76-27 裏技
「この『日替わりランチ』、なかなかいけるな!」
「ほんと、美味しいです」
「唯一文句があるとすれば、量が少ないことかな?」
エイラ、カチェア、グローマの感想である。
「『アヴァロン』の食堂も安くて美味しいですが、ここもいいですね。採算がとれるのか心配になっちゃいます」
経済観念が抜きん出ているカチェアがそんなことを言っている。
「そのへんは、採算取れないような商売にはしていないだろ」
「いえ、エイラさん、お野菜とか穀物とかお肉とか……食材は『時価』ですから変動するんですよ。安いときと高い時の差が大きいんです」
「そういうものか」
「はい、そうなんです」
温室やビニールハウス栽培はまだまだ一般的ではないし、貯蔵も冷蔵庫くらいで、フリーズドライや極低温冷凍庫もないので、冬期の野菜類は高いのが当たり前であった。
カチェアはそういう事をよく知っているのだが、よくも悪くも研究馬鹿なエイラとグローマは知る由もない。
ただ、新鮮な野菜サラダをうまいうまいと食べるのみ。
「『アヴァロン』も、もう少し野菜や果物の輸入をしてくれるといいんだがな」
「野菜はともかく、あたしは果物が食べたいねえ」
海上基地のため、『アヴァロン』では新鮮な野菜や果物は貴重なのであった。
と、そこに声を掛けてきた者が。
「やあ、エイラ、カチェア、グローマ。君たちも来ていたのか」
「こんにちは、エイラさん、カチェアさん、グローマさん」
「おや、クラートスとクミルじゃないか。君らも今日見学かい」
同じ『ゴー研』……『ゴーレム研究会』の同僚であった。
「そうなんだ。君等は一昨々日から休暇を取っていたようだが、その後次々に申請が出てね。ならいっそ、交代で休むより研究室ごと休みにしてしまえ、ということでさ」
「なるほどね。で、いつまで?」
「うん? 休みか? 昨日・今日・明日の3日間さ。『アヴァロン』から臨時増発便が出ているんだ」
「へえ……そりゃよかったな」
「ああ。君らは自腹だろう?」
「うん、まあ……な」
「我々は、交通費は掛からないのさ」
「ちょっと羨ましいかもですね」
「カチェアもそう思うか? まあ、3日間だけだから慌ただしいがね。それじゃあ、こちらも席を取らないとな」
「それじゃ、また研究室で」
言うことを言い終わると、クラートスとクミルの2人は席取りに行ってしまった。
「『アヴァロン』も気を利かせているんだな」
と、仁が言うと、カチェアが頷いた。
「そうみたいですね。やはり見学に来るだけの価値はあると判断したんでしょう」
「光栄だけどな……だが、君たち3人はちょっと割を食ったということか?」
「そうらしいな」
「なんか済まないな。……ああ、そうだ、今夜の宿は決まっているのか?」
「いや、どうしようかと考えている」
エイラの言葉をカチェアが補足する。
「実は、ロイザートに宿を取れなかったんです。それで、少し離れた町の宿を探すつもりです」
「我々は明後日まで休暇を取っているからな」
それを聞いて仁はほっとした。宿をキャンセルする必要がないからだ。
「ああ、それなら都合がいい。うちに泊まってくれよ」
「へ?」
「ええと、ニドーさん、以前案内してくださったお屋敷ですよね?」
「そうだよ」
3899年の暮れに、仁は3人をロイザートの屋敷に連れて行ったのである。ただし、その時は泊まってはいない。
「助かります。ありがたくお受けします」
「よっしゃ」
実はもう既に、連れてくる前提でダイキ・ココナ夫妻は準備を進めているから、断られるとちょっと困るのだった。
(事前に連絡をつけておけばよかったけどな。まあ、結果オーライということで)
仁自身、いろいろと忙しかったから仕方がない、と自分に言い訳したのであった。
* * *
昼食後は『2代目』の部屋からとなる。
「ニドー、君は『3代目』となるわけだが、その資格というのは何かあるのかい?」
エイラから、されて当然の質問が出てきた。これについては前回、招待客相手に答えているのでそれを参考にする。
「そうだな、簡単に言うと、『とある工学魔法を使えるか』ということになる。これは、練習や努力ではなく、純粋に素質……というより体質によるものなので、なかなかその資格があるものは現れないんだ」
「ふうん、そうなのか」
