76-26 案内開始
玄関ホールには『アドリアナ・バルボラ・ツェツィ』の像があり、入館した者たちはそのほとんどが目を惹かれて立ち止まっている。
「これが初代魔法工学師、アドリアナ・バルボラ・ツェツィか……」
そして、説明書きも読んでくれているのを見た仁はほっとしていた。
「なになに……アドリアナ・バルボラ・ツェツィとその最高傑作である自動人形とゴーレムか……なるほど」
なにしろ、1400年も前の人物である。
地球でいうと西暦600年、7世紀頃。
日本では聖徳太子の時代である。半ば、いやそのほとんどが伝説と化す年月だ。
その伝説が今、時を超えて真相が明らかになったのである。
興味を持つ人々が喜々として見学に来るのは当然と言えた。
「なるほど、『おちび』……これがレーコさんの前身というわけですね」
「この最終型らしきゴーレム。これが1400年前に既に作られていたなんて、俄には信じがたいな」
「女性の身でありながらゴーレムをお伴に世界を巡ったわけか……凄いバイタリティだなあ」
カチェア、グローマ、エイラらはそれぞれの感慨を述べた。
「さあ、それじゃあ次へ行こう」
* * *
次はもちろん『特別展示室』である。
アドリアナ・バルボラ・ツェツィの生涯プラスアルファを知ることができる部屋だ。
忘れられた、また、これまで顧みられることのなかった過去にスポットを当てることが目的である。
エイラたち3人は非常に興味を惹かれたようだった。
もちろん他の見学者もおり、皆その内容に驚き、感動している。
その様子を見た仁と礼子は内心で快哉を叫んでいた。
「なあるほど、こういった下地があって、『初代』殿は力を付けていかれたのか……」
「賢者……こうして見ると、素晴らしい方だったのだなあ」
「ティエラさん……この方がいらっしゃったから、賢者様もそのお力を振るえたと言ってもいいのかもしれませんね……」
そして順番に絵と説明を見ていき、最後には当然……。
「ううむ、残念なことだ」
「魔法工学師の想いは当時の人に届かなかったんですね」
「あまりにも時代に先行しすぎたのかも知れないなあ」
晩年のアドリアナ・バルボラ・ツェツィを見て、色々と考えさせられているようだった。
* * *
その次は『賢者の部屋』である。
ここでも、訪れた人々は伝説の存在を身近に感じられるということで興味深そうに見学してくれている。
エイラたちも同じであるが、ただカチェアが、
「ニドーさん、アドリアナ・ティエラさん以前のことって、わからないんでしょうか?」
という疑問を仁に投げ掛けたのである。
仁もそれについては気になっていたし、かつて『ニューエル』の地で、『ティエラ家』跡地も見てきたのだ。
今のところ、『ティエラ家』は『始祖』の血を色濃く引く家柄だったと推測されている。
が、そこ止まりだ。
それ以上年代を遡ることはできていない。
『ティエラ家』跡地を管理していた自動人形、バセスⅨ改め『パルマ』……仁の配下となった……も、それほど遡った歴史は知らなかった。
というのも、ローレン大陸の北の地『ニューエル』は、他の国々とは没交渉だったのだから無理もない。
かろうじて今の『ノルド連邦』からやって来る者を『マレビト』と呼んでいたくらいである。
つまり、『ニューエル史』はわかっても、『アルス世界史』は不明のままなのであった。
積極的ではないにしろ、老君と各地に散らばっている『第5列』たちも、そうした過去に遡るための資料が残されていないか、探し続けてはいる。
だが、『始祖』の時代と『アドリアナ・ティエラ』の時代の空白を埋める、いわゆる『ミッシング・リンク』は見つかってはいない。
『オノゴロ島』の魔導頭脳『テスタ』はそれに近い存在であるが、アルス人類についての情報は皆無といっていいほどで、空白を埋めるには至っていない。
マリッカが傘下に置いた他の『遺跡』の魔導頭脳についても同様で、どうやらアルス人類に興味を持たなかったらしいことが推測されるのみである。
閑話休題。
仁はカチェアの質問に対し、こう答えるしかなかった。
「それはわからないんだ。考古学者たちも懸命に探しているんだろうけどな」
「そうですか、残念です」
技術者ではないカチェアはやはり着眼点が違うな、と思った仁であった。
「さて、それじゃあ次だ……」
仁は『初代の部屋』へ一行を案内していく。
『前期』『中期』『後期』と回りながら、補足説明も行う。
この『アドリアナ記念館』を作った当人からの説明であるから、エイラたち3人は非常に満足したようである。
* * *
時間的には、招待客を案内したときとそう変わっていない。
つまり、そろそろお昼時なのだ。
「混む前に食事にしよう」
仁が言うと、エイラは即賛成した。そしてカチェアとグローマも。
「ああ、いいな、それ」
「行きましょう」
「うん、腹が空いたな」
そういうわけで、午前11時半、仁たちは2階の展望台食堂へ。
もちろんエスカレーターを使ってもらう。
「おお、これはいいな」
「『アヴァロン』にも欲しいね」
実のところ、『アヴァロン』にはエレベーターと階段はあるが、エスカレーターはないのである。
「移動速度はエレベーターの方が速いかもしれないが、こうしてオープンな空間を移動できるというのは違った快感があるよ」
「そういうものかもな」
エイラの意見に仁も賛成である。
さらにカチェアは、
「エレベーターでの移動って間欠的じゃないですか。ですがこのエスカレーターは連続的ですからね。待ち時間がないというのはストレスが溜まらなくていいんじゃないでしょうかね」
と分析したのである。
「なるほどな……」
スキー場や観光地でも、ロープウェイもしくはゴンドラリフトが架かっている所が多い。
ロープウェイだと、15分とか20分間隔で運行され、それが着くまでは立ち止まったまま待たされてしまう。
が、ゴンドラリフトの場合、待つ人の列はゴンドラの乗員分ずつ常に進んでいくことになる。
かつて仁が現代日本にいたとき、社員旅行で行った中央アルプスの観光地は定員61人のロープウェイで、南アルプス前衛の観光地は6人乗りのゴンドラリフトであった。
仁自身としては、カチェアの言うように、動く時は一気に動き、そうでない時はただ止まって待つだけのロープウェイよりも、少しずつ進んでいくゴンドラリフトの方がイライラしなくていいな、と思ったものである。
そして展望台食堂へ。
まだ11時半なので、お客はチラホラとしか来ていない。
それで仁たちは窓際の席に座った。
すぐにウェイトレス役の『スタフィ』が注文を取りに来た。
仁はエイラたちとともに『日替わりランチ』を注文したのであった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
本日3月2日(火)は14:00に
異世界でホムンクルスになっていたのでスローライフを目指す
https://ncode.syosetu.com/n8402fn/
を更新します。
こちらも応援のほどよろしくお願いいたします。
20210302 修正
(誤)「ティアラさん……この方がいらっしゃったから、
(正)「ティエラさん……この方がいらっしゃったから、




