ・トレーがしみじみと言った。


「あまりに高い頂きだが、目標にしたいものだな」

(新)

「彼は、『魔法工学師マギクラフト・マイスター』になるよりも、『デウス・エクス・マキナ』を継いで世界平和のために生きる、と決めたんだ。


 だが、その実力は折り紙付きだ、と仁は断言した。


「そうだろうな。我々は行ったことがないが移動基地『アルカディア』は『アヴァロン』以上だと聞いているよ」


 グローマ・トレーがしみじみと言った。


「同様に、マリッカ殿も『2代目』の弟子だったけど、後継者じゃない。それぞれの信念に基づいて、違う道を歩んでいるのさ。……今後は『師弟』じゃなく『教育機関』で学ぶ時代になるんじゃないかな」


「マキナ殿にマリッカ殿。あまりに高い頂きだが、目標にしたいものだな」

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― 新着の感想 ―
[気になる点]  仁ならメダルに刻むのはどんな文字かな。アチョーヒョッヒヨッヒョッヒョッとか。 [一言]  子どもなら「解説文長過ぎ」といって最初の展示室で読むのを諦める可能性が高い。
[気になる点] >だが、記念メダルは人気があると見えて、購入者が15人ほども並んでいた。  ただ買うだけではなく、文字入力をするので時間が掛かるのだ。 >「こりゃあ時間が掛かりそうだ」 「どうしまし…
[良い点] (誤)裏技 (正)コネ しかし、やはりというか、1台では足りませんでしたね。1年後は分かりませんが。 [気になる点] >「彼は、『魔法工学師』になるよりも、『デウス・エクス・マキナ』を継…
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