「だから『魔法工学師』は後継者を見つけることを、この礼子に託しているんだよ」
仁は隣りにいた礼子の頭を撫でた。
「そうか。『2代目』は、玄関ホールの『おちび』に見出された。その『おちび』をグレードアップした『2代目』は、同じく『3代目』のことを『レーコちゃん』に託したわけだ」
「まあそういうことになるな」
「そうすると、兄弟弟子だというデウス・エクス・マキナは……」
「彼は、『魔法工学師』になるよりも、『デウス・エクス・マキナ』を継いで世界平和のために生きる、と決めたんだ」
だが、その実力は折り紙付きだ、と仁は断言した。
「そうだろうな。我々は行ったことがないが移動基地『アルカディア』は『アヴァロン』以上だと聞いているよ」
グローマ・トレーがしみじみと言った。
「同様に、マリッカ殿も『2代目』の弟子だったけど、後継者じゃない。それぞれの信念に基づいて、違う道を歩んでいるのさ。……今後は『師弟』じゃなく『教育機関』で学ぶ時代になるんじゃないかな」
「マキナ殿にマリッカ殿。あまりに高い頂きだが、目標にしたいものだな」
「そうだな、グローマ」
「頑張りましょうね」
「そうだな。俺が言うのも筋違いかもしれないが、頑張ってくれよ」
3人はめげず、たゆまぬ努力を怠らないようだ。そのまま頑張ってくれ、と仁は彼らにエールを送ったのである。
* * *
そして午後3時少し前。
一通りの見学を終え、仁たちは展望台食堂でお茶を飲んでいた。
「このあと、屋敷に行くつもりだけど、まだ少し時間があるから、何か希望はあるかい?」
「そうだなあ……あ、屋敷に行くのは馬車か何かか?」
「いや、『ハリケーン』だ」
「あの飛行船か……それじゃあ、少し遊覧飛行をしてもらいたいな。……グローマ、カチェア、どうだ?」
「うん、いいな」
「いいですね、それ」
「よし、わかった」
エイラの希望にグローマとカチェアも賛成したので、仁は3人の希望を叶えることにした。
「あ、その前に、せっかくだから記念メダルを買っていこう」
グローマが言い出し、それならばとエイラとカチェアも買うことにしたのである。
「……並んでいるな」
だが、記念メダルは人気があると見えて、購入者が15人ほども並んでいた。
ただ買うだけではなく、文字入力をするので時間が掛かるのだ。
「こりゃあ時間が掛かりそうだ」
「どうしましょう……」
ここで仁は裏技を使うことにした。
念のため、『記念メダル発行機』はあと2台、用意してあるので、それを出そうというわけだ。
それは『アドリアナ記念館』の倉庫にしまってある。
というわけで、仁はそばにいた『スタフィ』に話をして、その2台を持ってこさせることにしたのである。
そうすれば発行機は3台となり、15人は5人となって待ち時間も3分の1になる。
そんな設立者権限を使ったので、15分ほどで仁たちは『アドリアナ記念館』を後にしたのであった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20210303 修正
(誤)『アヴァロン』から臨時定期便が出ているんだ」
(正)『アヴァロン』から臨時増発便が出ているんだ」
(誤)ジン
(正)ニドー
2箇所修正。
(旧)
「まあ、言うなれば最終選考に落ちた、ということになるのかな」
だが、その実力は折り紙付きだ、と仁は断言した。
「そうだろうな。我々は行ったことがないが移動基地『アルカディア』は『アヴァロン』以上だと聞いているよ」
グローマ・トレーがしみじみと言った。
「あまりに高い頂きだが、目標にしたいものだな」
(新)
「彼は、『魔法工学師』になるよりも、『デウス・エクス・マキナ』を継いで世界平和のために生きる、と決めたんだ。
だが、その実力は折り紙付きだ、と仁は断言した。
「そうだろうな。我々は行ったことがないが移動基地『アルカディア』は『アヴァロン』以上だと聞いているよ」
グローマ・トレーがしみじみと言った。
「同様に、マリッカ殿も『2代目』の弟子だったけど、後継者じゃない。それぞれの信念に基づいて、違う道を歩んでいるのさ。……今後は『師弟』じゃなく『教育機関』で学ぶ時代になるんじゃないかな」
「マキナ殿にマリッカ殿。あまりに高い頂きだが、目標にしたいものだな」




